一向宗と石山本願寺と、その中で天海は…!
未来の町もさることながら、天海大僧正=明智光秀だったか否かについては、歴史の永遠のミステリーで、この議題が決着を見ることは永遠にないだろう。
そして、ついに一向宗との戦いに入る。
「ついに仏を信仰する者同士が、相対して戦うことになってしまったな…。」
これは宗派対立になりはしないか、と思いながら、またまた念仏を唱える。
もはやひたすら念仏を唱える以外になかった。
念仏でも唱えなければ、やってられない。
天海の宗派は天台宗。対して、一向宗の宗派は、浄土真宗。
もともとは鎌倉時代の僧、一向という者が広めた浄土真宗の一派だったが、戦国時代になると、一向一揆を起こして勝手に一向宗を名乗る者たちが現れるようになったという。
なお、石山本願寺はまた違って、こちらは蓮如によって創建され、以降一世紀にわたって支配が続いたという。
大名にも匹敵する力を持っていた一向門徒や、また石山本願寺などの有力な寺社、仏閣。
時の権力者に敵対する形で、あるいは時の権力者に取り入る形で、勢力を維持、拡大していた仏教勢力たち。
一向宗や石山本願寺は、敵対する形で、
対して天海は、取り入る形で、勢力を維持、拡大していった。
ある時天海は思い立った。というか、天海の体の中にいるもう1人、現代人の高山一郎が、思い立ったのだ。
「本日は、現代の人々にはおなじみの、ハンバーグというものを、戦国時代の人々に食べさせてみたい。」
天海、いや、天海として転生してきた現代人の高山一郎は、信長の家臣の武将たちに、ハンバーグを振る舞った。
「おお!うまい!うまい!これがハンバーグという食べ物か!」
「されど、このハンバーグというのは、肉ではないのか?
仏教では肉を食すことは禁止されておるのではないか?」
それに対して天海=高山一郎は、
「なに、今や仏を信仰する者たちも、肉を食らうだけでなく、戦にて敵の人間を殺すようなご時世。
他の動物の肉を食すのは、肉食動物が他の動物をエサにするのと同じこと。だから、よいのじゃ。」
仏教の僧が、このようなことを言うのもなんだと思ったが、肉食禁止令については、僧のなかでも意見が分かれるところ。
戦国時代の頃は肉食を容認する風潮も蔓延したという。なにしろ、僧兵として戦場に出て敵の兵と戦うこともあったのだから。
一向宗や石山本願寺などのように、一大勢力を築き上げた者たちもいた。
彼らは自らが死ぬことも恐れないような、戦闘集団でもあった。
これらの仏教勢力の動向も気になっていたところだったが、それ以外にも、情勢は刻一刻と移り変わっていた。
こうしたなか、時はまさに戦国の世の中でも激動の時期といわれる天正年間を迎えていた。
当時の天皇は正親町天皇。
足利幕府は既に滅び、また浅井、朝倉も滅ぼした。それでもなお信長に敵対する勢力との戦いは続いていく。
天正元年、西暦1573年も暮れの時期を迎えていた。
その12月26日には、足利将軍義輝を殺害した首謀者の、松永久秀が降伏する。
翌年の天正2年、西暦1574年の1月19日、越前の一向一揆が発生する。
織田軍は、ただちにこの越前の一向一揆を鎮圧するべく、秀吉と光秀の軍勢を差し向ける。
信長の命令が下る。
「秀吉!光秀!ただちにこの越前の一向一揆を平定するのだ!よいな!」
その頃、秀吉は今浜に城を持ち、今浜を長浜と改めた。そして、城の名前を長浜城とした。
この頃、時の領主の都合によって、城の名前や、土地の名前がよく変えられたという。
場面は秀吉が長浜城の城主となり、めでたく一国一城の主になったことを、信長に報告する場面。
「秀吉よ。そなたもついに一国一城の主となったか。」
「ははっ…!」
「しかし、一国一城の主に、木下藤吉郎というのはのう。名字を変えるとよい。」
木下藤吉郎から名字を変えよという。
戦国武将に限らず武士の世界では、出世するごとに名字や名前を変えたりする習わし。
「それならば、よい考えがあります。信長様の重臣の、丹羽様、柴田様の一字をとって…。」
丹羽長秀→羽
柴田勝家→柴
「これで、『羽柴』と、名乗りとうございます。」
「羽柴か。よい名じゃな。」
こうして木下藤吉郎秀吉から、羽柴秀吉と名を改め、
さらには筑前守の称号を与えられ、羽柴筑前守秀吉と名乗った。
その秀吉と光秀を、越前の一向一揆攻めに起用した信長。
秀吉は、ここはどう攻めようかと考えていた。
光秀も交えての作戦会議。ここでとんでもないことを言い出す者がいた。それが、またまた、天海だった。
「天海、いい加減にいたせい。このような時にいつも口をはさむ。」
「いえいえ、こたびは、これ以上ないほどのとっておきの攻略法を、お見せしましょうぞ。」
「これ以上ないほどの、とっておきの攻略法じゃと…?」
それこそが、現代の兵器を使った攻撃だった。
現代の兵器をもってすれば、刀、槍、弓矢くらいしかない相手など、ひとたまりもないと、天海は考えていた。
「ただし、万が一の時は、その現代の兵器の技術が、敵の手にわたってしまうというリスクもある。
そうなったら現代の兵器同士での戦となり、戦のやり方がこれまでとは、まるで変わってしまうということにもなってしまうのじゃが、それはさすがに回避しなければなるまいな…。」
それを聞いていた前田利家が口をはさんだ。
「そのようなわけのわからぬ兵器など使いおるのか!
戦国なら戦国らしく、戦国の戦い方で戦え!」
いくらなんでも現代兵器をバンバン使うというのも…。戦国の流儀に反すると言いたいのだろう。
差し障りのない程度に、使用するというのは…。
たとえば、手榴弾とか…。
この国で一番最初に火薬が使われたのは蒙古襲来の時で、まさに手榴弾のようなものだったと伝えられている。
そしてまもなく、戦いが始まるところ。こちらには鉄砲もあるし、鉄砲でバンバン撃つという手もある。
さて、どうするか…。




