魂の叫び
夜明け間もないミッドランド広場。
薄暗い広場の真ん中には処刑台が置かれ、その上には兵士に連れられた二人の縛られた少女がいる。
――イザベラとフィリアだ。
「……」
彼女たちは、覚悟を決めたように俯いたままで何も言葉を発しない。
そして、その処刑台を取り囲むように、ぐるりと柵が張り巡らせられ、そのその側には大勢の市民が集まっていた。
彼らは、好奇のギラギラした視線を処刑台の上にいる二人におくっている。
そして、その光景を広場を見渡せる一段高い場所に置かれた玉座で、豪華な服を身にまとい、うでを組みながら座る男がいた。
国王エアフォルクだ。
「さ~て、処刑、処刑。 楽しい処刑♪
オレに逆らう物はみんな処刑ッ!
まずは、生意気なイザベラから絞首刑にしろ! 」
彼は狂気を帯びながら楽しそうにそう言うと、処刑台の少女たちとギャラリーを交互に見ながらイヤらしい笑みを張り付けていた。
「……」
その国王の光景を広場の少し離れた場所で腕を組み、鉄仮面のように表情を押し殺しながらじっと様子を見つめる鉄人のような男とドレス姿の少女と鎧姿の少年が居る。
守護騎士ルークと彼の配下のシェリルとロイだ。
彼は何も喋らず、表情一つ変えないが、薄暗いなかでも苦悶の表情を浮かべているのが判る。
――だが、彼の握り締めた拳からは、赤い涙をこぼし始めていた。
「……ルーク様。 私たちに、どんな命令でもお命じ下さい」
ルークの心情を察したのかシェリルは、彼の側でそっと呟くが、ルークはしずかにかぶりを振ると、
一言、「ならん」、と重い口調で言葉を発すると、そのまま押し黙った。
「……出過ぎた真似を申し訳ございませんでした」
シェリルは深々と頭を下げ、そう言うと、彼女もドレスの後ろに手を回し黙り込む。
「……姉上……ボクは……」
「……」
ロイはイザベラとフィリアと、姉を交互にみながら複雑な表情を浮かべ、シェリルに声をかけるが、彼女は返事を返さない。
彼女はまるで、自分で答えを出しなさい、と言わないばかりの表情を浮かべている。
「……ボクは守護騎士です、自分は従うだけです」
ほんの少しの沈黙の後、ロイは重い口調で震えながら口を開いた。
――自分は守護騎士、だと。
「そうですか……それがあなたの選択ね」
迷いながらも答えを出した彼に、シェリルは悲しそうな表情を一瞬にじませるが、すぐに表情を消し、
「――なら守護騎士の本分を果たしなさい」、と彼女はクールに締めくくっていた。
”
丁度その頃、処刑台の上では騒ぎが起きていた。
「この私が黙って殺されるとおもった?
往生際の悪さが我が家の家訓よ」
処刑台のイザベラはニヤリ口角をあげ強い視線でそう言うと、ロープで簀巻きの状態のまま、処刑人に頭突きして、さらに足に齧りつき、バタバタ暴れ、最後の足掻きをみせていた。
「……」
―― 一方のフィリアは覚悟を決めたように、俯いたまま何も抵抗をしない。
「このクソアマ、手間かけさせるんじゃねぇ!」
イザベラは、処刑人数人がかりで押さえつけられ、ロープが彼女の首にかかりはじめるが、この期に及んでも簀巻きは、更にじたばた大暴れしはじめる。
「私には、護るものがあるから死ねないのよ!」
イザベラは、強い視線でそう言うと、フィリアを見つめながら、
「諦めるな!
――少しでも足掻いて、足掻きまくって、ほんの少しでもいいから命を引き延ばしなさい!!」、と言うと、フィリア顔をスッと上げ、今まで死人のような顔にほんの少しだけ生気が戻るのがわかった。
――まるでお涙頂戴物の、姉妹がお互いをかばい合うような光景だ。
「きにいらねぇ!」
同時、処刑場の広場に罵声が響く。
其処に居たのは、調理器具を体に身にまとった男だった。
――コックのジョンだ。
「これをおかしいと思わねえのか?
仲間を助けるために薬を使った、いたいけな子供を処刑して、此れが正義かよ!?」
顔を真っ赤にした彼は、処刑を見に来た群衆を前に吐き捨てるようにそう言うと、更に続けた。
「お前らも、――これを見て何も感じねぇのかよ!?」
ジョンの魂の叫びだった。
――だが、群集の態度は変わらない。
何やってるんだコイツは? そんなさめた視線だった。
「ああ、そうかい!?
――オレは、一人でもヤルぜ」
ジョンはそう言うと、後ろで止める声も無視して、群衆をかき分けるようにして、柵の前に進み出てゆく。
暫くお休みしていましたが再会しました。
残りは早いうちに書きます!




