第9話 家康との蜜月の始まり
織田信長の軍勢が今川義元を討ち取ったという知らせは、既にこの人物のもとにも届いていた。
それが、当時は松平元康と名乗っていた、若き日の徳川家康である。
「何!?義元様が、織田信長の軍勢に討ち取られたと!?
…それはまことなのか!?」
そして、それを聞いた、松平元康が、真っ先に向かった先は、今川屋敷にいる、義元の息子の、氏真のところだった。
「氏真様!お父上の、義元様が、織田信長の軍勢に、討ち取られたとは、まことか!?」
「さよう、まことじゃ…。」
「このまま手をこまねいておるのですか!
一刻も早く、とむらい合戦の支度を…!」
元康は氏真に、父義元の、とむらい合戦を勧めたが、当の氏真は、
「ひいいいいっ…!あの織田信長という男は恐ろしい…!
わしは今は何も考えとうはない…!
下がるのじゃ…!元康…!」
氏真は父義元が、織田信長の軍勢に討ち取られたと聞いたとたんに、すっかり腰をぬかし、怯えきった様子だった。
「…ええい!もうよいわ!」
「元康様!元康様…!」
元康はそんな氏真に愛想をつかし、立ち去っていった。
「まったくもって、あれでは腰抜け大名ではないか!
とむらい合戦を勧めたのに、びびって動こうともせぬ!
この際だ!今川とは手を切り、織田と手を組む!」
「なんと!織田と!?」
供の兵も驚きの表情を見せたが、元康の決意は固かった。
そして、そんな元康を、まず最初に出迎えたのが、天海だった。
「おお!あの時の小坊主の、天海ではないか!久しいのう!松平元康じゃ!
あの時の、岡崎城にて会った小坊主が、今やこんなに成長してな!」
「松平元康殿と…!確か、岡崎城にて、幼少の頃に、会って以来ですな!そちらこそ、確かその頃は竹千代と名乗っておいででしたが、
いやいや、こんなにご立派な武将になられて…。
」
そしてこの2人はお互いに、つもる話で盛り上がった。
さて…。
この天海は、後の天海大僧正となる、あの天海なのだが、
実はこのはるか未来の時代からこの時代に転生してきた、
この時代の未来の時代の中高生、高山一郎が転生してきた姿でもあった。
本当のことをいうと、平凡な中高生、高山一郎が、ある日突然、原因不明の死を遂げ、気がついたら赤ん坊の天海に生まれ変わっていた、というところから、始まっている。
だから、高山一郎が前世で学習してきた、歴史の知識、史実の流れの知識などは、この天海の頭の中にも、しっかりとインプットされていることになる。
だから、徳川が今川を見限り、織田についた今回の一連の流れも、全て、史実の通りにいっていると、わかっているということ。
そして、この時から、家康の晩年、さらに先まで、徳川家と天海の蜜月関係は、続いていくということになっていく。
2人のつもる話はさらに続いていた。
「実はな、わしは、まず義元様が天下を取って、今川幕府を開幕し、その後、義元様の死後、その混乱に乗じて、徳川がとってかわり、徳川幕府を開く、という、そのような筋書きも考えておったのだがな。」
「ほほう、それで?」
「しかしな、実際には、義元様はともかく、あの氏真様では、とても任せられないと、判断したまでじゃ。」
「なるほどな。わかり申した。この天海も、それが良い決断だと、思いまするぞ。」
結局、この2人は、かなり長い時間、話し込んだのだった。




