076[ウェールズの鉄鎖]
076
[ウェールズの鉄鎖]
―――1282年11月。
「イングランド国王エドワード殿に問う!
なぜ和平交渉当日に我が軍を後方から襲うなどという卑怯な真似に出たのだ!!」
もちろんこの問いの答えは。
「我がイングランド王室は全く存ぜぬ事!!
なぜ交渉の予定であったグウィネズ王自ら軍を率いて出て行ったのだ!
交渉当日に怪しい行動を取ったのはグウィネズ軍の方であろう!
故に我が同胞が痛手を被ったのだ!
被害者は我々である!
勝手な言い掛かりをするのであればこちらは容赦せぬぞ!」
「存ぜぬとは笑止!
攻める口実を作るために傭兵を駒に使ったのは明白ではないか!」
結局両者には和平するつもりは毛頭無く、戦争は継続する事になります。
しかしアングルテール国王軍のアングルシー島での敗戦の痛手は大きく、
コンウィ川一帯が奪われ、モントゴメリー条約時程に後退を余儀無くされました。
グウィネズ側は、アングルテール王国軍が直ぐに態勢を整える事は出来ない事を把握していました。
「ルウェリン様!
アングルシー島での勝利は、
中部で燻っていた諸侯も我々に靡きました!
また、敗戦が続いた南部、デホーバース諸侯にも交渉の価値はありましょう!
今こそ、中部と南部の諸侯も総動員させ、
エドワード王の息の根を止めるべきです!」
ルウェリンは不敵な笑みを浮かべ頷きました。
「よし!!中部の各城に通達せよ!!
イングランド軍に総攻撃をかける為に兵を集めよ!!!」
「はい!直ちに!!!」
その時使者が慌てて駆けてきました。
「ルウェリン様!!大変です!!!」
「何事だ!」
「ポウィスに入れていた密偵からの報告です!
ブイルス城に続々と兵が集まっているとの事です!
中部の諸侯がこぞって寝返ってしまう恐れがあります!」
「そうか……!!和平交渉すると言って北部に足止めされていたのか!!!
させるから!!なんとしても阻止せねば!!
モエル・イ・ドンでの我らの戦勝は周辺各城に伝わっているはずだ!
直ぐに我が軍が動けばどんな城主であれ我に膝を折るだろう!
グウィネズ軍は直ちに南下!!
目指すはブイルス城だ!!!直ちに出陣せよ!!!」
「はい!!承知致しました!!!」
ルウェリン軍は南下しながら、多くの諸侯を寝返らせていきました。
「ランデイロに次いでアングルシー島でもウェールズ軍は勝利した!!
このウェールズ大公の力をとくと見よ!!!
おとなしくこのウェールズ大公ルウェリンに従えば命は取らぬ!!」
グウィネズ軍は、ウェールズの南北の大動脈である街道を南下し、ブイルス城方面に向かっていました。
・・・‥‥……―――
――ルドラン城、エドゥアルド王の指揮所。
「陛下!!大変です!
ルウェリンが大軍を率いて南下を開始しました!!」
「南下??何処へ向かう??」
「恐らく……、ブイルス城かと!」
「なぜ今、居城を空けて出陣するのだ??」
「分かりません……!
何か秘策でもあるのでしょうか……??」
その時また新たな報せが届きました。
「大変です!陛下!!
ガース市が寝返り、周辺の食糧庫が奪われました!!」
「チャペル市が奪われ、補給路が絶たれました!!!」
「なんだと???おのれ!!そう言う事か!
ブイルス城を孤立させるつもりなのだな!!!」
「ブイルスには今5000余りの兵がいます……。
包囲されれば食糧は持ちません!」
「陛下、籠城戦となれば確実に不利となります。
野戦で確実に勝利する以外に、ブイルス城を守る手はありません!」
「野戦で決着をつけるしか方法は無い……。
だが、城を空ければ奪われてしまう……!
