本当の強さ
「何時もの事だしぃ 気にしないでいいよぉ~ うちのボス演技がへたくそでごめんねぇ」
猫が口を開きさらに続けた。
「こうやって会えたのも何かの縁だしさ、お茶でも飲んでく?
美味しいパイもあるからさ、ねっ」
かのんはネコが喋るのが信じられないようだ。
興味深そうにネコを見つめている。
ネコは更に話を続けた。
「うちらも、たまに勇者側の意見も聞いてみたいしさぁ
そう言えばまだ名前聞いてなかったね、あんたの名前は?」
「変な猫が喋っている?」
かのんは驚きを隠せないようだ
「ね、ねこ~? しかも変な猫って言うかな~ 普通~」
ネコは目を丸くしてかのんを見つめている。
彼女が何者か測りかねているように見えた。
「あ・・・ ごめんなさい! 変なねこさん 私の名前は瑞樹かのんです。」
かのんは謝ったが、まったくフォローになっていない。
猫はあきれた様子でさらに続けた。
「かのんか あたしはヘルパンサーのシルビア、そこの変な犬がケルベロスのポチ、そこの変なサルがインファーナルモンキーの次郎、」
「変な犬言うな! さらにポチって名前でもないわ!! 俺の名前はエドワードだ」
変な犬が吠えた。
「もう 次郎でもいいです・・・ 本当の名前はウッドホークなんですけど」
サルは頭を抱えながら喋っている。
かのんは奇妙な光景に興味津々なようだ
「シルちゃん、オレの説明は?」
魔王が自分に指をさした。
3匹は魔王のほうに一斉に振り向き、口をそろえて、
「自分でやれ」「自分でやればぁ?」「自分でやって下さい」
がくっと 魔王は肩を落とした。
「オレの名前は、ゾット これでも一応魔王だ」
「全然怖くなくて威厳も無いから、全然魔王らしくないけど 一応魔王さんなんですね」
かのんは何時もの調子で話している。
「全然怖くないか」
ゾットの顔が心持ちほころんだように見えた。
「みんな宴にするぞ~」
”””
魔王の城で宴が始まり、気が付けば先ほどの子供や村人も集まっていた。
テーブルの上には村人の持ち寄った料理が並んでいる、先ほどシルビアが話していたミートパイも食卓を賑わせ、めいめい楽しそうに宴会を楽しんでいる。
その最中城の扉が乱暴に蹴り開けられ、酒臭い一向が乱入してきた。
「ここは魔王の城だよなぁ?」
リーダーらしい男が酒臭い匂いを放ちながら叫んでいる。
一瞬で城の空気が変わった。
「ああ お宅らも料理目当てで宴に来た口かい? 歓迎するよ、料理は楽しんでいきなよ」
ゾットが言い終わる前にリーダーらしき男はゾットの頭をワシ掴みにした。
「歓迎してもらう必要はねぇ 魔王を倒しに来たんだ。
魔王はどいつだ?」
彼は吐き捨てながらゾットの顔を皿に押し付けた。
顔を上げたゾットの顔にはミートパイが張り付きキバのようになっている。
「あ~もったいねぇ このミートパイ旨いのにな」
ゾットはまったく気にする様子もなく顔に張り付いたパイを舌で食べようとしている。
「魔王様にキバが生えちゃった~ 魔王と言うからにはキバが無いと締まらないよね」
かのんは何時もの口調で話すと一同大爆笑。
「キバや角がなんて有っても無くても、威厳が無いのはあまり変わりませんがね」
サルはクールに答えた。
「こんな馬鹿が魔王なんて、なんかやる気削がれちゃう」
露出の多い服を着た一行の女が呟いた。
リーダーらしい男も毒気を抜かれたようだ。
「キバがあるなら角もあったほうが良いだろ~?」
リーダーらしい男は、コルネパンをゾットの頭に押し付け角のようにしている。
「似合うかい?」
ゾットは笑顔で村人のほうを振り向いた。
爆笑の渦が巻き起こった。
クールなサルも口を押えて必死に耐えている。
「けっ 馬鹿の相手はやってられねえ 帰るぞ」
そう吐き捨てると、テーブルの上にあったパンでゾットを殴りつけ、
唾を吐きかけると城から去って行った。
ゾットは下手な演技でやられたふりをしている。
「今のやられた演戯どうだった?」
ゾットの顔についた唾を拭きながら、みんなに尋ねた。
シルビアは気にする様子も無くパイをかじっている。
「あたしはの~こめんとぉ かのんに聞いてみれば?」
かのんは目を丸くして、ゾットに尋ねた。
「あの……、 あんな事されて平気なんですか?」
ゾットは笑いながら、かのん答えた。
「あんなこと?
唾なら拭けば済む話だし、パンで殴られたくらい何でも無い些細な事だろ?
ここのみんなに笑いを与えれたからむしろ感謝したいくらいだぜ」
「違いねぇ」
エドワードは笑っている。
また城内に宴の喧騒がもどった。
ただ一人小さな男の子がゾットを見つめているのをのぞいて。