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目の前には自分で出した液体で顔を汚した少女が倒れています。
(寝ていると言ったほうが良いのかしら?)
わたくし、前世で酔いつぶれたおっさんのフォローをしたことがありますの。
ですから、ゲロまみれでもなし、そして酒臭いわけでもなし、そんなきれいな少女がちょっとくらい自分で出した液体でべろべろにお顔を汚していても、わたくしからしたらなんてことはありませんわ。
わたくし、お嬢様生活は長かったですが、それなりに自分のことは自分でできます。
こういうときもちゃんと対応できますわ。
いまだってこうしてハンカチを取り出してですね。
ベアト様のお顔をふいて差し上げてますのよ。
(フキフキ)
起こさないように優しくフキフキして差し上げます。
(フキフキ…)
(ふぅ、だいたいきれいになりましたわ)
それにしてもこれからいろいろとどうしましょう。
本当に…まったく…。
このダンジョンへ攫われるというイベントは、ゲームにありましたでしょうか?
正直、ゲームをやり込んだわたくしであっても、このようなイベントは把握しておりません。
もしあったのだとしたらわたくしの死後に発売されたであろう、ゲームの続編やアペンドディスクという展開でしょうか……。
しかしそう仮定してしまうと、わたくしのゲーム知識はあまり役に立たなさそうですし、ベアト様が真のラスボスだとしたら、ラスボスと一緒に悪役令嬢がラストダンジョンをつくるなんて、完全にわたくし参謀ポジションか、中ボスポジションですわ。
困りましたわ。非常に困りましたわ……。
もしあの主人公がこの展開を知っていて、わたくしを一人のけ者にしていたのだとしたら、それは大変に厄介なことだということですわ。
現状あの主人公は聖剣を持っています。
それにわたくしの知っているゲームではほぼ最高戦力のパーティーであるハーレム状態(わたくし抜きではありますが)ですし、おそらくそうなると連携魔術や三角魔術みたいなマップ兵器的な火力魔術も行使できるでしょう。
うーん、もしも……、もしもですよ。
今がそういう状況なのだとしたら、学園にわたくしが帰ると、逆に、即、断罪イベントが発生してしまったりしませんでしょうか?
例えば……
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お兄様「おい、シャルが戻ってきたぞ!」
従僕「クッ性懲りもなく!!!キサマがあの暗黒竜にこの学園を襲わせたのだろう!!!!」
王子1「無事に帰ってきているのが何よりの証拠だ!!!」
王子2「キサマがこの世界の破滅を企む暗黒竜の仲間だというのは、主人公が見つけてくれた証拠でハッキリわかってるんだ!」
わたくし「そ、そんな><;」
そして => 断罪 => 絞首刑 or ギロチン ですわね。
(なんで他のゲームでは、たまによく見る生きたまま国外追放ルートがこのゲーム無いのでしょう…)
(お兄様も従僕も断罪イベントではわたくしの味方になってくれないのでしょう…普段はあんなに仲がいいはずなのに…)
※これはシャルの想像です
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うーん、駄目ですわ。
普通にこのまま戻っては断罪率30%くらいありますわね。
これまでもこういうリスクを可能な限り避けてきました。
ええ、こんなところで死んでたまるものですか!!
ふん、ふん、と鼻息をすこしだけ荒く、そう決意していたわたくしの手元には可愛らしい少女がその寝顔を晒しているではありませんか。
決めました!
ここに至っては、もはや贅沢は言ってられませんわ。
今後は暗黒竜ベアトリーチェ様としばらくは一蓮托生と行きましょう。
これもゲームの強制力と受け入れつつ、そして今後もわたくしが断罪されそうなフラグと思われるものはできるだけ避けつつ……。
と、まぁ……思ったわけですが、とりあえずですよ。
とりあえず。
ベアト様を寝室まで運ぶイベントをこなしましょう。
えーと、これはお姫様抱っこで運ぶべきでしょうか。
身長がわたくしとベアト様ではほとんど変わらないので、長身イケメン攻略対象たちが行うのに比べ、少しアンバランスではありますが、ベアト様は少女で、わたくしは一応♂でございますし。
何ら問題ないはずですわ!!
うーん、生まれてはじめてのお姫様抱っこ、本当にわたくしがする方でよかったのか、それとも展開的にはされる方が良かったのか。
この問題についてはすぐに答えは出ないでしょうけど、いまはもう、エイヤッとベアト様をお姫様抱っこで抱えることにいたしましょう。
(軽いですわね)
先程、わたくしを押さえつけたり、持ち上げたり、さらには手かせ足かせを引きちぎったりと、わんぱくぶりを発揮していたベアト様ですので、もっと硬い質感を想像しておりましたが、そこはやはり見た目通りの少女でございました。
しかもなんですか?
いい香りしますよね?
少女特有のやつですよきっとこれは。
前世で少女の香りのするボディーソープを愛用していたわたくしはわかります。
前世の古代中国というところでも桃だけを食べさせることで、最高に少女の香りとしていたとか聞いたことあります。
この暗黒竜、ベアト様はデフォルトで少女の香りです。
よくわかりませんが、これはけしからん。
けしからんです。
さて、お姫様抱っこ程度で、戸惑っていてはいけませんわ、このまま奥のお部屋までお運びしましょう。
そうそう、魔力のない前世と違って、今世のわたくし自慢ではありませんが、魔術に関してはかなりの腕前ですのよ。
そしてなんと手を使わなくてもドアを開けたりできるのですわ!!!
(圧倒的特技ですわ!!!)
まぁ便利!
実は他の方がこういう魔術行使を行ってるは見たことありませんの。
おそらく、もしこれができると知られると、スカートをめくっためくらなかったで、揉めたりするでしょうし、みなさま内緒にしてるのでしょう。
おそらく……。
(これが転生のときに授かるチート能力とかだったらしょぼいですわよね。きっと一般的な能力ですわ。)
そうして、わたくし、ついに、ベアト様の寝室に侵入いたしました。
「失礼いたしますわ」
そこには天蓋付きのお姫様が寝るような素敵だけど少し大きな寝台がありました。
それ以外には特に家具もなく、生活感のなさにこの子は大丈夫なのかと、わたくし心配になってしまいました。
壁はむき出しの岩壁ですし…可愛らしい寝台と比べてアンバランスですわ。
あ、でも絨毯はちゃんとありますのね。
うーん、ドラゴンだから、最初は裸足で生活してて、痛かったとかでしょうかね。
さて、ベアト様を寝台に寝かせて、私はお部屋を出ますわ。
え?その先は?と声が聞こえた気がしましたが……。
(わたくしは令嬢であり、紳士でもあるのです。はしたない真似はできませんわ)
そうしてわたくしはベアト様の寝室を出て、再び玉座の間へ戻ってきたのでした。
「さて、では始めましょう」
コロナで家に引きこもっているため、ついにアルコールが消毒用だけになりました。
ど……ど……どうすれば?
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