とにかく、この事実を直ぐにブイルスのレストレンジに知らせるのだ!!」
「陛下。ブイルスを制すならば、秘策があります。」
ランカスター伯はエドゥアルドを見、頷きました―――……
―――……‥‥・・・
―――ウェールズ中部ブイルス城。
ブイルス城は、北西から流れるワイ川と西から入る支流イルボン川の合流地点に位置しています。
「なにっ??ルウェリン軍が向かって来ているだと???」
「レストレンジ殿……!
周辺の城からの補給を絶たれた今、この城を維持するのは難しい……!」
「ああ、分かっている。
野戦で決着をつける方法を考えなければ……!」
「城を出て野戦に誘いこむには、
彼等の行軍ルートを明確にし、
且つ、城を空けた事を悟られないよう偽装するしかない。」
「としても、少なからず兵を分散しなくてはならない。」
「ギリギリまで引き寄せてから、
場所が明確になった時点で城を出て、即座に決戦する。」
「だが、確実に勝てる策を練らねば……」
「如何にすれば勝てる???」
「野戦で勝つ為には地形を把握していないといけない。
どのような地形か分かるか?」
アングルテール王国の将軍らは顔を見合わせました。
「地理は儂が説明しましょう。」
突如現れた老将帥は、
ポウィス王グリフィズ・アプ・グウェンウィンウィンでした。
「おお!なんと!!!
ポウィス王様ではありませんか!!」
「なんと心強いことか!!」
彼の父である先代ポウィス王グウェンウィンウィン・アプ・オワイン(?-1216)は、
ジャン失地王の敗退後に勢力を拡大したグウィネズ王ルウェリン大王(1173-1240)によって殺され、その地を奪われました。
しかし子のグリフィズ・アプ・グウェンウィンウィンはシュルーズベリーに亡命していました。
大王の死後にダフィド王が立てられ、
1241年にアングルテール王国がウェールズ中部の支配権を確立した時に彼はポウィスの本領の殆どを回復しました。
しかし1255年頃にルウェリン・アプ・グリフィズがグウィネズを統一して王権を確立すると、
中部への侵攻も開始しました。
――ブレヒノク領を占領し、ポウィス領を挟撃する!――
グウィネズ軍が中南部ブレヒノク地域の領土を占領し、
1263年にはポウィスはグウィネズに降伏を余儀なくされます。
―――おのれ!ルウェリンめ!
イングランドに逆らった事を後悔させてやる!―――
1266年の第二次バロン戦争終結時には再びシュルーズベリーに戻り、基本的にはそこを居城としていました。
モントゴメリー条約の後は再度ポウィス本領の返還を受けたものの、
アバーコンウィ条約によって再びポウィスはウェールズ総督領下に入り、
ポウィス王は完全に実権を失っていたのです。
「モーティマ男爵殿、これは、
かつて我が父グウェンウィンウィンを死に追いやったグウィネズ王家に復讐する為でもある。
是非我らが怨みを晴らす機会をくだされ!」
老いて完全に一線を退いていたポウィス王グリフィズでしたが、
グリフィズの継嗣オワイン・アプ・グリフィズ(1257-)と共にブイルス城に参陣したのです。
「ブイルスがデホーバースとの国境だったのは、
120年も昔の事じゃが、以降もブイルス城は交通の要衝であるが故に、
大王の死後や継承戦争の頃には儂もブイルスで何度も戦ったのじゃ。
儂の言葉を聞いてくれるか?」
ジョン・レストレンジとエドマンド・モーティマは頷きました。
「是非とも御教示願います!!」
「ポウィス王様!オワイン王子殿!
