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4.お茶会。愛人の格

2019.03.30 ラッセル伯爵が侯爵となっていた部分を訂正。

2023.01.28 誤字を訂正。

 お父様からお返事と着替え等が届きました。

 改装費用は快く出してくださるそうです。とても有り難いですわ。

 そして、借り物の件は、先方と相談の上でどうするか決めるとの事。私は心配しなくて良いと記されておりました。

 ご好意で貸してくださったのに、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。

 花嫁の幸せを願うおまじない『サムシングフォー』の「何か借りたもの(サムシングボロード)」でしたのに。




 一ヶ月後。

 改装が終わりましたので、私達は宿を引き払い、新たな住処に入りました。

 とても良い感じに仕上がって、嬉しいです。

 お父様に、お礼の手紙を出しました。

「奥様。ラッセル伯爵夫人より、お茶会の招待状が届いております」

「此処に届いたの?」

 私が本邸を追い出された事をもうご存じだなんて、耳が早いわ。

「はい」

「それで、ラッセル伯爵夫人? え~っと……?」

 何方だったかしら?

「旦那様のご友人の奥方様です」

「ああ。披露宴でお会いした赤い髪の方の」

 私は、お茶会に参加する事にしました。

 社交は苦手ですけれど、そうも言っていられません。



 お茶会当日。

「ようこそいらっしゃいました。クリスプ伯爵夫人。エマ・ラッセルですわ」

 ラッセル伯爵夫人は、ラッセル伯爵と同じ位の年齢の女性でした。

「お招き頂き、ありがとうございます。ソフィア・クリスプです」

「ソフィア様とお呼びしても?」

「勿論ですわ」

「では、私の事もエマと」

「ありがとうございます。エマ様」

 案内されたテーブルには、名札が内向きに……私の席から見える様に置いてありました。

「ソフィア様の為に、名札を用意しましたの」

「ご親切に、どうもありがとうございます」



 お茶会が始まると、私は衝撃的な事を聞きました。

「実はね。最初、本邸の方に招待状を差し上げましたら、身の程知らずにも愛人の方から参加の返事が届きましたの」

「まあ。そのような事を」

「御不快を与えてしまって、申し訳ありません」

 私は、28歳にもなってそのような事をするミアの代わりに、謝罪しました。

 家内で正妻の真似事をするだけなら未だしも、他家の方にまで正妻扱いを要求するなんて。

 それが許されない事であると言う事は、私でも知っています。

 もしかして、ミアも『頭が足りない』のでしょうか?

「気になさらないで。旦那様に頼んで、クリスプ伯爵に苦言を呈して頂きましたから」

 旦那様は、ラッセル伯爵の忠告に耳を貸すでしょうか?

「それよりも、クリスプ伯爵と愛人からの仕打ち、さぞかし悔しい事でしょう?」

「お気遣いありがとうございます。でも、私、全く悔しいと思っておりませんの。家も頂きましたし」

「ですが、ソフィア様は正妻ですのに……」

「そうですね。ですから、私、ミアが気の毒で……」

 私がそう言うと、皆様怪訝そうな顔になりました。

「そのような事を思ってやる必要など、ありませんわ」

「ええ。ですが、旦那様は酷い方ですわ。あのように、叶わぬ夢を見させて。あれでは、名実共に欲しくなると思いますわ。ハラハラするのです。『クリスプ伯爵の愛』と言う梯子の最上段に立とうとも、決して届かぬ『クリスプ伯爵の妻』と言う果実を取ろうと背伸びして、何時か落ちるのではないかと」

 私は、ミアの不幸を望んでなど居ないのです。

「そうですわね。灰色の風が吹いて、梯子が倒れるかも知れませんものね」

 『灰色の風』とは、何の事でしょう?

 私は、ミアのあの言動で旦那様がミアを嫌いになるのではないかと心配しているのですが……。

「ですが、あのような女の心配など、しなくても宜しいと思いますわ」

「そうかも知れませんが、私、ミアの様な子供みたいな大人を見るのは初めてで……」

「その事ですけれど、先日の披露宴でのあの女の言動を見た参列者から話が広まりまして、『クリスプ伯爵の愛人は、気が触れている』と言う噂になっておりますの」

「まあ」

 気が触れている。なるほど。そう言われると、そうかも知れません。

 だとしたら、切っ掛けは、旦那様が私と婚約した事でしょうか?

「オリバーの話では、十代の頃は、まだ身の程を弁えていたそうですわ」

 エマ様が、ラッセル伯爵から聞いた話を教えてくれました。

「或る時を境に態度が大きくなって、オリバーやクリスプ伯爵の他のご友人に対して馴れ馴れしくなったとか」

「噂で聞きましたわ。複数の男性と交際していると」

 その様な噂が立ったのですか。余程の事だったのでしょう。

 でも、どうして、態度が大きくなったのでしょう? 頭でも打ったのでしょうか?

「オリバーは賢明にも直ぐに距離を取ったので、噂に巻き込まれる事はありませんでしたけれど……」

「それでも、数年後には、クリスプ伯爵一筋になったようでしたわね」

「ええ。皆様、結婚なされたからでしょうね。頻繁に会えなくなったからだろうと、オリバーは言っておりましたわ」



 その後、皆様からは、愛人にも格があると教えて頂きました。

 独身の愛人よりも、既婚の愛人の方が上なのだそうです。

 これは、私達の国では、結婚適齢期を過ぎても独身の人は、『結婚する価値の低過ぎる人だから結婚出来なかった』と見られるからです。

 ですので、同じ独身の愛人でも、身内に問題がある人と本人に問題がある人では、後者の方が格が低いとか。

 そういう訳ですので、離婚や死別した独り身の方達よりも、既婚者の方が愛人としての格は上となります。

 つまり、前者は、『再婚出来ない問題がある人』と見られると言う事だそうです。

 但し、後継ぎがいる男性・後継ぎを産んだ女性は、再婚しなくても問題有りとは思われずに済むようです。

 因みに、女性は30歳・男性は40歳を過ぎてから離婚や死別した場合は、再婚しなくても白い目で見られる事は無いそうです。これは、その年を過ぎたら子供を作らない方が良いと思われているからだとか。


 ミアは、一度も結婚した事の無い独身者ですので、格は低いのですね。

 そして、『結婚出来ない問題がある人』を愛人にしている旦那様の『男も下がっている』のだとか。

 尚、ドーラン男爵家に問題は無いのかと申しますと、経済状況等は平均的で、男爵やお身内にも目立った問題のある方はいないとか。

 つまり、ミアが『結婚出来ない』のは『ミア自身に問題がある』から、としか見られない訳です。

 旦那様以外の方と結婚したくないからと、複数の男性と交際していると言う噂が立つように振舞うなんて、中々出来る事ではないと思います。

 自分だけではなく、身内や家、果ては愛する人の評判まで落とすなんて。

 勿論、旦那様とは相談されての事でしょう。

 そうでなければ、浮気を疑われて別れる事になるかもしれませんものね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪意がまったく通じないこのヒロイン・・・いいですね! そして頭の出来が悪いわけではないけれどとことん鈍い・・・w
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