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オオカミ様のいうとおり【改訂版】  作者: よしてる
外伝・側近達の日常風景

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EarlyDays   Side:ティアラ


ひんやりとした空気の中、もふっと温かい、世界で一番安心な場所で、ちょっとだけ特別な時を過ごそうと計画してみたティアラは懐中時計に注目していた。


もふっとした毛布の役目を担っている古代種の大狼は、風邪など引かないよう尻尾で気を配りながらも、不思議そうに見守っている。


今日が少しだけ特別なのは、いつもなら夢の中で会っている時間帯なのに直に会いに来ていることと、一年に一度の区切りの日であること。

普段なら、こんな時間にカミのねぐらにいるとなれば、兄に二度と会わせないと怒られそうなものだけど、今日だけは苦々しくも許されたことも、特別と言えば特別であるのかもしれない。


コチコチと進み続ける秒針を追い、今にも話しかけてきそうな大狼に、あと少しだから待っててほしいと願っている内に、待望の位置に針が揃う。


「あけましておめでとう。今年も、よろしくお願いします」


これだけと言えば、これだけのこと。

だけど、今年はどうしても一番に言いたかったし、その瞬間を一緒に過ごしたかった。


カミは少し驚いた後、優しく笑って、同じ言葉を返してくれた。

もちろん、大狼なので表情では判断し難いことではあるのだけど、幼い頃から一緒にいるティアラには造作もないことだ。


「今年は特別、いい年になりそうだな」


なんてことまで言ってくれるカミは、ゆらりと揺れる尻尾を、すぐさまティアラに寄せてくれる。


ティアラにとって、カミの存在は幼い頃から手放せない毛布のような存在だ。

父あり、母であり、親友のようでいて恋人でもある。

両親を早くに亡くし、若くして王となった兄の代わりに最優先に慰め、どこまでも甘やかしてくれる無二の居場所。

なのに、今年になるまで、この大狼が年の変わり目を孤独に過ごしていることに気がつかなかったのは、思い遣りのない自分が迂闊すぎて恥ずかしかった。


去年までは忙しい兄夫婦と夜遅くまで語らう楽しい時間で、翌日にはカミが自分のことのように笑って話に付き合ってくれていた。

その裏で、どんな風に過ごしていたかなんて、気にしたこともなかった。


ティアラは、こんなに無神経でいたら、いつか、すっかり愛想を尽かされてしまうのではないかと不安になる。


ティアラにとって大事なものは少ない。

家族は兄だけ。

王位についてすぐに王妃様が来てくれて家族は増えたけど、どこかで、逆にちょっと遠くなったと思っていた。

来年には赤ちゃんが生まれて更に増えるので、今年はティアラから遠慮すると提案したのは、これでも大人の気遣いができるのだぞというところを見せたかったからだ。


けど、それで、ここに来ているのは、自分に都合がいいからなことにも気づいてしまった。

あの三人でいれば、自分が一番気を遣うべきだけど、ここにいれば甘やかされるだけでいいのだから。


「ねぇ」


呼びかける声は、ずいぶん情けないものになって、一層、子どもっぽい。

だからか、カミには届いてないようで、ぼんやりと遠くを眺めている。

たぶん、ティアラが居場所を奪ってしまった叔母のことを想っているのだとわかってしまったからには、益々、情けなくて仕方ない。


そのくせ、手にしたものを離すのが怖くて、恩返しだと言い訳をして、本気かどうかも怪しい幼い頃の結婚の約束にしがみついている。

きっと、カミの想いは一方通行で叶うことがないだろうから。


「だから、どうか、ずっと一緒にいてね」


音にならない声で祈ると、どこまでも甘くて優しい大狼が冷たい鼻先を寄せてきた。


ティアラにとって、まだ、ここが世界で一番安心な場所。


これは次の春を迎える頃、兄王の独りよがりで打算まみれな思惑によりティアラの特別になりそうな出逢いを果たす年の始めのできごとだ。

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