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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
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明かされた真実

 セージとシルビアが特訓を終えて居た頃、

 かのんとれいなの二人は未だに、たき火を囲んでいた。

 

 セージを待ち疲れたのか、子供の様なあどけない表情で、たき火のそばでネコのようにまるくなり、毛布をかけて眠り込むかのん。

 彼女の隣には、れいなは体操座りで遠い目をして、金髪の天使(かのん)と、たき火の炎を交互に見ながら、考え込んで居た。

(この子の暴走モードには、アタシは手も足も出なかった。

 ――まだ自分は弱い……――でも、まだ強くなる方法は有るはずよ。

 レンを助けるためにも、アタシが強くなって秘薬(エリクシール)の争奪戦を制しないと……)


 「こんばんわ、お久しぶりね」


 考え込む漆黒の女神(れいな)の背後に、突如、鈴のように澄み切った神々しい声が聞こえる。

 同時に、彼女の背後に漂う不思議な気配。

 

 「だれ?」


 れいなは思わず振り返ると、そこに居たのは銀髪の美しい女性。

 彼女は、ゆったりとした純白のローブを着て、肩まである輝く様なプラチナブロンド、紅く澄んだ瞳、そして何より、冷たい面差しには美しさと妖しさが同居し、どことなく圧倒的な存在感を漂わせている、そんな神秘的な女性だ。

 漆黒の女神(れいな)がかつて、大雨の日に出会い、病気に倒れたレンを助けてくれた恩人。

 その彼女と、その大雨の日以来のひさびさの再会だった。

 

 「誰かと思ったけど、この前の貴女ね」


 れいなはローブの女に頭を軽く下げる。


 「この前はありがとう、あなたのおかげでレンは何とか助かったわ」

 「それは何よりね」


 ローブの女は柔和な笑顔を浮かべつつ返事を返していた。

 けれど、彼女はほんの少し、けれど邪悪に口角を歪めつつ、

 

 「――でも、完全に治った訳じゃ無いんでしょ?」


 と、呟くような声で、冷酷な真実をれいなに突き付けてきた。

 まるで、今のレンの状態を見越したように。

 

 「……そうよ、今はハーフエリクシールで、何とか持たせているだけよ……。

 次の発作が起きるまでに、(エリクシール)を手に入れないと命は危ないわ」


 れいなを残酷な真理が包み込んでいく。

 ――このまま薬が手に入らないと、レンは助からない。

 漆黒の女神(れいな)は非情な現実を前にして、青ざめ、体や声を震わせながら返事を返していた。


 「そうよね……。

 お気の毒だけど、このままだといずれ彼女は死ぬわよ」


 そう言うと、ローブの女は小悪魔の様に小さく微笑んだ。

 そして、れいなの気持ちをを見透かしたように、


 「――薬が欲しいのね?」


 そう言うと、彼女はフッと笑みを消し、冷酷ともいえる表情を浮かべていた。

 

 「まさか、貴女は薬を持って居るの?」


  漆黒の女神(れいな)は思わぬ答えに、思わず身を乗り出す。

  彼女の表情、そしてどうして前に逢った時、薬の事を言わなかったのか?

  それらに、ほんの少し、蚊程の違和感を感じながらも。


 「薬ならあるわよ」


 れいなの問いに、ローブの女は美貌に邪悪な笑みを浮かべ、返事をかえす。

 

 「お願い、薬を譲って!

 ――時間が無いのよ!!」


 れいなは転がり込んできた思わぬ希望に、


 「……何か代償が必要なら、あたしの体でも……、命でも構わない、

 ――だから、何でも差し出すから譲って!!」


 そう言うと、何時もの気丈さの欠片も無く、涙を浮かべ、ローブの女に縋り付く。

 ローブの女はその姿に、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


 「……その言葉に、嘘偽りは無いわね?」

 「無いわよ。

 私の汚い魂でも、何でも喜んで差し出すわ!」


 髪を振り乱し、必死に頼み込むれいな。

 彼女を見透かすようにローブの女は、かのんを指差し、


 「そうね……、

 ――貴女には、この娘が殺せる?」

 

 表情一つ変えず、れいなに残酷な選択を突き付けた。

 

 「なっ、あなたは何を考えているの?

 ――そんな事が出来る訳無いでしょ……、」


 冷徹な選択にれいなは思わず、即、否定する。

 同時に、湧き上がる恐ろしい答えに、声を震わせながら彼女にたずねる。

 自分の考えが間違いであるように。


 「――まさか、かのんを殺すことが条件なの?」


 れいなの問いに、ローブの女は冷酷な表情のまま、無言で頷き、


 「私が薬を渡す条件は、この娘を殺す事。

 ――そして、あなたが国王殺害犯である、このかのんを倒したことにするのよ」


 ローブの女はそう言うと、小さく口角を緩めた。


 「……判ったわ……」


 れいなは短くそう言うと、目を静かに閉じる。

 そして、深く、長く息をふぅ~~と吐き出すと、表情が変わる。

 以前のような冷たい表情を浮かべながらも、目には涙を浮かべていた。

 

 「――じゃあ、エアフォルクは誰が殺るの?」


 涙を浮かべる、れいなの問いに、ローブの女は目を細める。

 

 「大丈夫よ、アイツは私の方が始末する。

 私がちゃんと、彼を平気で強姦するような人間の屑に育てて置いたから、何処で暗殺を受けても不自然ではないわ。

 ――エアフォルクが路地裏をうろつく時に、私がアイツを殺して置くわ」

 

 ローブの女は感情を込めず、淡々と筋書きを語る。

 れいなは表情を変えず、彼女の言葉に耳を傾けていた。


 「……もしかして、レニアさんを処刑させたのも?」


 かのんは、いつにまにか目を覚まし、二人の話を途中から聞いていたようだ。

 彼女が語る、恐ろしい計画に目を見開き、声を震わせながら、ローブの女におそるおそる尋ねていた。

 ――以前、自分がふと思った事を。


 「――あの女は邪魔だった……」


 ローブの女は頬をヒクつかせ、忌々しそうに吐き捨てる。

 ちょうど、綿密に仕込んだ作戦を、考えも無しで台無しにされたような表情だった。

 そして、真相を語りだす。

次が長くなるので、一旦ここで投稿します。

早いうちに残りを出します、こうご期待。


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