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重い沈黙を断ち切りジルは重い口を開き始めた。
「お前さんは、不思議な娘じゃの」
かのんは満面の笑みで答えた。
「みんなから何時も言われてますよぉ」
ステラは半ばあきれ顔で聞いている。
「でも、みんなから不思議ちゃんと何時も呼ばれてたりしたのをよくわかりましたね」
ジルは笑いを堪えるのが必死なようだ、ときおりむせながら口を押えている。
そして笑いながら更に続けた。
「お嬢さんすまんが、馬車から降りてもらえんかな? この馬車もわしらと同じで、すでに老体なのだよ」
かのんはふっと気が付き
「あっ 私が乗っていたらこのおんぼろ馬車壊れちゃいますよね?
ごめんさい!!」
かのんはひょこりと頭を下げ、馬車の荷台から飛び降りた。
「おんぼろだけは余計じゃ・・・」
ジルがぽつりとつぶやいた。
そんな旅路が数時間遠くに町の入り口が見えてきた。
何処でもありそうな普通の田舎の村だ。
ただひとつ村の入り口に「魔王あります」と書かれた古びた看板がある以外は。
馬車は村の石畳の道に入りさらにぎしぎしと悲鳴を上げながら進み町はずれにある一軒の家の前にたどり着いた。
「さて ここがわしらの家じゃ、お嬢さんはどうするつもりなんじゃ?」
かのんはうつむいた。
いきなりこの世界にやって来て行くあてなどもある筈もない。
このままじゃ 今夜のふかふかのベットもそれ以前に今夜の晩御飯すらも怪しいものである。
そう考えると無性に悲しくなって、かのんは後から後から涙がこぼれてきた。
「訳ありって感じだね」
ステラが口を開いた。
「お爺さん、身の振り方が固まるまで置いてやったらどうだい?
幸いうちには部屋が空いてる事だし 家の事を手伝ってくれれば私も助かるからね。
でもうちに住む以上はお客扱いしないからそれでも良いならね。」
ジルも
「婆さんがそう言っているし 行くあてが無いなら 暫くここに住んで居てもいいぞ」
「本当?」
かのんは顔を上げた。
「本当だとも、わしは嘘は言わんよ」
ジルは答えた。
「ありがとうジルお爺さん ステラおばあさん」
かのんはぐしゃぐしゃの顔で笑顔を浮かべた。
「その分 お手伝いはきついから覚悟しておくようにね」
ステラは続けた。
「かのんの部屋は入ってすぐ左の部屋が空いてるからそこを使えば良いさ
服とかも適当にタンスにあるから適当にね、その奇妙な服じゃ何もできないだろ?」
「は~い」
かのんが家のドアを開けて思わず、
「小汚い家ですね~」と呟いた。
その直後
ぼこっ! 鈍い音と共に軽い痛みがかのんの頭に走った。
「あたたた!」
かのんは頭を押さえた。
ステラの竹ぼうきの柄がかのんの頭を見事にとらえている。
「うちの子として居るんだから、居るうちは行儀作法も気を付ける事!」
「は~い」
ぼこっぼこっ!
ステラがかのんの頭を箒で二回叩いた。
「返事は『はい』だよ」
かのんは頭を押さえつつ は~いと伸ばしそうになるのを堪えつつ
「はい」と答えた。