我々への参陣、誠に感謝致します……!」
「是非とも!共に戦ってください!!」
・・・‥‥……―――
・・・‥‥……―――
ウェールズ大公軍は、
1282年12月11日、ブイルスから西に僅か3.5kmのイルボン川沿いの町キルメリに到着し始めていました。
南に流れるイルボン川からの攻撃を防ぐ為に橋を限定すると共に警護を固めました。
ウェールズ大公軍には7000の歩兵の他は、騎兵が160程でした。
―――ブイルスの支砦。
ブイルスの西はイルボン川が大きく蛇行し、
その流れを作る丘の上からはイルボンの上流とワイ川の合流地点が良く見渡せました。
「敵の位置を補足!!キルメリです!!」
「布陣しているのか?」
「キルメリの丘の南側の平野部、
付近でイルボン川を渡る唯一の橋であるオレウィン橋の正面に集結しつつあります。」
「橋を守るか……。どうやって攻めるか……。」
「ポウィス王様、どうか。」
「うむ。分かった。説明してやろう。
モーティマ男爵の倅よ。
どこまでブイルスの地形を把握しておる?」
「この辺りで川が蛇行しているのは分かりますが、詳しくは……」
老王グリフィズが問うと、エドマンド・モーティマは、
バツが悪そうに首を振ることしか出来ませんでした。
ポウィス王はブイルスからキルメリの地図を描きました。
「グウィネズ軍はキルメリの丘の南にいる。
辺りではこのオレウィン橋が唯一の橋じゃ。
ならば、遠回りして西から攻める方法がある。
キルメリの丘の西側は、イルボン川が大きく北側に迂回している。
その西側に、幅が狭くて浅い、渡河出来る箇所がある。
そこへ行くには、南側にある丘の南側を大きく回りこむ事じゃな。
さすれば相手に気付かれずに渡河し、横を突く事が出来るじゃろう。
半数を隠して移動させて、挟撃するのが良かろう。」
「おお!」
「ありがとうございます!」
「よし!!その作戦でいこう!
歩兵の半数はそのルートで敵軍の横に回れ!
相手に動きを悟られる前に今すぐ出陣だ!!」
「おう!!!!」
一方、キルメリの丘の南側にルウェリン軍が集結しつつありました。
「大公様!!!ブイルス城から兵が出陣しました!!!」
「何っ?!城から出た??数は??」
答えを待つ間も無く、オレウィン橋の対岸には続々とモーティマ軍が到着していました。
2500程の歩兵が布陣しました。
「我々の半分以下の兵力で野戦に挑むつもりか!
笑わせてくれる!」
「ブイルス城の城壁には多数の兵士が残っているのが見えます。
食糧などの都合から兵を分散させざるを得ない状況なのでしょう。」
「だがそのせいで今我々の目の前にいる2500の兵が犠牲になるという事だ!
イングランド軍とはそういう輩なのだ!!」
橋の南側に組み立てられた簡易櫓から軍を見下ろしました。
ウェールズ大公軍7000と160の騎兵に対し、
モーティマ軍は2500の歩兵と1300の騎兵。
モーティマ軍の方が圧倒的に兵数が少ないものの、
騎兵の兵数差も考えると、優劣は分かりにくい状況でした。
すると、モーティマ軍から一人の騎士がオレウィン橋に接近しました。
「む?何者だ?」
「我が名はステファン・ド・フランクトン!!
グウィネズ王に決闘を申し込む!!」
「決闘だと?!馬鹿な事を言うな!!
そもそもお前は何者なのだ!!」
「グウィネズ王に故郷を奪われた者だ!!
グウィネズ王の裏切りや陰謀によって多くの人の命が奪われた!!
その恨みを!!
この決闘でお前を斃してやる!!」
「んむむ……?」
「大公!いけません!
何かの罠に違いありません!」
「この決闘でお前は何を賭けるのだ。」
「グウィネズ王の望む物は?」
「愚問だ!
ウェールズの土地全てだ!」
「もし私が負けて契約によってお前がウェールズの土地を得たとて、
民心を得る事は出来ぬだろう。」
「何を!!!!貴様!!
