戦いの結末
イザベラの国王就任が終わっても、未だ、金髪の天使と漆黒の女神、二人の戦いは続いていた。
石造り倉庫が多く立ち並び、まるで倉庫街のような狭い路地裏で、れいなと向かい合うかのん。
金髪の天使のほうは、汗だくのボロボロの姿で、重そうに諸手で青い剣をだらんと下げ、「はぁはぁ……」あらく息を切らしていた。
背中のOEのツバサに至っては、ほとんど純白の羽は残っておらず、穴だらけでかろうじて双翼の形を保っている状態だ。
「……」
一方の漆黒の女神のほうは、アンダースーツはすでにボロボロに破れ果て、筋肉質な健康的な裸体を漆黒のアンダースーツのすき間からさらしており、背中にあった漆黒の双翼はすでに消え失せていた。
だが、彼女は強い視線でかのんをみつめ、あらく息をつきながらも、スッと刃を構え、尽きることない闘志のまま かのんに漆黒の刃を突きつけている。
マッパの金髪の天使とボロボロになった漆黒の女神、二人の戦いは最終局面を迎えようとしていた。
「れいなさん、教えて……」
れいなと向かい合うかのんは、呟くように れいなに尋ねた。
「――あなたの目的はいったい何なの?
どうして、あなたの剣からは悲しみしか感じないの?
どうして、アナタが薬を手に入れようとして居るのか、教えてくれないの?」
子どものように、どうして、どうして、と矢継ぎ早に尋ねるかのんに 漆黒の女神は、刹那 表情をとめる。
「ーーアタシの目的? 薬が欲しい理由?」
れいなは呟くようにそう言うと、軽く目を細め、
「自分の目的をアンタに教える義理はない。
――自分のために力ずくで薬を奪おうとしている、タダの極悪人よ……」
れいなは、かのんの問いに感情をこめずにそう答えると、目を細め自嘲気味に、
「――それで良い……」、と呟くよう言葉を継ぐと、軽く目を閉じる。
「れいなさん、あなたは本当は……」
「アンタとのおしゃべりの時間はもう終わり、行くわよ」
れいなは、不安そうな表情のかのんの言葉を途中で遮ると、すっと二刀流で刀と短剣を構え、かのんに漆黒の刃を突きつける。
彼女の長い髪が闘気にふわりと舞い上がり、周りの空気がピンと張り詰めてゆく。
「……」
かのんもれいなに促され、何か思いつめたような表情のまま、けれど、何も言わず、だらんと下げた青い剣を無形の形で構え、魔力を込めた。
かのんの剣、そして体中が魔力で青白く燃え上がる。
そして、向かい合う二人の間の空気が痛いほどに張り詰めてゆく。
「………」
「……」
そして、お互いにタイミングを図るふたり。
「――!」
落ちる木の葉を合図に漆黒の女神と金髪の天使が突撃し、空気が爆ぜ、漆黒の刃と澄んだ青の刃が張り詰めた空気を切り裂いてゆく。
”
ちょうどその時、二人の激突に気が付いた人影がいた。
かのんとれいなが居ないことに気がつき、大木の上から、二人をさがしていたシルビアである。
彼女は、二人の様子を見るやいなや、彼女は彼女は上着を脱ぎすて、冷たい殺気を研ぎ澄ませた。
ーーそして、感情をこめず、
「れいな。 もうアンタを許すわけには行かない……」、
彼女はそう呟くようにそう言うと、上着を脱ぎ捨て、漆黒の剣をぬき出すと、刃の様に冷たい殺気を研ぎ澄ませた。
「裏切りの代償は、アンタの命よ……」
次の刹那、樹上のシルビアは剣をかまえ、木の枝から真っ逆さまになりながら飛び降りると、紫の閃光となって、漆黒の女神に背後から迫ってゆく。
"
金髪の天使と漆黒の女神が澄んだ青の刃と漆黒の刃と化し衝突する寸前、かのんは 握っていた剣から手をスっ、と手はなした。
そして、自分に向かって頭に向かって振り放たれる漆黒の刃の一撃を、ネコのように攻撃を体をよじらせて皮一枚で攻撃をかわし、刃筋をかのんのマッパの体の小さな胸、おなか、下腹部、足に向かってぬるりと受け流してゆく。
――相手の攻撃を最小限の動きで完全に躱す、散桜の動きだ。
そして、金髪の天使はれいなの剣を躱し終えると、漆黒の女神のすぐ目の前、体が触れる寸前まで、スっと残像を残すような身のこなしで体をすすめ、驚きを隠せない彼女の顔に視線をうつした。
「れいなさん。 もう、こんな悲しいことは やめようよ……」
