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森に一人の青年が倒れていた。風変わりな衣服を身に纏い、どこか妖しげな雰囲気を漂わせている。
とある少女が倒れた彼を見つけた。少女は少し立ち止まった後、来た道を駆け出した。
程なくして少女が森の中へと戻ってきた。町の者達に呼び掛けに言ったのであろうか、少女の後ろには数名の男女が共にいる。
すぐに青年は町へと運ばれ、宿屋にて寝かせられた。傷などが特に無く、倒れていた理由はわからないままであった。
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十数年前、突如として空が闇に包まれた。それ以来、昼夜の境はなくなり人々からは活気が消えた。
人々の活気が消えることと時を同じくして、魔物――モンスターと呼ばれる人ならざる存在が活発に行動するようになった。
モンスターによる行動は、野外に限るものでは無い。それらは村を町を城を襲いだした。まるで、何者かに命じられたかのように。
モンスターによる攻撃から身を守るために、壁で村や町、城を外界と隔離した。だが、それにも限界がある。度重なるモンスターの攻撃により各地で壁が壊されていく。
進攻するモンスターに人々は次々と倒れていく。
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「モンスターだッ!!中にモンスターが入ってきたッ!!」
「壁が壊されたッ!!逃げろッ!!」
「このままじゃ、殺されるッ!!逃げろ」
「クソッ!!何処に逃げればッ!?」
町中が騒がしい。モンスターが壁を壊し、進攻してきたのだ。人々は逃げ惑い、事態は混乱を増していく。
少女が、外の異変に気付いた。歳は十九といったところだろうか。その外見に特に変わったところはない。強いて言うならば、右腕の腕輪……それにはめ込まれた宝石だろうか。
「なんか騒がしいな……」
少女が外の様子を見るために、窓辺へ寄ると……。そこには、逃げる人々と彼らを襲うモンスターが
「逃げなきゃ………」
少女が家から出ようとする――だが、既に遅い。モンスターが扉を開けた先、少女の少し遠くにいたからだ。人間の何倍もある巨体、鋭い爪、禍々しい顔……この世のものとは思えぬ存在がすぐそこにある。それも一体ではなく、何体もだ。
「くっ………」
苦しげな表情を隠せず、全身は恐怖で固まり動かない。
「どうすれば……?」
モンスターは一歩、また一歩と近づいてき、じわりじわりと距離が狭まっていく。
もう逃げ場は無い。間違いなく殺される。―――そう思った瞬間。
「なんだ……この光…?」
不思議なことが起こった。先程まで恐怖で動けなくなっていた少女が、その光景に目を奪われる程に。前進し続けていたモンスターが戸惑い、立ち止まる程に。
「右腕が光ってる……?」
少女の右腕から光が放たれる。そんな異常事態が起こったのだ。正確に言えば、彼女の右腕の腕輪……はめ込まれた宝石から、虹色の輝きが放たれている。
「一体……どうなってるの?」
少女の疑問は尽きない。だが、モンスターの前進は再度始まる。少女もそれに気付き、何も出来ずにいる。だが少女には一つだけ、考えがある。否、それは考えと言えるようなものではない。ギャンブルと、そう形容するのが最適だろうか。
(この光が……モンスターに対抗できるものなら……)
少女の賭け、その正体は腕輪に隠された力だ。だが、腕輪に力があるとかは限らず、仮にあったとしても確実に場を切り抜けられるわけではない。そもそも、発動するかさえ定かではないのだ。
(きっと……きっと何か……)
だが今の少女には、自分にとって好都合な可能性を……御都合主義な未来を期待することしか出来ないのだ。
「……………っ!!」
何も起こらぬまま時間は経ち、モンスターの攻撃が届く距離まで近づかれた。
モンスターの拳が振り上げられる。それを見た彼女の頭には、過去の想い出が勢いよく掘り起こされる。走馬灯のように駆け巡った。振り上げられた拳は、少女を目掛けて下ろされる。少女は本能的に、自分を守ろうと手を頭上で交差させて防御の姿勢をとる。
モンスターの拳が、少女の交差した手に当たる。あとは殴り抜けられるだけで、少女は死ぬ。そう思われた―――。
「えっ………?」
拳が止められている。完全に止まっている。それも、少女には直接当たらず腕輪だけに拳が触れた状態で。
「なっ!?くあっ…………!!」
拳は止まったまま、腕輪だけが砕け、少女が吹き飛ばされる。だが、それは殴られた衝撃が原因ではない。それならばこんな現象は起きない筈……攻撃を仕掛けた側が後方へ別の仲間と共に吹き飛ばされるなんてことは。
少女は家内の壁まで飛ばされ、背中を強く打つ。
「あぁ……終わりなのかな」
少女は悟る。一度は攻撃を防ぎ、モンスターも一時的に退けた。だが、それは一時的に過ぎない。自分には強打した背中の痛みがあり逃げることなど不可能だ。しかし、あの程度でモンスターは完全には倒せない。また攻撃範囲内まで近づかれるのは時間の問題だ。
「……………っ」
悔しい。少女には、これまで感じたことのない程の悔しさだけが残った。
少女の意識は、そこで途絶えた。
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赤く染まった町が見える。暗い空を照らす、光。
「生き……てる……?」
少女は、自分が生きていることに気付いた。そして、疑問を得る。それは、生の感覚ではなく、視覚に対して。空を照らす光へ。
「炎……燃えてる?」
炎に包まれた世界がある。それは、モンスターによって彩られたものではない。そんなことを出来るなら、最初から全てを燃やされていた筈だ。
「一体……何が……?」
少女は気付いていない。炎が自分を守るように、自分以外の全てを燃やすように広がっていることに。
「あっ、意識が戻ったんだね」
「誰………?」
これまでに聞いたことのない声が響く。
「上だよ。上」
少女が声のした方……頭上へと目をやると……。
「初めまして、契約者様」
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「精霊を使う女……か」
燃え盛る町が一望できる丘。その地に、一人の男が立っている。
「フッ、面白い」
そう言って、彼は……風変わりな衣服を身に纏った青年は、その場を立ち去った。