表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/296

168[ウェアデール戦役]

168

[ウェアデール戦役]


 1327年3月、アングルテール国王エドゥアルド3世と、

摂政である王母イザベルとモーティマ男爵ロジャー・モーティマの前に現れたのは、

エドワード・ベイリャル(1282-)でした。


  「ベイリャル殿……。」


イザベルとモーティマは煙たそうな表情を浮かべていました。


「エドゥアルド・バリオル。

 そなたの用件とは?」


国王エドゥアルド3世が問いました。

ベイリャルは畏って答えます。


  「ここに立つモーティマ男爵らが、

   なかなか約束を果たしてくれないのでな。

   こうして直々に抗議にやって来たのだ。

   何故ブルース軍を無視するのか?!

   ボーモン男爵を派遣し和平交渉を行なっているとはどういう事か!

   忘れたとは言わせませぬぞ。

   私は本来スコットランド国王位にあるべきなのだ。

   王位を奪ったのは他でも無い、

   現スコットランド国王のロバート・ブルースである。

   イングランド王国はしばしばブルース軍に侵略され悩まされて来たはずだ。

   イザベル様とモーティマ男爵は私に約束をしてくれた。

   もしエドワード3世陛下が無事に国王位に就く事が出来た暁には、

   私がスコットランド国王位を奪還する事に協力してくれると!

   あなた方はそれをお忘れではあるまいか?!」


エドゥアルド3世は首を傾げました。


「どうなのだ?母上。モーティマ殿。」


 「うむむ……」

 「ぐぬぬぬ。」


   「時期尚早とは言わせぬぞ。

    あなた方は全く話題にしていなかったが、

    ロバート・ブルースの王妃エリザベス・ド・バラが、

    去年1326年10月27日に亡くなっている。

    いよいよ、ブルース家も存続の危機がやってきたと言う事だ。

    エドワード3世陛下の王位が確固たるものになった今、

    これは再びスコットランド王国に攻め込む好機であるぞ!

    当然のこと、私がスコットランド国王になった暁には、

    イングランド諸侯にもスコットランドの土地を与える。

    挙ってこの戦役に参加して欲しい。

    早々に国中にこれを伝えて貰いたいのだ。」


モーティマ男爵は応えました。


 「は、もちろん、そのつもりでいます。」


モーティマ男爵はベイリャルの言うまま返答しましたが、

エドゥアルド3世は直ぐにそれを遮りました。


「スコットランド国王ロバート・ブルースとは和約を交わしているだろう。

 これまでは父の寵臣が国政を操っており、我が国は国内で戦争が起きていた。

 スコットランド王国としては、

 我が国が戦争で揉めている事に乗じて攻め込んで来ていたが、

 今や逆賊を討ち果たし、父は責任を取って辞任した。

 こちらが終戦したのならば、

 向こうが攻撃してくる事は違法行為として教会から罰せられる事になる。

 彼らが再びこの国に侵攻して来るのは、

 アーブロース宣言を自ら破る事に他ならず、

 それはスコットランド王国の独立する機会を自ら潰す行為となる。

 それに、我が国の家臣は既にスコットランド王国内に土地を有している者が多い。

 戦争となればその土地が戦禍に巻き込まれて、

 その土地が正当にスコットランド王国に返さねばならなくなる。

 これを避ける為にも、先月、2月15日に停戦命令を出し、

 ボーモン男爵らが和平交渉に当たっている。

 それで戦争は収まっている、そうでは無かったのか?」


モーティマ男爵は目を逸らして応えました。


 「は……。その通りですが……」


エドワード・ベイリャルは食い込んで話し始めました。


   「エドワード3世国王陛下。

    ロバート・ブルースが国王位を得ている事がそもそもの間違いなのだ。

    勝手に諸侯を束ね、アヴィニョン教皇という、

    フランス王国のヴァロワ家の傀儡である聖職者と勝手に契約を交わしたもの!

    法!法!と言いますが、それは彼らが勝手に決めた事に過ぎない!

    義はこの私にあるのだ!

