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「こんな事になったのも、全部あの主人公のせいですわ!」
岩肌むき出しの洞窟に閉じ込められたわたくしはこう叫んだのでした。
失礼、いきなり叫ばれても、読者の皆様にはよくわかりませんよね。
少しだけわたくし、シャルロットの自己紹介をいたしますわ。
わたくしが転生者だと気づいたのは5歳のときでしたわ。
突然の高熱を出す幼かったわたくしはその時前触れもなく日本で過ごした日々を思い出したのです。
思い出した記憶は日本でのつらい社畜の日々でしたの。
優秀だったわたくしは燃え上がる炎上プロジェクトの火消し役としてがむしゃらに目の前の仕事を倒し続けていましたの。けれど倒せどもすぐに次の炎上プロジェクトへ送り込まれてしまい、倒しても倒しても終わらないデスマーチの日々でしたわ。ついには30歳を迎える前に本当に燃え尽きてしまいましたの。
そんなわたくし、前世では男性でございましたが、大学生のころの彼女の影響から乙女ゲームを少々やりこんでいましたの。当時のわたくしにとって炎上プロジェクトの合間にプレイする乙女ゲームは心のオアシスでしたわ。
その時やり込んだ乙女ゲームの一つに「ソフトハウスカルーア」というメーカーの「ヴァンデリンの森の中」というゲームがありましたの。
そう!記憶を取り戻して、気づいてしまったのです!
「はっ!わたくし!乙女ゲームの世界に来てしまったのですね!」
わたくしの名前シャルロット・エルミート、攻略対象として登場する兄のジャン・エルミート、その他諸々がこのゲームで見たことがあるものでしたの!
ということは、ここはいわゆる乙女ゲームの世界ですわ。そしてわたくしが|主人公を邪魔する悪役令嬢なのですわ!!!
この世界が本当にゲームどおりに進むのなら、私はいくつかのルートで死ぬ運命にあります。
王道攻略対象であるこの国の第2王子であるアンリ様ルートでは、平民である|主人公が王子に好かれること自体が気に食わず、身分の差を笠に着て、様々な嫌がらせ、最後には暗殺まで企てるも失敗し、断罪イベントで王子に証拠を突きつけられ国外追放されてしまいますの。
他にもわたくしの婚約者であり、癖のある隠し設定が魅力の第1王子フェリックス様のルートでは、当然婚約者の心が主人公に移っていくのが耐えられず、いろいろあって、暗殺を企てて失敗、こちらは
王子を守ろうと主人公の聖剣でさっくり切られて死んでしまいます。
その他、我が兄ジャン様のルートでも平民である主人公に対して数々の嫌がらせをして…結果は同じような感じです。
とにかくどのルートでもわたくしがライバルとして登場して、そして最後は死んでしまうのです。
救いがない!
しかし、一縷の希望もあります。
やり込んだわたくしだから知っているのですが、わたくしが死なないルートが2つありますの。
それは2周目から開放される主人公のハーレムルートと、私自身のルートですわ。
はい、そうなんです。2周目に限ってはわたくしはなんと攻略対象ですの!
あら?わかりませんか?
ええ、そうなんです…わたくし実は性別は 男 でございます。
男でございます!悪役令嬢(♂)でございます!
普段は女装でしているのです!
こ、これには深いわけが……あります。
まず、わたくしの婚約者である第1王子……実は女性です。ゲーム本編で本人は男性であることを望んでいて、国の守り神でもある聖白竜のお題を主人公と力を合わせてクリアすることで、聖剣が得られ、その聖剣の力で男性になって、最終的に主人公と結ばれるのですわ。
なんて癖のあるわたくしの婚約者……。
はい、第1王子(王女)が男装をしているため、わたくしは女装してゲーム本編に登場するのですわ。
わが公爵家の方針なのです。
わたくしの父は公爵にして宰相を務めるとても有能な方です。優秀故に国益に反することができない父は、国王からの相談に、わたくしを女性として扱うことで解決したのですわ。
家としても兄がいますから、家督は万全、わたくしの嫁入り(?)で王家との縁もバッチリ、我が国は盤石になるのですわ。たとえ兄に何かあってもわたくしがカムバックできるバックアッププランにもなっており、我が父ながら天才かなと思ってしまいましたの。
そう、そんなわけで、わたくしが死なないルートはハーレムルート、またはわたくし自身が主人公と結ばれる悪役令嬢ルートですわ!
この世界は、剣と魔法、森には魔物、山にはドラゴン、ダンジョンにはお宝、魔族を従える魔王が治める国、魔王に脅かされつつも何代も続く王国、典型的なファンタジー世界ですわ。
このゲームはそのファンタジー世界を舞台に繰り広げられる学園恋愛ドラマと冒険RPGのやりこみ要素満載ゲームでしたの。
ですのでわたくし、主人公を落とすべく、記憶が戻ってからは勉強と修業の日々、5歳の時点で婚約は決まっており、わたくしは女装を強制されておりましたが、ゲーム知識と現代知識を使って、がんばっておりました。
そうして万全の体制でのぞんだゲーム本編の王都の学園生活ですが……主人公が、おかしいのです!
強すぎるのですわ。
本来3年生のときに入手する聖剣を1年生の夏には入手して、1年生の秋の野外実習(冒険RPGパート)での敗北確定イベントの暗黒竜戦をその聖剣を使って、勝利してしまったのですの。
おかしいですわ。フラグ回収も高速過ぎますわ。さすがにゲームと現実は違うと言っても……。
(はっ!まさか主人公も転生者??)
そう……気づいてしまったのです……主人公がゲーム知識を駆使して、高速やりこみプレイをしたせいで、もうゲーム通りの展開がなくなってしまったのですわ!
そんなふうに思い始めていた矢先、主人公が倒したはずの暗黒竜に学園が襲撃され、わたくしは運悪く捕まって連れ去られてしまったのですの。
もう主人公のせいでゲームの設定めちゃくちゃになってますわ。
しかもその時、暗黒竜を倒せるはずの主人公はわたくし以外の攻略対象の方々と一緒に温泉イベントへ行ってますのよ!
本来ならそこで、わたくしの浴場どっきりで、フラグが立って、わたくしルートに入る可能性がありましたのに!!!
もう色んな意味で終わってしまいそうですわ。
そうして連れ去られたところが見知らぬダンジョンで、そのまま魔物たちに閉じ込められ、冒頭の展開に戻るのですわ。
初投稿です。書き溜めてはいませんので、続きはすこしお待ち下さい。
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