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ゲーム知識をフル動員して、このダンジョンをどうにかしていきましょう。
もしこのダンジョンがあのゲームのままのダンジョンなのでしたら…、おそらく全体的な構造はこの用になってるはず。
全体で100階層でできているはずですわ。
20階層ごと(1〜20、21〜40…)に景色がガラッと変わりますの。
20階層ごとにA〜E階層と呼ぶと、最初はA階層は岩肌の洞窟ダンジョンで始まりますわ。
続くB階層は水晶ダンジョン、C階層は灼熱の溶岩ダンジョン、D階層は森林や砂漠が組み合わさった自然ダンジョンです。
最後に自然を踏破した先に現れる暗黒竜城の中に入り、城内ダンジョンのはず…。
しかし、おかしいですわね。
この玉座の間はまるでA階層の洞窟ダンジョンの中ですわ…
わたくしの本を取り出して開きます。
そういえばこの本って先程お声を出してたような気がしますが、ひとりでにお話になったりするのでしょうか?
『いいえ、基本的にはお話しません』
あ、なるほど?
これは心に直接聞こえてくる系ですね。
『はい、そのとおりです』
あれ?でもベアト様にも聞こえてたような気がしたのですが?
『ダンジョンマスターやサブマスターにはグループチャットのように聞こえるようにすることができます。今はお休み中ですので、聞こえないよう調整しております』
なるほど……。
では、現在のダンジョンの情報をあらためて確認させてください。
『わかりました』
そうして、ひとりでにペラペラとめくれて……ダンジョンの概要がわかるページが開きました。
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暗黒竜のダンジョン
階層(20/100)
所持DP:50,000,000DP
維持コストDP: 100,000,000 DP / day
コスト内訳
・1階層:1,000,000DP
・2階層:1,000,000DP
・3階層:1,000,000DP
・4階層:1,000,000DP
・5階層:1,000,000DP
・6階層:1,000,000DP
・7階層:1,000,000DP
・8階層:1,000,000DP
・9階層:1,000,000DP
・10階層:1,000,000DP
・11階層:1,000,000DP
・12階層:1,000,000DP
・13階層:1,000,000DP
・14階層:1,000,000DP
・15階層:1,000,000DP
・16階層:1,000,000DP
・17階層:1,000,000DP
・18階層:1,000,000DP
・19階層:81,000,000DP
・20階層:1,000,000DP
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な、なるほど?
なぜ19階層目だけ、維持コストが高いのでしょう?
『はい、19階層には強力なモンスターとして、ドラゴンゾンビを配置しております。このモンスターの維持には1日に八千万DP のコストが必要となります』
なるほど……それに比べて他の階層はすべて百万DPですのね。
『はい、これらは岩壁の洞窟の階層の維持コストでございます』
ふむ、大体わかりましたわ…。
『ご理解の一助となれたこと嬉しく思います。』
ドラゴンゾンビとは、ゲームの中でも出会ったら、かなり避けて通りたモンスターでしたわ。
戦ってもドロップが美味しくない、いちおう呪われた竜の魔石や、まれに不死属性をもったアクセサリや素材を落とすこともありましたが、そういったドロップを顧みてもですよ、不死であることに由来するそのタフネスのせいで、聖属性の武器と防具で固めたキャラクターでパーティを組まない限りは、正直倒し切るのがめんどくさい相手でございました。
たしかにダンジョン内の障壁として配置するモンスターとしては優秀でしょう。おそらく階層主として設定することで、退却不可能な部屋などで、確実に戦闘になるでしょうから、対策をしていないパーティーが出会ってしまうと、初見殺しの鬼門になってしまうでしょうね…。
現実にあると、いわゆる、「戻ってきたものは誰もいない」シリーズですね。
『お褒めいただきありがとうございます。このモンスターはベアト様がこのダンジョンのマスターとなった後、高い維持費の関係から20階層より上をすべて撤去した後に、せめてもの守りの要として、ドラゴンタイプのモンスターをご希望されたので、おすすめさせていただいたものになります』
しかしこのモンスターがいなければ、ベアト様はあんなふうにならなくていいのでは?
『たしかにそうなのですが、さすがにベアト様も初めてのダンジョンマスターとして、強いモンスターに守護されない状態では不安でしょうし、致し方ないのではないでしょうか』
なるほど、まぁ、そうなのでしょうけど…ちなみに、これまでの侵入者の履歴などはありますか?
『はい、ございます』
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侵入者:0人
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ほえ?
どういうことですの?
『はい、ベアト様がこのダンジョンを引き継いでからの侵入者は0人でございます。これは人型の魔物などの侵入も計上されますが、それもなかったということです』
なるほど?
では、昔はどうだったんですの?