    蜘蛛の如く這い回るロバート・ブルースを野放しはしておけぬ。

    スコットランドには私を慕ってくれる民人が多くいる。

    彼らと共に、私の王位奪還を手伝って貰わねばならん!」


「ふむ……」


エドゥアルド3世は頬杖をついて唸りました―――……


1327年3月、

スコットランド王国の状況を考慮し、再度議会が開かれる事になります。

もちろん議長は、モーティマ男爵ロジャー・モーティマが務めました。


「それでは、こちらの判断をお伝えします。

 スコットランドの現国王ロバート・ブルースは、

 アーブロース宣言があるにも関わらず我が国に対して侵攻を開始しています。

 これは許される行為ではないと判断。

 またスコットランド国王として不適切と判断する為、

 エドワード・ベイリャルを正式な国王として擁立する事を決断します。」


   ――えっっ??また戦争を??――

   ――先月は、和解せよって決まったってのに……!――

   ――私が持つスコットランド国内の土地も攻撃されてしまう……――

   ――俺もスコットランドに土地を持っている。このままじゃ守れなくなるぞ…――

   ――うちもスコットランドに財産を残して来ている。

     どうやって保護したらいいんだろう……――


不満の声もかなり飛び交ったものの、

スコットランド王国軍が再度フォース湾を越えて南下して来ている事に不服である者はやはり多く、

ロバート・ブルースと戦う事が再度決定しました。


この時スコットランド王国との交渉に一役買ったのが、リンカーン司教ヘンリー・バーガーシュでした。

バーガーシュはこの3月、

老年のカンタベリー大司教レイノルズに代わって王国財務官の職務も受け継いでいました。


  「今後もスコットランド王国との窓口として期待している。」


  「は。お任せください。

   では実際に派遣する軍を決めなければなりません。」


4月5日、アングルテール王国では、

誰を北方に派遣するかの議論が開始されました。


これと同時に議題となっていたのが、アルスター伯国の相続についてでした。


  「ド・バラ家といえば、

   昨年1326年7月29日にアルスター伯リチャード・オーグ・ド・バラ(1259-1326)が亡くなっていて、

   今はその相続争いで三つ巴の戦いとなっているらしい。」

  「うむ。嫡孫か、次男か、弟か、という三系統があるんだ。」

  「うむ。

   これはいずれかを味方に引き込み、

   アイルランドを支配する足掛かりとしたいものだ。」

  「ならば婚姻関係を結ぶ事が出来る

   嫡孫のウィリアム・ダン・ド・バラを推薦するべきでしょう。」

  「その通りだ。正当性を主張するにもちょうど良い。」

  「では、誰を結婚相手に?」

  「相応の地位と土地を持つ者である必要がある。」

  「うむ。継承戦争に勝つ為には婚姻を結ぶ事で、

   相手にも得をさせなければならんからな。」

  「レスター伯殿の娘はどうでしょう?」

  「レスターか……。地理的にもちょうど良いか。」

  「ランカスター家の娘か……。」


レスター伯ヘンリー・オブ・ランカスター(1281-)の娘

モード・オブ・ランカスター(1310-)が若いアルスター伯の結婚相手の候補となりました。

マン島とノース海峡、アイリッシュ海を支配するにはおよそ妥当な判断であり、

ランカスター家によるアルスター伯領支配が支持されました。


 「であれば、

  レスター殿にはランカスター伯爵位も返還するのが筋かと思いますが、いかがでしょうか。」


  「確かにその通りだ。」

  「異論はありません。」

  「うむ。空位のままなのは良くない。」


    「ですがレスター伯殿は先の反乱の主導者の弟ですぞ!」

    「簡単にそんな爵位を与えるのは如何なものか!」

    「ではこちらからも提案しよう。

     今回のスコットランド遠征で

     それなりの功績を残せるのならば認めようではないか?」


  「ほう。軍功が認められてこそ、領土を返還するという事か。

   レスター伯殿。

   と言う事ですが、いかがでしょう?」


レスター伯ヘンリーは納得して頷きました。


 「分かりました。

  私が必ずやスコットランド王国との問題を解決して見せましょう!」