大人しく話を聞いてやっていれば!!
それだけの大口を叩くのであれば、己の力を見せて貰おうか!」
ルウェリンは剣を抜きました。
家臣はルウェリンを制止しようとしていました。
しかし、ステファンによる挑発は続きました。
しばらくの間、決闘をするしないで揉めていると、
突然西の方から唸り声が聞こえてきました。
「???」
「今こそ我が父グウェンウィンウィン王の仇を討つ時!!
ポウィスの民よ!!
否!!ウェールズの全ての民よ!!
この地を疲弊させた悪王ルウェリン・アプ・グリフィズを討つのじゃ!!!
突撃!!!!」
「何事だ???」
「大公!!!西側から奇襲です!!!!」
「なんだって???」
「ポウィス王軍による攻撃が始まっています!!!」
「ポウィス王軍………?!!?いつの間に!!」
「騙された!!
決闘の申し込みは時間稼ぎだったんだ!!!!」
「おのれ!!謀ったのか!!!射よ!!!!」
ポウィス王軍の真横からの奇襲に、グウィネズ軍は慌てました。
同時にモーティマ軍からの一斉射撃が始まりました。
「怯むな!!体勢を立て直せ!!!
オレウィン橋を死守せよ!!!」
「大公は早く本陣へ!!!」
「ぐぬぬ!!」
ルウェリンは櫓を降りて橋を北側に戻っていきました。
オレウィン橋南岸では激しく斬り合いが続きます。
「橋への援軍を阻止しろ!!!」
モーティマが叫びました。
橋を渡ろうとするグウィネズ兵は、横の丘に陣取っていたモーティマ軍によって射撃されていきます。
西側ではポウィス歩兵隊の活躍によって押され始めており、
グウィネズ軍は次第に後方のキルメリの丘に後退しつつありました。
「橋を奪うのじゃ!!!」
ポウィス王は橋の守備兵に斬りかかりました。
彼の軍勢の一部は橋の奪取に専念し、一部は、グウィネズ歩兵を丘へと誘導していきました。
そしてついに、北櫓が崩れて結界が破られます。
橋の南北からポウィス軍の攻撃は続き、ついに橋からグウィネズ兵を一掃します。
「かかれぇぇ!!!!」
すると南側に待機していたポウィス王子オワイン・アプ・グリフィズが騎兵隊を率いて橋を渡ります。
続いてレストレンジの騎兵隊も続きます。
「歩兵隊は丘を登って疲れている!どんどん突き進め!!!」
森の中に、後退中のグウィネズ歩兵に、ポウィス騎兵とレストレンジ騎兵が襲いかかりました。
「ルウェリン・アプ・グリフィズ!!逃すものか!!!」
「オワイン様!!左です!!」
オワインが言われた方向を見ると、ルウェリンが馬に乗って逃げ去ろうとしていたところでした。
「逃すか!!!」
オワインの放った弓矢はその馬に命中し、ルウェリンは振り落とされました。
しかしオワインは直ぐに囲まれて白兵戦を余儀なくされます。
逃げようとするルウェリン、その前に立ちはだかったのは、
グリフィズ・アプ・グウェンウィンウィン王でした。
「ルウェリン!!ここで父の仇を討たせて貰おう!!」
「くっ、この老人めが……!!」
グリフィズが駆け出してルウェリンを斬りかかりました。
「ぐぉぉっ!!」
ルウェリンは剣を引き抜いてこれを交わしました。
グウィネズ王とポウィス王の一騎打ちが始まりました。
一方、丘での戦闘では、レストレンジやポウィス王子オワインがグウィネズ歩兵を蹴散らし、
丘の上まで追い詰めると、歩兵はキルメリ村や多方向に蜘蛛の子を散らすように四散していきました。
気がつけば、キルメリ村の西のはずれに、
グウィネズ王とポウィス王の二人のみ。
「覚悟ぉぉぉ!!!!」
ポウィス王グリフィズはルウェリンに突っ込み、勝負は決しました。
グリフィズは崩れていくルウェリンを見下ろしました。
「グウィネズ王よ!!