『それはお応えできません。申し訳ございません。』
なるほど……、これはマスターが異なる場合の情報共有は、たとえ同じダンジョンであっても行えないということですかね……。
『……』
なるほど、このあたりのルールは説明できないパターンですのね。
先程まで、それなりに饒舌に語ってくれた本がいきなり黙ってしまいましたわ。
『いちおうですが、私の名前はダンジョンマスターブックです』
なるほど、聞こえていないわけではないのですね…。
まぁ、いいでしょう。
このあたりの挙動の確認は思いついたら色々やっていきましょう。
さて、では手始めに、ドラゴンゾンビを削除しましょう。
『削除する場合は、本日の維持費が一部返却されます。5000万DPです』
では、実行してください。
『実行しました。ドラゴンゾンビが消えて、このダンジョンにはダンジョン産のモンスターは0体となります。また一日の維持コストは2000万DPとなります」
ふふ、これくらいなら、ベアト様でも、涙か、鼻水くらいで維持できそうですね。
『恐れながら、シャル様の魔力をすべて使えば1000万DP程度であれば、維持可能なように見受けられます』
あら、バレてしまいましたか?
とはいえ、それはベアト様にはお伝えしなくても結構です。
わたくしが魔力をDPに変換しようとしてしまった場合、絶対に、絶対に、お見せすることができないような状況が、衆目の目にさらされてしまいますわ。
わかりますの、わたくし悪役令嬢としての性として、そういう事象については、無駄にバフがかかるということがよくわかりますの。
おそらくゲームの強制力が弱くとも作用してしまうのですわきっと。
うぅ、そもそも、なんでわたくし女装キャラなのでしょう…。
いろいろ試してみたのですよ?
前世は男性だったのですし、今だって男性なのですし、男性のような振る舞いや格好にチャレンジしたことはあるのですよ。
でもですね、これまで幾度となくさまざまな事象が重なり、いまのように女装悪役令嬢に戻ってしまうのですわ。
ですので、とっくの昔にこのことについては諦めました。
ゲームの強制力には逆らえないのですわ。
とくに細かい設定についてほど抗えないないのですわ。
コホン。
とりあえずそのことは忘れましょう。
とにかくこの魔力をつかってDPに変換するテクニックは、わたくしは封印ですわ。
最悪の醜態が絶対発生する系のイベントですわ。
ベアト様でさえあの状況、わたくしの身にふりかかったら、おそらく100倍はやばいことになりますわ。
ぜったいのぜーーーったいに乙女ではいられなくなりますわ。
そういえば、先程のドラゴンゾンビを削除して得られた5000万DPともともと所持していた(ベアト様が頑張ってためた)5000万DPをあわせて1億DPもありますのね。
ふむ、何に使いましょう。
とりあえず維持コストを下げただけですと、明日の朝目覚めたベアト様がお切れになって、わたくしにどんな暴力が降りかかってくるかわかりませんわ。
とはいえ、頭はそれほどよろしくないようですので、うまく説明すれば言い逃れ出来そうではありますが。
ベアト様はいわゆるちょろい系だと思いますわ。
『……』
あ、ブックさん、ベアト様に伝えましたら、一枚ずつページやぶきますからね?
『ブルブルブル』
よろしい。
あ、そういえば今のちょっと悪役令嬢っぽかったですわね。
さて、ゲーム知識を思い出しましょう。
ラストダンジョンの付近には何があったか…。
あ、そういえばラストダンジョンの位置がわたくしの想像してる位置とあっているか確認しましょう。
おそらく、わたくしの家であるエルミート公爵家の広大な領地の北にある山脈の裾野ですわよね?
『はい、ご認識のとおりです』
あらよかった、これであれば、多少はゲーム知識を使って、いい感じにやれますわ。
要はDPを稼いで、少しずつダンジョンを育てればいいのでしょう?
余裕ですわ〜。
なにせ、わたくし、エルミート公爵令嬢ですのよ?
いつかは国の執政に携わる身として、幼い頃から勉学に励み、すでに10歳のときには父の教育の一環として、一部の街を治めておりましたわ。
そもそも、この世界の中でのダンジョンとは何なのか。
はっきり言って、解明されておりませんわ!!!!
学園の1年の授業でも、なんもわかってないことがわかっていますわ!!!!
しかも学園自体がダンジョンだなんて、世間一般では気づかれてさえいませんでしたわ!!!!!!
ですので、ここがダンジョンとして栄える必要はないのです。
ふふふ、公爵令嬢の力をお見せいたしますわ。
たしかわたくしの領土にはドワーフさんが何名か鍛冶師としていらっしゃいましたわよね……。
「うふふふふふ……」
うー、GWなんてなかったんですわ。
75ビールおいしいです。
最近リアルの口調にシャルが出てきて困っています。
そんな著者が書くものがたりですが、気に入っていただけたなら、星1からで良いので、ぜひご評価ください。