モーティマ男爵は満足して頷きました。


「うむ。

 では、今回のスコットランド王国との戦争ですが、

 ロバート・ブルースは、アイルランドの内乱も利用していると聞く。

 これ即ちアイルランド支配にも関わる問題である。

 レスター伯殿が納得ならば、今回の遠征の総大将はレスター伯殿、

 もといランカスター伯殿に任せたいと思うが、

 反対の者はいますでしょうか?」


    「異議がある!」


「ヨーク大司教猊下。何でしょう。聞きましょう。」


    「レスター伯殿一人に任せるわけにはいきますまい!

     諸君らも危惧する事があるだろう!

     この遠征が成功すれば、

     ランカスター伯がアイリッシュ海を全て制す事になる。

     それで宜しいとお考えか?

     先のランカスター伯殿の反乱を鑑みる限り、

     彼一人を強大化させる事になるのではないか!」


「ならば他に誰か別の者を派遣すれば良いのですかな。」


    「彼一人に任せる事はならん。」


  「ならば誰ならば良いと?」


    「それは……。」


      ――貴方は?――

      ――いやいや、私には自領が忙しくて……。君は?――

      ――先日の災害の復旧が大変で……――

      ――うちは結婚したばかりだ。免除されて良いだろう?――

      ――我が領には戦える者はおらん。――


  「では誰ならば良いと言うのか?」


      ――ううむ………――

      ――誰が良いだろう……――


擦り付け合う様子に、国王エドゥアルド3世はうんざりしていました。


「国が一丸となって敵国と戦おうと話している時である!

 何故君達は国の事を考えようとしないのか??」


      ――そ、それは………――

      ――いや……、うむむ……―――


「ふむ……。」


 (こんな調子だから、内乱が起きるし、他国からも攻撃されるのか……)


エドゥアルド3世は、内在する問題にも気付き始めていました。

率先して遠征を申し出る者は多くありません。

諸領主の多くはスコットランド王国内にも土地を持っていたので、

スコットランド国王を相手に戦うとなると、

その土地を失う可能性が高くなります。

実際のところ、それが諸侯が遠征に消極的な最も多い理由でした。

2月の停戦命令も、ボーモン男爵を主体としたスコットランド国王との和議交渉も、

その意思を汲み取っての事でした。


  「まあ確かに。ヨーク大司教猊下の申す通り、

   ランカスター伯殿に権力が集中すれば、

   それだけ反感を持つ者も増えることだろう。」

  「それを避ける為には、やはり別の誰かも立てる必要がある。」

  「軍務ならばノーフォーク伯殿かケント伯殿に任せるのが良いのでは?」

  「エドゥアルド・ベバリオルの監督責任者はこのご兄弟ですからな。」


   「うむ……。まあ。確かに。」

   「王族の者ですからな。」

   「ならばケント伯殿に任せるのが宜しいでしょう。」

   「ケント伯殿は今回南海岸一帯の支配も確立出来た。

    北方統一を任せるにはちょうど良いのではないでしょうか。」


「うむ。

 ケント伯殿ならば誰も文句はなかろう。

 ヨーク大司教猊下。如何でしょうか。」


ヨーク大司教は、頷きました。


   「よし。構わぬ。」


「待たれよ!」


国王エドゥアルド3世は立ち上がりました。


「ランカスター伯とケント伯が総指揮を執る事は了承した。

 だが、今回の遠征は、私が即位して初めての大きな戦となる。

 私が自ら先頭指揮し、国王の力を国民に見せ付け無ければならない!」


 「陛下自ら……!」


   ――おお!それは良い!――

   ――国王としての威厳を示さねばなりません!――

   ――代替わりして不安の民も多い事でしょうから、

     国王自ら動く事が国民の心を統一させる良き手段です!――


「うむ。彼らの言う通りだろう?モーティマ男爵よ。」


 「は……。」


殆どの議員が賛成していました。


 「では。」


国王の親征を認めざるを得ませんでした。

ケント伯エドマンド・オブ・ウッドストック(1301-)にその決定が報告されました。


   「私か北方に行けと……?