お前の父や兄弟達が争ったせいで、どれだけの血が流れたと思う!!!
お前のせいでウェールズは独立する機会を完全に失ったのじゃ!!!」
大量に吐血したルウェリンは意識が朦朧としていました。
「グウィネズはイングランド王国による厳しい管理下に置かれる事になるじゃろう!
お前はその罪の重さを知るがいい!!」
言うだけ言うと、ルウェリンの呼吸は急速に弱まっていきました。
グリフィズは、剣を振り下ろし、その首を切断しました。
しばらく立ち尽くしていたグリフィズでしたが、彼も重傷を負っていました。
動く力はもう残っておらず、そのまま倒れました。
この頃には日も暮れ、辺りは暗くなっていました―――……‥‥
―――……‥‥・・・
―――……‥‥・・・
………王様!!………
……父上!!どこですか!!………
……ポウィス王殿!!いたら返事を……!……
「ポウィス王殿!!
居ました!!!ここです!!!
大丈夫ですか?!!
息はあります!!!」
「父上!!!」
ポウィス王子オワインが駆け寄ると、
グリフィズはゆっくりと目を覚まし、微笑みました。
「やったぞ……。
我が一族の恨みを晴らした。」
「おめでとうございます!!父上!!!」
グリフィズは直ぐにブイルス城で手当てを受け一命は取り留めました。
グウィネズ王ルウェリン・アプ・グリフィズ(1223-1283)の首はロンドン塔に晒される事になります。
―――ルドラン城。
アングルテール国王エドゥアルドは、ルドラン城で戦勝報告を受けました。
「おお……!ポウィス王が!!」
「はい。此度のオレウィン橋の戦勝は、
ポウィス王グリフィズと王子オワインの働きが大きいと言われています。」
ランカスター伯エドマンドは淡々と報告しました。
「ポウィス王には、彼の領土をちゃんと返還してやらねばならんな。」
「ですが、王自身は怪我も酷く、
政務を熟せるかは微妙だという話です。」
「うむ……。
ポウィス王には軍功を。
王子はポウィス卿としてポウィス城とその領土を与える事とする。
あとは、ウェールズ風の“オワイン・アプ・グリフィズ”の名前だとややこしいので、
“ポウィス(出身)の”という意味の“デ・ラ・ポール”と呼び改める事にしよう。」
グウィネズ王の死で、ウェールズ征服は完遂というわけではありません。
「5ヶ月の娘がいるという。
必ず彼女の身柄を確保せよ!
逆らうようであれば、徹底的に攻撃する!!」
ルウェリンの弟ダフィド・アプ・グリフィズがグウィネズで立ち上がりました。
「グウィネズ王はこの俺だ!!!
我が兄の娘を捕獲せよ!!
イングランドにウェールズを渡してなるものか!!」
「王様!!イングランド軍が迫っています……!!」
「ぐぬぬ………!!」
「ここは首都を棄ててでも生き延びねばなりません!!
命があれば再起が可能です!!
ここは諦めて撤退しましょう……!!」
「くっ……!!仕方ない!マードックの言う通りだ……!
しかしどうやって……。」
「スノードン丘陵を超えて、カステル・イ・ベレ城へ……!
私の兵が守っております!」
「うむ……。」
ダフィドの兵力ではアングルテール軍に敵いません。
ダフィドは止む無くグウィネズ首都アベルガルスケリンを脱する事にしました。
ダフィドには、ウェールズ総督に占領されて土地を奪われたデホーバースの流民や、
かつてポウィス・ウェンウィンウィンより分離独立したポウィス・ファードッグの諸侯らがいました。
彼らはアベルガルスケリンの南のスノードン丘陵を進み始めました。
先ず、山中の街道中にある戦略的重要拠点であるドルウィデラン城にはいりました。
「グウィネズの者共よ!!
