蜉蝣の唄
体が地面に沈んでいきそうだった。一歩一歩、体が覚えているよりも深く沈みこむ感覚。一日寝ても疲れはとれず、常にどんよりとした不快感に体を包まれている。
これが、老いか。
二十歳を過ぎ、それでも何も変わらなかった数年間。それが、突然に終わりを告げた。いや、もしかしたらとっくに始まっていたのかもしれない。けれど、唐突に気付いた。
かつてのような、内からあふれ出るエネルギーが、今はもうない。当時は全く意識しなかった、体中にみなぎる力が、嘘のように消え失せていた。
植物の死に様が思い起こされる。同じ生物である以上、あれは自分の姿でもあったのだ。日々体から弾力が失われ、枯れていく。不可逆である体の変化が、良くない方向へ進むことなど考えもしなかった。一秒前より良い自分。それがずっと連続していくのだと思っていた。
だが、そうではない。
命は消耗品なのだという、確信。自分に与えられた生命という形のない消耗品を、毎日少しずつ減らして時を過ごす。
漠然と恐怖を覚える。当たり前のこととして受け入れていたはずの、自分もいつか死ぬという真理。それが、突然に現実味を帯びて感じられる。
自分は一体いつまで生きられるのだろう。
この入れ物は、いつまでもつのだろう。
いずれ死ぬ。いずれ果てる。
そうであるならばいっそ、とまでは踏み切れない。中途半端な諦めと渇望。この灰色の中で、私は一生を終えていく。永遠の灰色に溶けていく。
どうか、それまでは。
それまでは私と共に歩んでほしい。
私のことを離さないでくれ。
私をおいて行かないでくれ。
あゝ、毛よ。