    総督(マーチ)殿がそう命令したのか……?」


    「いえ。議会一致の決定です。

     今回は、国王陛下も直々に進軍する事が決定しました。」


   「みんな、厄介な仕事はしたくない、

    遠征になんか行きたくない、そういう決定だろう?」


    「いやまさか!そんなつもりでは……!」


   「まあいい。北東部はまだ一貫した意志が見えないところがある。

    これを統一する意味も込めて、俺が総司令官となってやろう。

    直ぐにロンドンに戻る。」


スコットランド遠征の会議が続けられ、

4月15日、スコットランド遠征の総大将には、

レスター伯ヘンリー・オブ・ランカスターと

ケント伯エドマンド・オブ・ウッドストックの二人が選ばれました。


レスター伯とアルスター女伯の縁談については順調に話が進められ、

1327年5月1日付でアヴィニョン教皇庁により承認され、

年内に輿入れする事が決まりました。


4月中旬、各方面でスコットランド遠征軍が組織されました。


   「報告します!ロバート・ブルース軍が北アイルランドに上陸!」

   「ド・バラ家の内乱に介入しているようです!!」

   「敵の大まかな作戦が見えました!」

   「アイルランドを手中に収め、

    ウェールズからの侵攻を可能にしたいようです!!」

   「ずっと東海岸沿いを攻めて来るかと思っていたが……」

   「西方も気に掛けなければならぬか……。」


敵の動きをある程度掴むと、アングルテール王国の動きも決定していきます。


「それでは集合日時は5月18日、

 場所はニューカッスルと決定します。

 軍を一度ニューカッスルで集結させ、改めて北上する事となります。

 各々方!遅れる事の無いよう準備願います!!」


  ・・・‥‥……―――……‥‥・・・


  ―――スキプトン城。


北方守備隊会議。

ヘンリー・パーシー、ラルフ・ネヴィル、ロバート・クリフォードらが集まっていました。


 ――はぁぁぁ……。――

 ――どうした?パーシー殿。そんな大きなため息を吐いて。――

 ――どうもこうも無いさ。

   スコットランド王国と本格的に戦う事にしただろ?

