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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
222/283

女傑二人の手打ちと再開

 「さっきの光かのんでしょ? この辺りに居るのかな?」

 

 薄暗い温泉をじゃじゃぶ掻き分けて進んで来たのはシルビアだった。

 シルビアは漆黒のレオタードのような戦闘服を着ている。

 どうやら、セージに温泉の行をつけている最中だったようだ。


 「シルビアさん、ここだよ~」


 久々に二人に会えるのが余程嬉しいのか、かのんは満面の笑顔を浮かべ、全裸のまま湯船から立ち上がり手を振っていた。

 

 「かのん、そっちへ行くわね」



 「かのん、あんたも無事で良かった」


 かのんに駆け寄ったシルビアはかのんを抱きしめた。


 「シルビアさんも無事で良かった」


 シルビアの豊満な胸に顔を埋めるかのん。

 しかし、シルビアは笑みを浮かべず更に続けた。


 「かのん。 でも事態は更に悪化してるわよ……」

 「うん、イザベラの処刑の件でしょ?」

 「そうよ」


 かのんは真面目な表情になる。


 「れいなさんから聞いてる……」

 「れいな?」


 怪訝そうな表情を浮かべるシルビアにかのんは事態を説明する。

 

 「かのん、判ったわ。 

 ……そういうことね」


 冷酷な表情を浮かべたシルビアがれいなのそばに近寄ると星明りに照らされたぼろぼろの漆黒の女神(れいな)の姿が目についた。

 何時もの気丈な彼女からは想像もつかない、全裸のまま湯縁でぐったり横たわる姿だった。

 無防備な姿に思わず彼女の口角がぐにゃり邪悪に緩む。


 「れいな、改めて見るとあんたは凄い体をしているのね」


 シルビアの目に映るのは、割れた腹筋、鋼のように張り詰めた腕、まるで格闘家のようなれいなの体だった。

 そして考える。

 (一度村であんたと戦ったけど、此処までの体を持つれいなと本気で戦う事になったらあたしでも苦戦するだろうね…。 

 速度じゃ負けないだろうけど、病み上がりのあたしでは力では確実に負けるわね)


 「……試してみる?」

  

 れいなはシルビアをキッと睨み、拳を握り、強がりを言う。

 だが、虚勢を張っているのはだれが見ても明らかのようだった。

 体力、魔力共に使い果たしてた漆黒の女神(れいな)は起き上がることすら出来ない。


 「れいな、あんたがお望みなら、あたしは構わないわよ」


 シルビアは猫耳をれいなに向け獰猛で冷たい笑みを浮かべると、れいなもぐったりとしたままキッと睨み返した。


 「村での決着なら此方も構わないわよ」

 「それも面白いわね。

 目的の判らない不確定要素のあんたは今の内に潰すか、あの子みたいにどんな手を使っても口を割らした方が賢いだろうからね」


 シルビアの言葉に辺りの空気が張り詰めてきた。

 剣呑な空気の中、かのんは青ざめている。

 

 「ふ、二人とも喧嘩はやめて!」


 「かのん、分かっているわよ。 今れいなと戦っても何もメリットは無いからね……――それにお互い戦う余力は残っていないわ」


 次の瞬間、表情を緩め笑顔を浮かべるシルビア。

 彼女の言葉を聞いてかのんはほっと胸を撫で下ろした。

 シルビアは本気ではないと。


 「れいな、アンタの事はセージからも聞いてるわ、とりあえず一緒にやるのよね」

 「とりあえず今は此処はお互い協力しましょ」


 笑顔を浮かべるシルビアが手を出しだすと、れいなも微笑みを浮かべシルビアの手を強く握り締める。


 「よろしくね」

 「こちらこそ」


 二人の手打ちができたタイミングで、遠くからばちゃばちゃと水音が聞こえる。


 「まったくシルビアさんは、早すぎるぜ」


 文句を言いながら遅れてじゃぶじゃぶ湯船を進んできたのはセージ。

 セージは全裸に腰のあたりに布を巻いており、一直線にかのん達の方へ歩いてくる。


 「セージ!!」

 

 最初にセージを見つけたのはかのんだった。

 金髪の天使(かのん)は星空が浮かぶ水面をかき分け全力で走り出していた。

 いつの間にか天使ような顔にぐちゃぐちゃの笑顔を浮かべている。


 「おかえりなさいセージ。 会いたかったよ……」

 「たたいま、かのん」


 そう言うと金髪の天使(かのん)はセージを強く抱きしめた。

 あられもないマッパ姿のかのんに抱きしめれて、照れて真っ赤になりながらもセージも絵顔を浮かべ抱きしめ返していた。


 シルビアとれいなはかのん達のあまりの痴態が予想外の展開だったようだ。

 何も言わず、ただアホウのように目を見開き固まっている。

 そして、れいなはつんつんとシルビアを指でつつく。


 「あの子達、何時もこんな感じなの?」

 「ええ、あれがかのんの悪い癖よ……、必死になると周りが見えなくなるのよね……」


 ため息交じりに答えるシルビアにれいなは思わず呟いた。


 「流石、痴女かのんの通り名は伊達じゃないわね……」


 シルビアとれいなの冷たい視線に気が付いたのはセージ。

 真っ赤の顔のまま思わずかのんとの間合いを離す。


 「おい、かのん恥ずかしいだろ? 二人が見てるぞ」

 「にゃ!!」


 恥ずかしのあまりかのんは思わず猫顔になった。

 そして、かのんは顔を真っ赤にしながらもじゃぶんと顔だけ出して湯船に沈む。

 

 「そ、そうだった……よね」


 天使のような顔を耳まで真っ赤したかのんを見てセージはふっと思わず鼻で笑う。


 「まったくかのんは……。 

 それにさっきも会ったで……だろ?」

 

 セージは思わずゆきなだったころの女言葉を言い直し更に続けた。

 

 「かのんは結局あれで大丈夫だったのか?」

 「たぶん、ね」


 半信半疑のかのんはセージの問いに首をかくんと傾け返事を返す。


 「ところで、ゆ……、セージの方は修行終わったの?」


 かのんの問いにセージはニヤリとする。

 どうやら自信満々のようだ。

 腕を組み、ふんぞり反っていた。


 「かのん、そんなものちょろいぜ。 気合で一発だったぜ」

 「何をしたの?」


 セージの不遜な態度にかのんは思わず聞き返した。

 

 「「とっとと開けろ、ぐずぐずしてるとボコるぞ?」って少し脅したらあいつは座りションベン寸前で涙ながらに開けてくれたぜ。 はっはっはっ!」


 腕を組み、胸を張り、高飛車な態度で高笑いをして偉そうな事を抜かしだしたセージ。

 馬鹿笑いをしたので、いつの間にか腰の布は落ちてもろ出しになっていた。

 しかしセージは未だに気がついていない。


 「セージ…」

 「……」

 

 シルビアが呆れ、れいなが目を見開き絶句するなかで、真っ赤な顔を手で覆いつつも隙間からこっそり覗くかのん。

 ――もちろん全裸のままで。

 そしてかのんは思った。

(ここ混浴だったの?

 それに、ゆきなのは同化と共鳴というより、恫喝と強制じゃないかな…)


 夜風が吹き抜ける温泉の夜は更けてゆく。

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