7.離婚。そして、別れ
2017.12.12 オスカーの名前がオリバーになっていた箇所を訂正。
実家に戻った私に、お父様は何も心配はいらないとおっしゃいました。
この国では、正式に廃嫡するには陛下の許可が必要なのだとか。
勝手に廃嫡しても、新たな後継ぎの襲爵が認められないそうです。
陛下はお母様の実の兄ですから、旦那様より姪の私を信じてくださるだろうとお父様は仰いました。
でも、教会の離婚審査官が私の浮気を認定しましたら、廃嫡せざるを得ないのではないでしょうか?
私は、とても不安になりました。
私は、浮気しておりません。
でも、それを証明出来ないのです。
結婚後、旦那様以外の男性に一度も会っていない訳ではないのですから。
勿論、二人きりで会った事等ありませんが、侍女達が浮気に協力したのだろうと言われては、協力していない証明は出来ないと思います。
ただ、ラッセル伯爵が相手ではないとは、流石に判って頂けると思います。
だって、披露宴の参列者全員が協力したとか、奥方のエマ様が協力したとか、先ず無いですものね。
実家に戻ってから三日後。
教会の離婚審査官達とお会いしました。
「あの……。今何と?」
私は、彼等の説明に耳を疑い、聞き返しました。
「もう一度言いますが、クリスプ伯爵は、『神に誓って』自分の子ではないと仰いました」
何と言う事でしょう! 神に誓ってまで否定すると言う事は、私が浮気したのは事実なのでしょう。
私の元へ通っていたのは、旦那様では無かったのです!
顔を覚えるのが苦手な私だけではなく、侍女達まで間違えるほどそっくりな偽者を用意して、私を抱かせていたなんて……。幾らなんでも酷過ぎます。
涙がこみ上げて来ました。
「クリスプ伯爵夫人。浮気したのは事実でしょうか?」
「……は……い」
認めたくはありませんでしたが、否定しては神の怒りを買うでしょう。
そう思って、嫌々肯定しました。
「お相手は何方でしょうか?」
「判りません……」
「関係は、何時から始まりましたか?」
「旦那様と結婚してから二ヶ月ほど経った頃からです。月に一度別宅を訪れ、私が妊娠したと旦那様に知らせると、パタリと来なくなりました」
私は、涙をハンカチで吸い取りながら、答えました。
「クリスプ伯爵にですか? 浮気相手にではなく?」
離婚審査官の一人が、小首を傾げて確認しました。
「はい」
「浮気相手の方とは、どのように出会ったのでしょうか?」
「その方は、初めて関係を持った当夜に、クリスプ伯爵家の馬車で・旦那様の従者を連れ・旦那様の振りをしてやって参りましたわ」
離婚審査官のお二人は、顔を見合わせました。
「それは、クリスプ伯爵本人では?」
「いいえ。だって、旦那様は、オスカーが自分の子ではないと神に誓われたのでしょう? ならば、別宅に通って来ていたのは、旦那様ではあり得ません」
「……他に浮気相手はいませんね?」
「神に誓って、居りませんわ!」
「ありがとうございました。関係者に話を聞いてから判断致しますので、後日ご連絡差し上げます」
それから、数日。
私は、私の所為で妹の縁談に支障が出るのだろうと思い、申し訳無い気持ちで過ごしておりました。
妹はそれを察して、「私と結婚したら公爵家の跡取りになれるのだから、大丈夫ですわ」と慰めてくれましたが、罪悪感は拭えませんでした。
オスカーが赤ん坊で、まだ何も解らないのは不幸中の幸いでしょうか?
