明かされた真実
セージとシルビアが特訓を終えて居た頃、
かのんとれいなの二人は未だに、たき火を囲んでいた。
セージを待ち疲れたのか、子供の様なあどけない表情で、たき火のそばでネコのようにまるくなり、毛布をかけて眠り込むかのん。
彼女の隣には、れいなは体操座りで遠い目をして、金髪の天使と、たき火の炎を交互に見ながら、考え込んで居た。
(この子の暴走モードには、アタシは手も足も出なかった。
――まだ自分は弱い……――でも、まだ強くなる方法は有るはずよ。
レンを助けるためにも、アタシが強くなって秘薬の争奪戦を制しないと……)
「こんばんわ、お久しぶりね」
考え込む漆黒の女神の背後に、突如、鈴のように澄み切った神々しい声が聞こえる。
同時に、彼女の背後に漂う不思議な気配。
「だれ?」
れいなは思わず振り返ると、そこに居たのは銀髪の美しい女性。
彼女は、ゆったりとした純白のローブを着て、肩まである輝く様なプラチナブロンド、紅く澄んだ瞳、そして何より、冷たい面差しには美しさと妖しさが同居し、どことなく圧倒的な存在感を漂わせている、そんな神秘的な女性だ。
漆黒の女神がかつて、大雨の日に出会い、病気に倒れたレンを助けてくれた恩人。
その彼女と、その大雨の日以来のひさびさの再会だった。
「誰かと思ったけど、この前の貴女ね」
れいなはローブの女に頭を軽く下げる。
「この前はありがとう、あなたのおかげでレンは何とか助かったわ」
「それは何よりね」
ローブの女は柔和な笑顔を浮かべつつ返事を返していた。
けれど、彼女はほんの少し、けれど邪悪に口角を歪めつつ、
「――でも、完全に治った訳じゃ無いんでしょ?」
と、呟くような声で、冷酷な真実をれいなに突き付けてきた。
まるで、今のレンの状態を見越したように。
「……そうよ、今はハーフエリクシールで、何とか持たせているだけよ……。
次の発作が起きるまでに、薬を手に入れないと命は危ないわ」
れいなを残酷な真理が包み込んでいく。
――このまま薬が手に入らないと、レンは助からない。
漆黒の女神は非情な現実を前にして、青ざめ、体や声を震わせながら返事を返していた。
「そうよね……。
お気の毒だけど、このままだといずれ彼女は死ぬわよ」
そう言うと、ローブの女は小悪魔の様に小さく微笑んだ。
そして、れいなの気持ちをを見透かしたように、
「――薬が欲しいのね?」
そう言うと、彼女はフッと笑みを消し、冷酷ともいえる表情を浮かべていた。
「まさか、貴女は薬を持って居るの?」
漆黒の女神は思わぬ答えに、思わず身を乗り出す。
彼女の表情、そしてどうして前に逢った時、薬の事を言わなかったのか?
それらに、ほんの少し、蚊程の違和感を感じながらも。
「薬ならあるわよ」
れいなの問いに、ローブの女は美貌に邪悪な笑みを浮かべ、返事をかえす。
「お願い、薬を譲って!
――時間が無いのよ!!」
れいなは転がり込んできた思わぬ希望に、
「……何か代償が必要なら、あたしの体でも……、命でも構わない、
――だから、何でも差し出すから譲って!!」
そう言うと、何時もの気丈さの欠片も無く、涙を浮かべ、ローブの女に縋り付く。
ローブの女はその姿に、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……その言葉に、嘘偽りは無いわね?」
「無いわよ。
私の汚い魂でも、何でも喜んで差し出すわ!」
髪を振り乱し、必死に頼み込むれいな。
彼女を見透かすようにローブの女は、かのんを指差し、
「そうね……、
――貴女には、この娘が殺せる?」
表情一つ変えず、れいなに残酷な選択を突き付けた。
「なっ、あなたは何を考えているの?
――そんな事が出来る訳無いでしょ……、」
冷徹な選択にれいなは思わず、即、否定する。
同時に、湧き上がる恐ろしい答えに、声を震わせながら彼女にたずねる。
自分の考えが間違いであるように。
「――まさか、かのんを殺すことが条件なの?」
れいなの問いに、ローブの女は冷酷な表情のまま、無言で頷き、
「私が薬を渡す条件は、この娘を殺す事。
――そして、あなたが国王殺害犯である、この娘を倒したことにするのよ」
ローブの女はそう言うと、小さく口角を緩めた。
「……判ったわ……」
れいなは短くそう言うと、目を静かに閉じる。
そして、深く、長く息をふぅ~~と吐き出すと、表情が変わる。
以前のような冷たい表情を浮かべながらも、目には涙を浮かべていた。
「――じゃあ、エアフォルクは誰が殺るの?」
涙を浮かべる、れいなの問いに、ローブの女は目を細める。
「大丈夫よ、アイツは私の方が始末する。
私がちゃんと、彼を平気で強姦するような人間の屑に育てて置いたから、何処で暗殺を受けても不自然ではないわ。
――エアフォルクが路地裏をうろつく時に、私がアイツを殺して置くわ」
ローブの女は感情を込めず、淡々と筋書きを語る。
れいなは表情を変えず、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「……もしかして、レニアさんを処刑させたのも?」
かのんは、いつにまにか目を覚まし、二人の話を途中から聞いていたようだ。
彼女が語る、恐ろしい計画に目を見開き、声を震わせながら、ローブの女におそるおそる尋ねていた。
――以前、自分がふと思った事を。
「――あの女は邪魔だった……」
ローブの女は頬をヒクつかせ、忌々しそうに吐き捨てる。
ちょうど、綿密に仕込んだ作戦を、考えも無しで台無しにされたような表情だった。
そして、真相を語りだす。
次が長くなるので、一旦ここで投稿します。
早いうちに残りを出します、こうご期待。