かのんはそういうと、漆黒の女神の瞳をじっとみつめる。
そこには、金髪の天使の予想外の行動に目を見開きつつも、今にも泣きそうな顔で涙を浮かべた漆黒の瞳があった。
かのんは、そんな彼女の瞳をじっと見つめながら、さらに言葉をつづけた。
「わたしは、そんな悲しくて、苦しそうな顔をした人と戦えないよ……」
「アタシが、……悲しそうな顔?」
「――れいなさん。 自分でも泣いてるのに気が付いていないの?」
れいなの瞳には、かのんの言う通り今にも零れそうなくらいの涙が浮かんでいた。
そして、かのんをじっと見つめる彼女の表情は厳しく、つらく、そして、整った顔は悲しみ、憂いを帯びたものとなっている。
彼女が、レンを助けるルートが かのん達を裏切るしかないという、まるで彼女の地獄のように苦しい立場をにじませているような表情だった。
「……」
生まれたままの姿の金髪の天使は、無言のまま漆黒の女神の涙に溢れるオブシダンのような漆黒の瞳をじっと見つめながら、れいなを正面から抱きしめ さらに言葉を継いでゆく。
「お願いだから、自分の悩みをあなた一人で抱えこまないで。
れいなさんの悩みも、みんなで話し合って考えれば、きっとみんな幸せなれる よい方法はあるはずだからね」
――みんなで考えれば、誰一人不幸にならずに幸せになる道がある。
無邪気に語るかのんの子どものように甘く、どこまでも純粋な考え方は、現実を知ってる漆黒の女神には空しく響いたようだった。
彼女が、目をギュっとつむり、大粒の涙をこぼしていた。
みんな幸せなれるのはおとぎ話の中だけ、現実は非情だ。 誰かを救えば誰かが犠牲になる。
現に、薬は一人分、その非常な現実が身にしみて分かっていたからだ。
だが、かのんは、大粒の涙をこぼす漆黒の女神の顔をまっすぐにみつめながら、更に続けた。
「私は、どんなに大変な道でも、みんなが助かる方法をあきらめたくない。
……甘いと言われるかもしれないけど、――あきらめたら、もうそこで終わりでしょ?」
まじめな顔になり、強い口調でれいなを諭すように語るかのん。
――みんなが助かる道を探す。
誰が見ても、子供の様に甘い、ゆめものがたりのような理想論だけど、それは金髪の天使の揺るぎない決意だった。
語り終わったかのんの体から、春風のようにほんわかした魔力があふれだし、辺りをおおいつくしてゆく。
まるで戦いの張り詰めた空気を溶かすような、優しさにあふれた力だった。
「――かのん、黙っててごめん……」
漆黒の女神は呟くようにそう言うと、だらんと力なく俯き、その手からスルリ、と剣が抜け落ちてゆく。
そして、彼女は、覚悟を決めたように自分の目的を語りだした。
「レンという娘の命を助ける為に、どうしても其処にあるエリクシールが必要なの。 アンタ達に手を貸したのもそういう理由よ」
「れいなさんが手伝ってくれたのは、そう言う理由だったのね……」
れいなの話を聞き、マジメな顔をするかのん。
「ーーこれがアタシがアンタたちに隠して居た全て。
そんな隠し事をしていた自分が、いきなりアンタにはそんな事を頼むなんて あつかましくて、無理な事を頼んでいると判っている」
れいなは、「けどね」、と短く言うと、かのんから背をむけ大粒の涙を流しながら地面におちた深紅の刃を拾うと、短剣の切っ先を自分の胸に向ける。
「れいなさん、何を!?」
「卑怯な方法だけど、もうアタシにはコレしかアンタに頼む方法が無いの……。 そのエリクシールをレンに届けて……、
ーーアタシの汚れた命を懸けた最後の願いを頼んだわよ、かのん」
「ダメーー!!」
かのんの声にならない絶叫。
だが、れいなはチラリ振り向きかのん一瞥すると、
「止めてもムダよ。
――これが、アタシがずっと前から決めていた、今までやってきた事への責任の取り方だから」、と言うと力なく微笑んだ。
そして、漆黒の女神は静かに目を閉じる。
「あの時は酷い事をしてごめんね、かのん。
――酷い事をして来たアタシは許さなくても良い。 でも、あの子だけは助けてあげてね……」
彼女はそういい終わると、腕に力をこめ、切っ先を自分のムネに突き立てようと、グイと引き寄せた。
キンっ!
