天の使いの選択~君を愛してしまったから~
短めの短編小説です
始めての短編ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
僕は人間界に使わされた天の使いだ。
名前はクリア。
尊敬する神、リストル様につけて貰った名前だ。
リストル様はこの世界の創設神だ。
でも、この世界が良くない方向にいこうとしてるらしい。
だから、僕を使わせて、この世界が必要か見てきてほしいとおっしゃったのだ。
僕は、リストル様の願いを叶えるため、人間界に降りてきたのだ。
ある時は、町人、またある時は貴族。人間の認識を変えさせながら生きてきた。
たくさんの人間と関わった。
そして、結論にいたった。この世界は必要ないと。
この世界は魔法がある。剣がある。いいことと、思うかもしれない。でも、いいこととも言えない。
神が作った世界だ。間違いはない。けど、あまりにも、争いが多すぎる。
生きるために、生物を殺すのは仕方がない。でも、私利私欲のために他者を殺す。
娯楽のために、命を無駄にする。それを、悲しまない人間が多すぎる。
しかも、他の世界から、人を勝手に召喚し、他の世界に迷惑をかける。うちの神が、相手の神に謝りに行くのだ。毎回。神に迷惑をかけるなどあってはならない。
だから、僕は神の元に帰った。
そして有りのまま報告した。
『そうか、私が自ら作った世界だ。慈悲はある。でも、存在しても生き物同士で争うだけなど、良いことではないな。悲しくはあるが仕方がないだろう。しかし、最後にチャンスを与えたい。1年間何も変化がなければ壊そう。もし、変化があったのならば このまま存在させよう。』
神はなんて慈悲深いのだろうか。最後までチャンスをやるなど
『後一年間、地上で世界を見ててくれないか?私は天から見てる』
「神のお心のままに。」
神が願うのなら最後まで地上にいようでないか。
結局変わることはないだろうがな。
僕は使用人になることにした。世界のことが知れて、関わらずにいられそうだからだ。
公爵家の新人の使用人、それが僕の肩書きだ。
「はじめまして。今日からお世話になりますクリアです。」
他の使用人に挨拶をした。みんな、「ああ」や、「よろしく」など様々だ。ただ、皆やつれていて、素っ気ない。
しかし、そのなかでも、異様な人がいた。
「よろしくね!私、マリア。同い年かな?仕事は私が教えるからね」
ひときは元気な女の子だ。
さしぶりだ。こんな人を見るのは。いや、この人にも裏があるかもしれない。
それから、1ヶ月がたった。
この家の主人は、残酷だ。間違ったら、クビが当たり前。殺すまで言い出したこともある。
僕の部下の精霊たちにも世界を見てもらってるが、良くなることはなく、逆に悪化してるらしい。
しかし、人間も捨てたものではないのかもしれない。そんな思いが出てしまっていた。
理由は、マリアという女だ。
マリアは、この暗い屋敷の中で唯一の光だろう。
他の使用人は暗いのに、彼女だけ明るい。
誰にたいしても平等だ。
この家の使用人は、彼女を守るように、この家の主人に眼をつけられないよう配置を変えたしていた。
彼女は回りを愛し、愛されてる。心から。
始めての人間だった。
悪意などない善意の塊。
彼女とはよく話した。
動物に姿をかえた精霊に対しても、等しく優しい。
精霊たちからも評判が良かった。
半年がたった。
遂に、報告の日だ。
僕の判断でこの世界の行方が決まる。
判断は迷っていた。
なぜだろう、この世界には見切りをつけたはずだ。
この世界は滅ぶべきだ。
他の世界に迷惑をかけ、リストル様の顔に泥を塗る。
なのに、なのに、どうしても彼女の顔が浮かぶ。マリアの顔が。
「どうしたの?そんな顔して。」
後ろからマリアの声が聞こえた。
「マリアさん。すいません、考え事を…」
「大丈夫よ。暗い顔してたから気になっただけ」
「そうですか。」
「なんかあったの?」
「いえ、大丈夫です。ちゃんと平等に考えるべきなのに、どうしても私情が…」
「そう…」
彼女は優しい目で僕を見つめてきた。
そんな眼をしないでほしい。
僕は君を殺してしまうのだから。
この世界が滅ぶまで、1ヶ月。
僕は、考えを変えなかった。
この世界は滅ぶ、それは変わらない。
『クリアよ、もう戻ってよい。この世界は滅ぶ。君や、他の精霊そして私で、新しい世界を作ろう。今度は争いない世界を。この世界にいては、君も滅びてしまう。準備の都合もある。それと、もし連れてきたい人間がいたら、1人までなら、いいよ。』
神は、そういった。
きっと僕のことを見ていたのだろう。
僕は、マリアを愛してしまったのだから。
連れていくか迷った。でも、あの優しい彼女に、自分だけ助かるという判断は出来ないだろう。それを、させるのも酷だった。
「皆さん、ありがとうございました。家の都合でやめることになり、すいませんでした。」
まわりは、くれぐれも主に見つからないように気を付けろ、と言ってくれた。
