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第五話:趣味の条件

「ふぅ~」


 湯船に爪先から肩までじっくりと時間をかけて入り、溜め込んだ肺の空気を吐き出した。最近は涼しくなってきたもので、夏場のように一気にジャブンと湯船に入るのは多少厳しい。何より体によろしくない。


とりあえず、頭も洗ったし、体も洗った。後は歯磨きをしてしっかり暖まったら即離脱である。浴室の壁にぶらさげている歯ブラシを手に取り、歯磨き粉を適量付ける。歯磨き粉はフッ素配合の物に限る。詳しい理由は忘れたが、私が中学生くらいの頃にテレビで放送されていた。それから我が家ではフッ素配合歯磨き粉のみを使用している。興味のある人は調べてみて欲しい。歯にフッ素がどれだけ大切かが書かれていると思う。


しかし、この歯磨きをしている時間が問題なのだ。何故なら、


 「……イカン。……眠い」


異様な程に眠くなってしまうのである。肉体労働の仕事をしているため体はソコソコ酷使しており、睡眠時間の短さも相まってこのタイミングはかなりの眠気に襲われる。やはり、寝る前のネットサーフィンは止めるべきだろう。


「……よし。歯磨き終わり」


私は結構歯磨きには時間を使っている。子どもの頃に散々虫歯になりトラウマになったようだ。もう二度と歯医者の麻酔注射は御免被る。後は体を暖めて入浴は終了だ。私は湯船の縁に頭を乗せて天井を見上げながら趣味について考え始めた。


やはり、家でできる事が私にとってはベストだろう。仕事で疲れる以上、趣味でも疲れるのは避けたい。月曜日の憂鬱さが倍増してしまう。ゲームも好きではあるが、最近はとんとご無沙汰だ。昔程に熱中出来なくなってしまったし、なんとなく休日をゲームをする事で終わらせると虚無感が半端ではない。何かしら形に残る事を趣味にしたい。


以前、仕事で講習会に出席した際に『生き甲斐』

についての話が有った。


簡単に言うと『生き甲斐』を感じる物は三つの要素を秘めているらしい。


一つ、自分が得意としている事。

一つ、人の役に立つ事。

一つ、少々でも収入になる事。


これらが揃って生き甲斐となるらしい。確かに、『趣味』に『生き甲斐』を見いだそうとしている私にとっては納得のいく話だ。上二つはともかくとして、最後の一つについては疑問に感じる人も居るかもしれない。少し補足しておこう。少々の収入とは具体的には『自分に対する多少のご褒美になる程度の金銭』である。帰り道にジュースを飲んだり、酒の肴が一品増えたり、もしかしたら、欲しいゲームソフトが買える程度だったり。そのぐらいの金額だ。やはり人とは多少の報酬が無ければ動けないものだろう。


ボランティア等を例に挙げて疑問を投げ掛けて来る人も居るかもしれないが、アレは『活動をしたことに対する世間からの評価』又は『活動に対する助けた人からの感謝の気持ち』どちらかがボランティアをした人に取って相応しい報酬となっているはずである。最近は就活の面接でアピールするための材料にボランティアをする人も多いらしい。まぁ、人の役に立っているのだから下心やらは別にどうでも良いだろう。やりもせずに文句を言う人間の百倍良い。


 さて、これまでの話を踏まえて私が趣味とするにあたり、有ったら良いであろう条件をおさらいしよう。


 家で出来る事。

 何かしら形に残る生産性のある事。

 生き甲斐を感じる三要素を含んでいる事。


これらが充足されていれば私はその『ナニカ』を趣味として嗜んでいけるのかもしれない。しかし、そんな都合の良い趣味があるのだろうか?


「んーー。……思い付かない」


私はそう呟いて目を瞑り、脱力しながら湯船に体を預ける。


そうそう簡単に思い浮かぶなら苦労はしない。一先ずは趣味をしっかり吟味しよう。考えて想像するだけなら別にタダなのだから。とは言え、早く夢中になれる趣味は欲しい。


そんな事を考えていたら私の意識が段々と薄れてしまい、最後には闇の中に消えてしまった。





「……。寒っ!」


 どうやら湯船の中で眠ってしまったようだ。時間を確認すべくいつも身に付けているGショックの腕時計を見る。……午前二時である。やらかしてしまったようだ。今の仕事に就いて稀にこのような事がある。長風呂癖もあり、浴室内での寝オチ率はソコソコ高い。


「あーー。時間を無駄にした……」


すっかり冷めきった湯船から出てシャワーを浴びる。体を暖めるのも程々に私は浴室を後にした。


明日は六時過ぎには起きなければならない。さっさと寝て明日に備えないと下手をかましたら死にかねない。文字通りに。


さっさと体を適当にタオルで拭き、寝間着に着替えて即座に自分の部屋へ向かう。まぁ、趣味については仕事中に考えれば良いだろう。こういう時に肉体労働は便利である。事務仕事とは違い頭を別の事に回す余裕はある。まぁ、下手したら死にかねないが。


布団にモソモソと潜り込みながら私はそんな事を考えていた。そして私の意識は再び闇の中に溶けていった。

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