   結局5月末で俺の北部総督の任が解かれて、

   二人の伯爵が軍司令官となるってわけさ。――

 ――それで、イングランド北部は、

   西をランカスター伯殿、東をケント伯の双璧で守ろうって事になったのか。――

 ――え?ケント伯殿?王族だろ?――

 ――まあそれを言っちゃあ、ランカスター伯殿も王族だけどな。――

 ――いやでも、仮にもケント伯は先王の弟だ。――

 ――そんなケント伯を辺境地に………――

 ――それを、モーティマ“男爵”が任命したって言うのがチグハグな状況なんだよ。――

 ――ぅわぁ……。

   イザベル女王の愛人ってだけでそんな権力公使か……――

 ――総督殿の権力ってのは、

   どれだけ長く続けられるのだろうかねぇ……。――


 1327年5月18日、

ニューカッスル城には、続々と男爵軍が到着していました。

パーシー男爵は、ニューカッスルに到着している兵の数を見て愕然としました。


  ――遅れている?――

  ――ああ。まだヨークにも到着していないらしい。――

  ――国王軍はもちろん、他の伯爵軍も殆ど到着していない。――

  ――遅いにも程があるだろう……――

  ――いつスコットランド国王軍が攻めてきてもおかしくない状況だってのに……!――

  ――そうさ。

    既にロバート・ブルース軍は4月中頃にアルスター伯国に入国し、    

    継承戦争の最中のド・バラ家のエドマンドと盟約を交わしたらしい。――

  ――スコットランド軍と北アイルランド軍が連携して

    イングランドと同盟しているウェールズを攻めようとしているんだ。――

  ――俺らの軍がニューカッスルに来てしまったとなると、

    イングランド北西部の連携がうまく行かなくなるだろう?――

  ――そうさ。ペニネス山脈を越えるのはかなりの難関である上に、

    越える事が可能な峠道も複数のルートがある。

    連絡し難い事この上ない。――

  ――早く動いてもらわないと面倒な事になるぞ。――


 国王エドゥアルド3世軍を含む主要軍がヨークに到着したのが5月23日の事でした。

ランカスター伯ヘンリー・オブ・ランカスター(1281-)とその息子、

ヘンリー・オブ・グロスモント(1310-)、

ケント伯エドマンド・オブ・ウッドストック(1301-)、

ウェーク男爵トーマス・ウェーク(1300-)、

そしてボーモン男爵アンリのほか、ロス男爵、モウブレー男爵らが揃っていました。


  「敵軍の動きは?」


   「ロバート・ブルース軍はアルスターに滞在しています。

    先のアルスター伯の次男エドモンド・ド・バラと結び、

    勢力を拡大しています。」


 「まだ動き出さないか……。」

 「どう動くかまだ判断が付かない。」


  「グロスター家の軍がアイルランドに渡り、

   ウィリアム・ダン・ド・バラの勢力が押さえ付けてくれています。

   これが一応功を奏しているかとは思いますが……。」

  「それは互いに同じ事……。

   向こうからの連絡も難しい状況だ。」

  「スコットランド軍は今月中に動き出すという情報があります。

   早々に動き方を決めないと……。」


そうこうしている間にパーシー男爵の北方総督位の期限が切れてしまいます。

それからさらに遅れる事数日、6月6日。


「ランカスター伯及びケント伯の二名を総大将とし、

 北部戦線を大きく二分し、敵軍を挟み込む事が出来るように編成する事。」


   「今更そんな……?」

   「初めからそのつもりだったのでは?」


「とにかく軍を再編し、西に移動する必要があるな。」


スコットランド軍の動きが掴めない状況で、傭兵軍はただ無意味に日々を過ごしていました。

煮え切らない状況が続き、兵士達にも不満が溜まっていきました。

ボーモン男爵らに雇われたフランス王国から派遣されて来たフランス人の兵も駐屯しており、

この頃、イングランド兵とフランスの兵の間で何かトラブルが起こり、

数百人の死者が出る乱闘が記録されています。


二軍の編成を考え直していると、ヨーク城には新たな情報が入りました。


  ―――6月中旬。


総督(マーチ)モーティマ男爵のもとに急使が帰って来ました。


   「国王陛下!!総督殿!緊急の報せです!!」


「何か分かったか?!」


   「はい!得た情報によりますと、

    スコットランド国王軍は既に国境を越え、

    クライド湾岸を中心に攻撃を受けているようです!!」


「襲撃された……?!