だが、次の瞬間、体を貫く鈍い音ではなく、金属同士がぶつかる澄んだ金属音があたりに響き渡った。
「えっ!?」
想像もしない感覚、音に目を見開くれいな。
彼女の目に映ったのは、シルビアが漆黒の女神のすぐ横に舞い降り、彼女の剣の腹でれいなの切っ先を盾のようにして、漆黒の女神に刺さるのを封じた光景だった。
「甘えるなッ!」
そして、シルビアの一喝とともに放たれる2閃め、彼女の一撃はれいなの手に合った剣を弾き飛ばし、シルビアは彼女の刀を奪い取る。
そして、シルビアはれいなを見据え、諭すような、自分の過去を語るような口調で語りだした。
「残されるかのんやレンの気持ちを置き去りにし、自分だけ死んで罪から逃げだして楽なって、ソレがアンタの償い方なの? 」
「……」
「アンタは自分の犯した罪の重さに気がついて、ずっと死にたがってるようだけど、死んで終わりにするのは逃げよ。
――償いと逃げは違う、自分の命を捨てて出来る償いなんてないのよ。 もしアンタが死んでいたら、きっとかのんは深く傷ついて大泣きしてたわ。 それがアンタの望むことなの?」
シルビアはそういうと、かのんをじっと見つめる。
そこには、表情をゆるめ、れいなが助かったことに安どの表情をうかべながら、大粒の涙を流すかのんの姿があった。
「どんなに辛くても、生きて自分のやってきた事の責任の取りなさい。
それがアンタが、かのんにできる償いかたよ……」
「確かに、そうだったわね……」
れいなは力なくそう言うと、崩れ落ちるように座り込んでしまう。
「れいなさん」
かのんは、崩れ落ちへたり込むれいなの前に歩み寄ると、漆黒の女神を正面からギュッと抱きしめる。
そして、いつくしむような手つきで、ポーチの中にある小瓶をれいなに手渡した。
「これをレンさんに使ってあげて」
「……よいの?」
「私は、れいなさんも、レンさんにも死んでほしくない。
――そこにいるイザベラとバジルの二人も、話せば、きっと分かってくれるはずだから」
かのんはそういうと、れいなの背後にいた二人の金髪と銀髪の少女たちに目を移す。
シルビアの後を追ってきて、やっと追いついたイザベラとフィリアだった。
「イザベラ、ボクも一生のお願いだから、レンさんに薬を使ってあげてほしいな」
「フィリア。 アナタが何を言っているのか分かってるの?」
フィリアの頼みに、ムスリとした表情で返すイザベラ。
「ボクは戻れなくても大丈夫。 だから、レンさんを助けてあげて」
「フィリアがそう言うのなら……仕方がない。 ママもコレで良いわよね?」
イザベラの問いに、無言だが笑顔で頷くシルビア。
「仕方がないわね。ソッチはダミーの小瓶、こっちにあるのが本物のエリクシールよ」
イザベラが落ちていたポーチを拾うと、ポーチが見る見るうちに変形し、古びた小瓶の形に変わってゆく。
彼女が隠していた、最後のエリクシールだ。
そして、イザベラはその小瓶を、驚きを隠せないれいなに手渡した。
「れいな、アナタは何ぼっとしているの? いくらこの薬でも、死んだ人は生き返らせることは出来ない。 助けたいなら、急ぎなさい!!」
「!!」
イザベラの言葉にハッとするれいな。
「ありがとう……」
れいなはそう言うと、渡されたエリクシールをにぎりしめ。全力でレンの元に走り出した。




