第10話 天海、会議を盗み聞き!墨俣一夜城伝説の真偽!
今川義元を討ち取った織田信長だったが、次の目的である美濃は、攻めあぐねていた。
美濃は、「マムシの道三」の異名をとる、斉藤道三が、一代にして築き上げた国として有名だった。
そして、その居城、稲葉山城は、難攻不落の名城として、知られていた。
確か、油売りの行商から、美濃一国一城の戦国大名にまで、登り詰めたという逸話で、有名だという。
ところが、その斉藤道三は、息子の義龍の裏切りにあい、討ち死にしてしまったという。
「おのれ義龍!おじきの敵は、いつか取る!」
信長は道三を、「おじき」と呼んで、慕っていたという。そのおじきが、討ち取られてしまったというのだ。
ところが、その義龍もまた、謎の死を遂げるのだった。
「義龍があのような死に方をするとは…。
しかし我らにとっては、またとない機会!」
信長は思ったという。
義龍の死後、その義龍の息子である龍興が、斉藤家の跡目を継いだが、正直な話、とても頼りにはならないような感じだったという。
しかしながら、かのマムシの道三が、かつて率いていた軍勢。
信長軍も、これには攻めあぐねていた。
「ええい!まだ美濃を、攻略できぬのか!」
この美濃を攻略しない限り、その先へは進めないということは、みんなわかっていた。
しかし、それでも攻めあぐねていた。
そこで、何か秘策はないかと、家臣一同を集め、緊急会議を行うということが、決められた。
その緊急会議の様子を、密かに盗み聞きしていたのは、天海だった。
「して、サルよ。何か秘策はあるのか?」
サルと呼ばれていたのは、木下藤吉郎こと、秀吉だった。この木下藤吉郎には、美濃攻めを有利にするための、何か秘策があるらしい。
その秘策を、今まさに、信長に伝えているところだった。
「むっ!?誰じゃ!?盗み聞きをしておるのは!?」
やばい、気づかれたか…。
そう思った。これは間違いなく、その場で手討ちにされてしまう、なんてことにもなりかねないと、覚悟していたが、
「なんじゃ、誰かと思えば、天海ではないか。」
この会議の場には、佐久間信盛、柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益といった、織田家の重臣たちが、集まっていた。
それと、木下藤吉郎と、前田犬千代、後の利家も参加していた。
その頃、天海は、木下藤吉郎や、前田犬千代らと、親交を深めていた。
同じ頃、木下藤吉郎は、おねと、前田犬千代は、まつと、結婚して、所帯を持っていた。
天海も、いずれは所帯を持ちたいと、願っていた。
そして、会議が終わった後に、あらためて、木下藤吉郎と、前田犬千代に、信長に報告していた、美濃攻めの秘策について、話を聞いてみることにした。
「木下藤吉郎殿。美濃攻めの秘策とは、いかに?」
「実はのう、墨俣というところに、城を築くことにしたと、報告をしたのじゃ。
それもな、一夜にして、城を築いて見せると、報告をしたのじゃ。」
「なんと!一夜にして!?」
一夜にして城を築くなんて、それこそ魔法でも使わない限り、無理だろうと思ったが、
これが世に名高い、
「墨俣一夜城伝説」
というものだと、すぐに悟った。なるほどな…。「墨俣一夜城伝説など、話では聞いていたが、話の中だけの話じゃと、思っておった。
しかしここにきて、まさか本当にそれを、この目で見ることになろうとは…。
果たしてこの一夜城伝説が、本当に本当なのかどうか、この際、見届けてやることにしよう…。」
天海はそう思い、さっそくその、一夜城を建てる予定の、墨俣まで、足を運ぶことにしたのだった…。
「やれやれ、いくらなんでも、本当に建てられるものかな…。」
そして夜。木下藤吉郎の手勢たちが、何か運んできた。
なるほど、あらかじめ、いくつかのパーツとして用意しておいて、
あとはそのパーツを、まるでパズルか、プラモデルを組み立てるようにして、組み立てていけばいいと、そういう発想か。
まあ、一夜城とは言ったが、実際には簡単に組み立てたり、分解したりできるような、簡単な砦のような感じだと。
「くふふ…。斉藤の軍勢は、翌朝起きたとたんに、これを見たら、さぞや驚くぞ…。」
この事実を全て知っていたのは、天海だけだった。
もちろん、信長も、信長の家臣団も、まさか本当に藤吉郎が、一夜城などというものを建てられるなどとは、誰一人、本気で信じる者はいなかったという。
そして、翌朝…。
「うーん…。まだ眠いな…。」
「ん…?あれ…?あれは…?」
案の定、斉藤の軍勢は、驚き、腰をぬかした。
「これは夢なのか?いつの間にか、あんなところに、城ができているぞ!」
そう言った斉藤の兵は、頬をつねってみた。
が、やはりこれは、夢などではなかった。
まぎれもなく、昨日の夜までは、その場になかった城が、そこに建っているではないか。
「大変だ!大変だ!龍興様に、ご報告しなければ…!」
そしてその様子を一晩中見ていた天海は、笑いころげた。
「はっはっは!見ろ!あの斉藤の軍勢の驚いた顔を!
本当に木下藤吉郎は、一夜城を築いてみせたのだ!はっはっは!」
天海は笑いころげ、そのまま寝てしまった。
そういえば、一晩中寝ないで、様子をうかがっていたのだから…。
そして、再び起きた時には、昼食の時間になっていた。
天海は、昼食を済ませた後、たぶんとっくにバレているのだが、
誰にも気づかれないように、こっそりと寺に帰ってきた。
そして、なに食わぬ顔で、家臣団の面前に姿を現し、談笑を楽しんだ。
他の家臣団も、実はとっくにこのことに気づいてはいたのだが、
やはり、なに食わぬ顔をして、全く気づいていないふりを、していたのだった。