 アイルランドに居るのでは無かったのか?」


  「それは本軍なのか??」


   「は!ロバート・ブルース王が指揮する本軍かと!」


 「なんと!!神出鬼没な!」


  ――ヨークに居てはなかなかフォース湾の動きが掴み難い……。――

  ――ペニネス山脈の南側だからなぁ。――

  ――敵が北から来るのか、山脈のどの峠を通ってくるのか、

    それとも西岸を南下して来るのか。――


連携がうまく取れていなかった事が露呈する報告でした。


   「各地方に連絡を密にするよう伝達する!!」


モーティマ男爵は、ランカスター方面やヨーク方面など、

各地方6つの自治体に対して守備強化の命令を発しました。


さらにその数日後の6月30日、ヨーク城にて新たな命令が発されました。


  「国王命により、

   ランカスター伯ヘンリー殿を総司令官とする事となった。

   ランカスター伯軍には、国王陛下、モーティマ男爵軍、

   ウェーク男爵、リス男爵……など。

   副司令官にはケント伯エドマンド殿を任命し、

   ノーフォーク伯殿、ボーモン男爵殿についてもらう。」


   「ちょっと待て……。

    総督殿。俺が副司令とはどういう事か?」


ケント伯は立ち上がりモーティマ男爵を睨みました。


  「国王陛下が決定しました。」


   「なぜランカスター伯が総司令で、俺が副司令なのかと訊いている。

    この遠征は二人が総指揮官として進めていただろう!」


  「状況が変化している。

   ロバート・ブルース軍は現在アイリッシュ海沿岸を中心に動いている。

   故に地の利のあるランカスター伯殿を中心とする事に切り替えたのです。

   何かおかしなところがありますか?」


   「ランカスター伯殿と俺を優劣を付けるのはおかしいではないか!」


ランカスター伯ヘンリーも立ち上がり反論しました。


   「ケント伯殿……。これは優劣の問題ではなく、

    たまたま敵がランカスター領に侵略しているから

    私を総司令官にするという判断をしたのだ。

    当初想定された通り東海岸を南下して来ていたのならば、

    ケント伯殿が総司令官に選ばれていたに違いない。

    ここで私の総司令官任命に嫉妬していても仕方あるむい?」


   「ふ……、ふざけるな……!

    別に嫉妬など……!」


ノーフォーク伯も立ち上がりました。


   「ヘンリーよ。座れ。

    スコットランド軍の動きに対応する作戦の変更である事以外に他意は無い。

    国王陛下の決定に逆らう事はやめろ。」


   「兄上……!

    この沙汰を国王陛下の意向だと本当に思っていますか?

    総督殿とランカスター伯が仕組んだに違いない!」


   「陛下と太后イザベル様の決定だろう。」


   「イザベル様の意向は総督殿の意向だろう?!」


   「ヘンリー!!」


ノーフォーク伯はケント伯の両肩を掴みました。


   「落ち着け。ヘンリー。ここは従っとけ。」


   「………。ああ。うん。」


ケント伯は、周囲の白白とした目を見渡し、引き下がりました。

この会議では、ランカスター伯とケント伯に、蟠りを残す事になりました。


7月3日になると、ヨーク城に新たな情報がはいりました。


  「スコットランド国王軍の予定が判明しました!!

   11日後の7月14日に、

   スコットランド軍はカーライルの包囲を検討しているようです!」


 「やはりカーライル城が目標となるか!!」


カーライルはアイリッシュ海北部、イングランド北西部の交通の要衝であり、

スコットランド国境でもある為、誰もが予想出来る第一の守備地。

これまでにも何度も攻撃されてきた都市です。


 「14日……!時間が無いぞ……」


  「どう動く?

   ヨーク城から北上して、

   ダーリントンからバーナード城、プロフ城を経由して西側に進むか、

   ダーリントンからダラム城、ヘクサム城を経て、

   タイン川沿いの要衝ヘイドン砦から西に向かうか……。」

  「経路としてはこの二通りか……。」

  「間にもウェア川沿いのスタンホープ街道があるが?」

  「この道はただの山道で使えない。

   バーナード城から峠越えして行くのが良いだろう。」

  「いいや。もともとニューカッスルに集合予定だったのだ。

   ダラム城から一度ニューカッスルで補給するのが妥当だろう。」


最終的な動き方も決定しないまま、

とりあえず軍はダーリントンまで移動する事になりました。

ヨーク城にはイザベルが残り、通常レベルの守備兵のみを残す事になりました。

数千から、もしかすると数万いる歩兵隊の動きは遅く、

歩兵隊がダーリントンに到着したのが、7月14日の事。

敵軍がカーライルの攻撃を開始すると報告されたその日の事でした。

騎士隊である国王エドゥアルド3世軍は先行して北上しており、

その翌日の7月15日にはダラム城に到着していました。


「もう15日だ。敵はもう攻撃を開始しているのか?

 何か情報は無いのか??」


エドゥアルド3世の問いに総司令官ランカスター伯は渋い表情を見せました。


   ――まだどこからも情報が来ません……――

   ――放った偵察隊がまだ戻って来ません。――


ランカスター伯は項垂れて国王の問いに応えました。


 「カーライルからダラムまでは殆ど無人の山岳地帯……

  なかなか情報伝達がうまくいかないのです……。」


「くっ……。スコットランド軍は今どこで何をしているのか……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