我が兄ルウェリンはポウィス・ウェンウィンウィン王に殺された!!
ポウィス王に恨みを持つ者やイングランドに恨みを持つ者は我が陣営に加わるのだ!!!」
いくつかの諸侯がこれに同調しました。
「王様!これで、カステル・イ・ベレ城への道は確保出来ました!」
「うむ!
急ぎ南下し、イングランド軍に対抗出来る軍を編成する!」
一方、アベルガルスケリンにはアングルテール軍が迫っていました。
「グウィネズ王は首都から逃げた!!」
「必ず探し出して生け捕りにせよ!!」
エドゥアルド軍はルドラン城から西へ進軍し、コンウィ砦を奪取、
さらに西進して、1283年1月には首都アベルガルスケリンを確保しました。
首都を脱していたグウィネズ王ダフィドは、グウィネズ南西のカステル・イ・ベレ城に篭っていました。
カステル・イ・ベレ城は、カーデガン湾北西部のトレマドック湾と中央のアベリストウィス城の中間辺りにある丘城。
扇状地に取り残された大岩によって形成されたような地形で、
その岩の上に、ルウェリン大王の時代に建てられた要塞でした。
「王様!!デホーバースに送った遣いが戻って来ません……!
アベリストウィス城と周辺の支城による監視が厳しい為でしょう……!!」
「ダフィド様ぁぁ!!申し訳ありません!!
トレマドック湾が奪われました!!」
「なんだと????南北を囲われたではないか……!!」
ベレ城は補給路を絶たれ、窮地となっていました。
―――トレマドック港、アングルテール軍。
「この湾の南側のあの丘の向こう側にダフィドがいるのだな。
先ずはあの丘まで進むぞ!!」
エドゥアルド軍はトレマドック湾を南側に渡り、ハーレフの丘に近付きました。
「あの巨石まで行ってみよう。」
エドゥアルドら一行は巨石に登りました。
トレマドック湾の全体を見渡す事が出来、
メナイ海峡から南へ進もうとする船の監視も可能、
さらに海岸は直ぐ近くであるので、陸路の南北の往来を監視する事も出来ます。
「マスター・ジェイムズよ、ここにも城を建てよ。
頑強な物を頼むぞ。」
エドゥアルドはハーレフ城の建築を始めるとともに兵を集中させました。
1283年4月、アングルテール王軍3000の兵による、
カステル・イ・ベレ城の包囲が開始されました。
「王様……、どうかお逃げください……!」
「おのれ!!またしても………!!」
陥落寸前まで追い込まれていました。
「さあ!早くこちらへ!!時間がありません!!!」
ダフィドと支持者の一行は城を抜け出しました。
カステル・イ・ベレ城はマードックがダフィドが逃げ切るまでしぶとく粘り、
そして1283年4月25日、降伏しました。
逃亡したダフィド一行は、再びスノードン丘陵を北上しました。
5月、山中でも複雑な岩場の地形を進み、
ランベリス峠にある重要拠点ドルバダルン城に入りました。
大きな円筒型の塔からは峠道と湖が見下ろせ、南北の往来を見渡す事が出来ます。
「王様……!セゴンティウム城が落とされました……!!
北から大軍が迫っています!!」
「王様!!ハーレフに新しい城があり情報が遮断されていました!!
