夜風
夜が更けても宴会は続いている。
余興の芸をめいめいが披露している傍で、既に村人の幾人は床でダウンしていた。
村人に交じってよく見ればサルのウッドホークも泡を吹きながら床に転がり何やらぶつぶつつぶやいている。
「次、シルビア人化しま~す」
シルビアがそう言うと椅子の上に立ち、猫の姿から女性の姿に変わった。
尻尾と耳が猫のままだが。
ひゅ~ひゅ~~
男たちの拍手と口笛が鳴り響いた。
「服 服忘れてるよ~シルビア~」
ゾットが目を手で隠しつつこっそりのぞいている。
「あ・・・ごめん~ 猫の時は服着ないから服忘れてたぁ~~~ 」
シルビアがまた猫の姿に戻った。
「いらんこと言うな魔王!」
エドが炎を噴きながら吠えている。
「ここの人って みんなこんな感じなの?」
かのんがゾットに尋ねた。
「ああ、ここは訳ありな奴しかいない。
訳あって世間から居られなくなった奴らが集まってるんだ」
ゾットは続けた。
「シルビアは人間だったのがウエアーキャットの感染してあのザマだし。
ウッドホークは魔道実験の実験体おりこうにさせるつもりが賢くなりすぎて、
持て余したのが逃げ出したんだ。
エドは喋らないからわからないがな」
かのんの顔が曇った。
ここに居るガキの3人組だってそうだ。
魔王の傍の椅子で昼間勇者ごっこしていたちいさな男の子二人と女の子一人が体を寄せあってすやすや眠っている。
「赤髪の男の子のほうはセージ、黒髪の男の子のほうはバジル、金髪の女の子の方はローズだ。
こいつら親に捨てられたんだ、こいつらだって本当の名前は知りはしない」
かのんはその話を聞いて涙が溢れそうになっている。
「でもさぁ ゾットの所にいるから こいつら幸せなんじゃないのぉ?」
猫の姿に戻ったシルビアが近寄り話しかけ、さらに続けた。
「センス無いから変なあだ名で呼ばれるのは勘弁だけどぉ。
セージは初めて会ったときに、セージの花を体にくっ付けていたからセージ。
バジルはバジルの畑を走って逃げてきたらしく体中からバジルの臭いがしたのでバジル」
「じゃあローズは、バラの花壇を駆け抜けて体中にバラの花びらが付いていたから?」
かのんは尋ねた。
「ば~か そんな事したら痛いだろ? むしろそんな事お前できるのかよ」
悪態をつきながら、セージと呼ばれた赤髪の男の子が寝転がったまま話かけてきた。
「何時もバラの香水の瓶をもって、ほのかにバラの匂いがするからローズなんだよ」
言われてみればバラの匂いがほのかにしている。
「おれたちを憐れんだ目で見るんじゃ無いからな。
これで結構満足してるんだ、変なあだ名以外は」
「そ そんなつもりじゃ無かったんだけど、ごめんなさい!!」
かのんは思いっきり頭を下げた。
「ゆるさん! 鳴いて謝れ!!」
セージが腕を組み偉そうな態度でふんぞり返って机の上に立ちかのんを見下ろしている。
「セージ あんまり女の子をいじめるなよ」
ゾットがさらに続けた。
「そんな訳で おれ達みたいなはみ出し者たちが生きていく場所も必要なんだよ」
ぼごっ!
その時セージの鋭い蹴りがゾットの顔面にヒットした。
「おれ達は、はみ出し者じゃない。
ゾット様もゾット様だ、何時もへらへらしやがって、
無抵抗にやられまくってその態度に腹が立つ」
「ごめんごめん はみ出し者じゃなかったな、今日のは本当に些細な事だし怒るまでも無いさ」
ゾットが笑いながら答えた。
「けっ やってられね~な」
セージは机から飛び降り城の扉を開けた放つと夜道を何処かに走り去って行った。
「まって!」
かのんが話しかけるのは彼には聞こえていないようだ。
「ほっとけよ、あの年頃にはよくあることだ。
しかも毎度のことだ」
エドがことなげに話してる。
「ほっとけないよ 連れて帰ってくる」
かのんはセージの後を追って城の外の暗闇へ駆け出して行った。
吹き付ける風に海の生臭い匂いが交じっていた。
「今日は妙に嫌な風が吹くな……」
エドが呟いた。