成長すれば、自分が母の浮気で出来た子だと知ってしまうのでしょうが……。
「奥様。少しは召し上がらないと、御身体に悪いですわ」
朝食を一口だけで止め・昼食を要らないと言った私に、侍女が心配そうにそう言いました。
「ええ。解っているのだけれど……」
食欲が無くて、吐き気がするのですもの。
「失礼致します。ソフィア様、離婚審査官が明日いらっしゃるそうです」
そこへ、執事が知らせに来ました。
いよいよ、私の浮気が公のものになりますのね。
「お痩せになりましたね……」
「そうらしいですわね」
「遅くなりましたが……クリスプ伯爵夫人。貴女の浮気疑惑は晴れました」
思ってもみなかった言葉に、私は呆然としました。
「え?」
「もう一度クリスプ伯爵ご本人とお話しした結果、気が触れていると判断しました。証言には、信憑性も辻褄もありません」
ああ! では、私は浮気していないのですね!
「では、オスカーは旦那様の子で間違い無いのですね?」
「そうなります」
「良かった……」
私の目からは、安堵で涙が溢れました。
「クリスプ伯爵夫人。我々は、伯爵との離婚をお勧めします」
「そうしますわ。旦那様の気が触れていては、オスカーが危険ですものね」
離婚届を出すのは、お父様にお断りをしてからにしましょう。
そう思って、お父様のお帰りを待ちました。
帰宅したお父様は、既に私の浮気疑惑が晴れた事を御存じで、私は驚きました。
そして、更に驚く事を教えてくださったのです。
「『ヘンリー・クリスプは、気が触れている為当主の資格無し』との陛下の判断により、オスカーが新たな当主となった」
「オスカーは、まだ赤子ですわ」
「心配はいらない。成人するまでは、私が後見人になる」
それは、お父様が『クリスプ伯爵』のお仕事もするという事でしょうか?
お父様の体は持つのでしょうか? 心配です。
オスカーが当主となり、私と離婚したヘンリーは、ミアと共にクリスプ伯爵家本邸を出て行く事になりました。
ですが、二人がそれを拒んだ為に、誰が呼んだのか貴族警察隊がやって来ました。
「畜生! お前の所為で!」
「土下座して謝れ!」
折角結婚出来るのに、ちっとも嬉しそうではありません。
「貴方達は、そんなにお互いと結婚したくなかったの? 気付かなくてごめんなさい。土下座はしませんけれど」
何時の間に、二人の愛は失われたのでしょうか?
「其処じゃない! 何で、俺がクリスプ伯爵家当主の座を取り上げられなきゃならないんだ!」
「全部、あんたの所為なんだから! 土下座しなさいよ!」
「子供なんか作るんじゃなかった! そもそも、お前なんかと結婚しなければ!」
「それは、違うわ。子供がいなくても・独身のままでも、当主に相応しくない事に変わり無いのよ」
私は、優しく言い聞かせました。
「ふざけるな! お前等が俺を嵌めたんだ~!」
「返してよ! 私のものなんだからぁ!」
二人は、貴族警察隊に引き摺られて行ってしまいました。まるで、罪人の様ですわ。
解って貰えませんでしたが、気が触れているのだから仕方がありませんね。
ところで、ミアは、何を返せと言っていたのでしょう?
「大奥様。あの二人の私物はどうしましょうか?」
「ドーラン男爵家に送って上げて」
「かしこまりました」
あの二人が、現状を受け入れて幸せになれるかは判りませんが、最早、私にはどうでも良い事です。
暫くすれば、顔も忘れてしまうでしょう。
ああ。そう言えば、ミアの顔はまだ覚えていませんでした。
お父様は、以前辞めた家令を再雇用し、ミアに無礼を働いたと言う理由で解雇された者達も再雇用しました。
それに、あの二人が戻って来ない様、手を回しているそうです。
ドーラン男爵家に軟禁でもされるのでしょうか?
オスカーが、将来父親に会いたいと言い出したら、どうしましょう?
それまでに治ると良いのですが……。はっ!
今気付きましたが、オスカーはヘンリーの息子ですから、オスカーも気が触れてしまうのではないでしょうか?
どうすれば防げるのでしょう?
私の頭は心配で一杯になり、あの二人の事は当分思い出しませんでした。