南から大軍が迫っています!!」
「うぉぉ!!なんて事だ……!!!!」
ダフィドや一族の人間は、さらに山の奥深くへ逃げなければなりませんでした。
山中に身を隠しながら移動し、ベラ山の山中の岩陰に隠れながら数日を過ごしました。
1283年6月22日。
……あいつはダフィドの息子のオワインに似ている……
……密かに、気付かれないよう追うぞ。……
……いたぞ!ダフィド本人ではないか!……
……やはりアベルガルスケリンの近くまで戻って来ていたか!……
……首都の近くには隠れ家がいくつか用意してあったに違いない。……
……とにかく、見失わないよう尾けるぞ!……
アングルテール軍は密かにダフィドらを追い、ついに岩場の隠れ家を突き止めました。
「かかれぇぇ!!!!」
「見つかった!!!敵襲………!!!」
ダフィドやその家族は、抵抗出来る力は残っていませんでした。
「くそっ!!負けてたまるか……!!
俺は!グウィネズ王だ!!ウェールズ大公なんだ……!!」
そう叫んでも虚しく、彼らは取り押さえられました。
ダフィドらの身柄はルドラン城に護送されました。
その後捕虜はシュルーズベリーに送られました。
6月28日、捕えていなかったオワイン・アプ・ダフィドも発見して逮捕し、
同じくシュルーズベリーに送られました。
「ついに反逆者の一族は皆捕えたぞ!!!
皆の者!!大儀であった!!
デ・ラ・ポール殿にも感謝しよう!」
それから裁判が始まりました。
9月30日、ダフィド・アプ・グリフィズ(1238-1283)の死刑が決まり、
10月3日、執行されました。
彼の妻や娘達、及びルウェリン・アプ・グリフィズの妻子は修道院に送られます。
ダフィドの二人の息子、
ルウェリン・アプ・ダフィドとオワイン・アプ・ダフィドはブリストル城に投獄される事になります。
―――ルドラン城。
「グウィネズの王族はいつも互いに傷つけ合いながらイングランドに抵抗している!
またいずれ抵抗する者が現れよう!
そうならない為に、グウィネズの周囲に、
威厳を象徴するような城郭網を築き、徹底的に監視する!!」
エドゥアルドはマスター・ジェイムズにはある企画を持ち込みました。
「グウィネズを完全に包囲する為の策を考えよ。
奴らの動きを完全に封じる城郭網を構築するのだ。
彼等を鉄の鎖で縛り付けるかの如く、
城で彼等の怪しい動きを完全に封じ込めるのだ!!」
「仰せのままに。」
マスター・ジェイムズはウェールズの地図を拡げました。
「先ず第一に、グウィネズ北東角にあたる、コンウィ。
コンウィこそグウィネズを縛り付けるに最も最重要拠点となります。
よって城塞のみならず総構の城郭都市とするのが良いでしょう。
次に重要となるのが、メナイ海峡です。
メナイ海峡の西側にはセゴンティウム城がありますが、
1世紀頃、ローマ時代の建築と言われており、
現代の攻城兵器では役に立つ城ではありません。
よって、この場所、カーナーヴォンにも新たな城が必要でしょう。
そして、プスヘリ半島付け根南部、トレマドック湾のハーレフ城の建築も急がせましょう。
カーナヴォン城とハーレフ城、それにアベリストウィス城によって、
南の諸国との海運を押さえる事が出来ます。
さらに、アベルガルスケリンのメナイ海峡の対岸、
即ちアングルシー島側のビューマリスと呼ばれる地は、
アベルガルスケリンを北から完全に監督出来るだけでなく、
カーナヴォン城と共にメナイ海峡を完全掌握する事になります。
国王陛下のグウィネズの鉄鎖は成功する事でしょう。」
エドゥアルドは不敵に笑いました。
「それだけでは足りん。
これまで見てきたクリクキエス城やカステル・イ・ベレ城、
ドルウィデラン城も改修して強化させよ!」
「はい。設計を急がせましょう。」
「よし!早速築城を開始せよ!!