「クリア、少し話したいことがあるんだけどこのあといい?」
「マリアさん、わかりました。」
僕も話すことがあるのだ。
「で、話とは?」
屋敷の裏に、二人でたっている。
「あのね、私小さい頃からこの家で働いていて、二年くらい前かな?この家の長男に襲われたことがあるの。嫌で、嫌で、でも逆らえなくて、私はその後辞めたことになってるの。でも、働くところがなくて、ここで変装しながら働いてるの。その事をクリアに言わないといけないと思って。だって、私、クリアのこと好きだから。誰にたいしても、優しく、時に残酷だけど、平等で、何もかも完璧で、汚されてしまった私には合わないような人だけどそれでも好きなの。どこにもいかないでほしい。」
分かっていた、彼女の暗い過去を、彼女が僕に好意を寄せているのを。僕が彼女に好意を持っているのも。でも、でも、それは叶わない恋で、叶ってはいけない恋なのだ。
「そうですか、でも、僕はあなたに伝えないといけないことがあるのです」
「えっ?」
彼女は不思議そうに首をかしげた。
「僕は、最低な人です。いえ、人ではありません」
そう言って、今まで隠していた羽を広げた。
マリアは眼を見開いてる。
「僕は、神の使い、いわゆる天使なのです。そして、僕は…」
今までのことをすべて話した。
淡々と、何も感じてないように。
地上に降りてきた理由。
これまでの生活。
僕が出した判決。
そして、この後の世界について。
「そう、なんだ…」
彼女は、涙を一粒だけ流した。
彼女はこれで僕に見切りをつけてくれる。
それでいい、それでいいんだ。
「だから、僕は人を好きになれない。さよなら。」
彼女を連れていくことは出来るけど、それは彼女にとって辛いこと。そんな判断をさせたくなかった。これは僕のエゴだ。
後ろを振り向いて飛びだとうとする。
「まって、謝りたいの。」
そうか、彼女も媚びるのか。信じてたのに。
いや、裏切ったのは僕だ。でも、罵ってくれた方がいい。
「ごめんね、辛い決断をさせて。」
えっ?
どういうこと。
この世界を残してくれ、とか、これから直すから、とかじゃないの?
「あの時、悩んでたのはこの事でしょ?したくない決断をして、そして私に嫌われようとこんな話をさせて、ごめんね。貴方は、優しい天使、いや、優しい人だよ。」
やだ、これ以上聞きたくない。
これ以上聞いたら、もうこの世界に見切りがつかなくなる。
黙って翼を広げて、逃げるように飛ぶ。
「ありがと…」
そんな言葉が聞こえた気がした。
寒い夜の風は肌に刺さった。
今日は、世界が滅ぶ日だ。
1ヶ月前のあの日から、地上に降りてない。
新しい世界のために魔力を注いだり、どのような設定にするかを決めていた。
今までは、神のために働けたらそれでいいはずだった、でも、力が入らないのだ。こんな感情に支配されるなんて。
滅ぶまであと数刻だ。
この世界は、なくなる。新しい世界ができる。
でも、ずっと彼女の顔が浮かぶ。
揺れる茶色の髪に、笑ったときに細くなる茶色の目、すべてが愛しく感じる。
彼女もいなくなってしまう。
そう思ったら、翼を広げていた。
『クリア!どうしたんだ。』
後ろからリストル様の声が聞こえる。
「リストル様、すいません。」
それだけ言って、地上に降りてきた。
彼女を天界に連れていくことはしたくない、かといって彼女がいないのに生きるのも僕にはもう出来ないだろう。
だから、僕のする決断は
「マリアさん」
彼女は屋敷にいた。働いていたのだ。
世界が滅ぶのを知っていても、特に騒ぐこともなく、淡々に。
「く、くりあ?」
彼女は目に涙を浮かべて振り向いた。
ここは、屋敷の裏だ。雑草を抜いていたみたいだ。
「どうして、ここに。今日は…」
消え入りそうな声で言った。
僕は彼女の言葉を遮るように!彼女を抱きしめていた。
「えっ?」
「ごめんね。僕は、君のことが好きだった。でも、君を愛するのが怖くて嘘をついてた。君に嫌われようとした。あと数刻で、この国は滅びる。それまでの間で、いいから、君のそばにいたい。」
「でも、それじゃあ!」
「僕は滅びる。この世界と君と一緒に。この世界の崩壊を止めることは出来ない、君と僕だけ助かることは出来なくもない。でも、僕は君にそんな判断をさせたくない。これは僕の我儘だ。この世界を滅亡させようとする僕の願いを聞いてくれる?マリア」
「どうして、自分を酷く言うの?そんなの、はい、決まってるじゃん。」
涙を流しながら笑顔でいってくれた。
あぁ、もっと前に君と出会いたかった。
君を愛することがなければ、きっと天界で平穏な日々を過ごしただろう。
でも、僕は君に出会えて良かった。
世界が終わる日、僕は君を抱き締めた。
僕の存在はこの世界と共に、彼女と共に消えていく。
唇を重ねたその時、僕は初めて幸せを感じた気がした。
この世界が滅ぶまで、僕たちは穏やかな時を過ごした。
神は知っていたのだろうか、この二人の結末を。
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