ウェールズに二度と反乱の気を起こさせないようしかと監視するのだ!」
先ずはコンウィ川河口にコンウィ城に築城が開始されます。
8つの塔を高壁で繋げた長軸120m程の城で、
それだけでは無く、500m四方程の街全体を城壁で囲う城塞都市としました。
メナイ海峡西側のカーナーヴォン城は、セゴンティウム城を破却した資材を利用して建築が開始されました。
大小11の塔と門が城壁で囲まれた、コンウィ城のような楕円の城ですが、
特徴は塔が円筒型では無く多角形である事、さらに、
その塔それぞれの上に立つ小塔の高さが非常に高く目立つ事でした。
ビューマリス城の形状は変わっていて、
四角形の各角と中央に、6つの塔、2つの塔を持つ門が前後に2つ。
そしてこの四角形の主郭を八角形の城壁で囲む二重構造に設計されました。
この三つの城は港町の河口にせり出した部分に建てられた海城です。
他方ハーレフ城は、4つの塔で結ばれた台形の城で、
海を監視する事には変わりないものの台地の縁に建てられた台城です。
他にもフリント城やルドラン城やブイルス城など新築の城を始め、
ウェールズ諸侯から奪取したいくつかの城、
ハワーデン城やホルト城など家臣に命じて改修や新築した城など、
合計17もの城の建築及び改修が一挙に開始されたのです。
―――1284年、カーナーヴォン城。
建築中のカーナーヴォン城に、
エドゥアルド国王夫妻は止まらざるを得ない状況にありました。
ぉぎゃぁ〜!おぎゃ〜
「おお!!!」
「やったか!!?」
「国王陛下!!おめでとうございます!!!
元気な男の子!!!
王子様の誕生です!!!
王妃様もお元気です!!」
「良かった!!本当に良かった!
征服先のウェールズで誕生するとは、
我が息子はこの地を欲して今産まれて来たのだろう!
その通りにしてやろう!
我が息子エドワード2世には、
プリンス・オブ・ウェールズの称号を与えよう!
イングランド国王の子はウェールズ大公である!!」
「国王陛下!!おめでとうございます!!」
「ウェールズ大公殿万歳!!!」
「イングランド王室に幸あれ!!!」
・・・‥‥……―――
・・・‥‥……―――
・・・‥‥……―――
―――ロンドン。
「資材が足りないとはどう言う事だ。」
アングルテール国王エドゥアルドは不機嫌そうに聞き返しました。
「はい……、海運を掌握したとはいえ、
船を作る資金や、人件費もかなりの高額に登っています。
故に全ての兵士に給与を与える事が出来ず、
止む無く解雇せざるを得ない場合もあれば、逃散する者もいます。
人手不足となれば、運び手も枯渇してしまうのです……。」
ポウィス卿オワイン・デ・ラ・ポールは、
各城に必要な経費・資材などを纏めた表を国王に手渡しました。
「ううむ……、金が足らぬのか……。
税金を上げるしか無いか……。
いや、待てよ、羊毛貿易をもっと良く回す方法を考えるか……。」
ウェールズとの戦争が終わったとはいえ、グウィネズの反乱の可能性はまだ十分にありました。
それから数年経つものの、各城の築城はなかなか進んでおらず、
ビューマリス城などいくつかの城は計画のみで未だに手付かずの状態。
アングルテール王国の国庫は厳しくなって来ていたのです。
「陛下。ブルゴーニュ公からの書信です。これを。」
「ブルゴーニュから?なに。」
エドゥアルドは書信を読むと、ふっと一瞬笑いました。
「これだ。使える。
教皇庁とナポリ国王カルロ2世は、
シチリア国王を凶弾して再度シチリアを攻撃するらしい。
それにフランス国王フィリップ4世も承諾したという。
ブルゴーニュ公は、
フランスとアラゴンの調停を俺に買って出ろと言ってきた。
ブルゴーニュは肥沃な土地で生産性が高い。
ネーデルラント諸侯らと通じて、ブルゴーニュと取引をしよう……。
調停が問題無く進めば謝礼金が見込める……!
これだ……!!
よし!!ふふふ!!」
―――……‥‥・・・
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