粉塵爆発
長い階段を駆け上がるかのん達。
どのくらい上がったか分からない位の石段だ。
あまりの長さに感覚がおかしくなりそうな位長い洞窟の階段だった。
「ドノくらい有るんだよここの階段」
「シルビアさん、そろそろ私も限界に近いかも…」
あまりのデスマーチに肩で息を切らせるセージとかのん。
シルビアは二人をチラっと振り返り口を開いた。
「二人とも後少しの筈、空気が変わってきたからがんばりなさい」
シルビアが言うように今までの湿った空気が、外気のような乾いた空気になっている。
かのんは鼻をひくひくさせた。
「そういえば、草のにおいがするよね」
「かのん、草の匂いする?」
「シルビアさんは匂わないの?」
突然、上り階段の洞窟に異様な声が響く。
まるで子供か女性のような甲高いこえだ。
「火精ヨ、スベテヲ焼キ尽クセ……」
シルビアの尻尾が箒のように一気に膨らむ。
「ヤバい! 魔法が来る!!」
彼女は血相を変えて、かのんとセージを壁へ押し倒す。
刹那、シルビアの背後を火球がかすめていった。
おびえた表情のかのんは口を開く。
「シルビアさん、この詠唱…」
「厄介だね、通路が巨大兎の巣になっていたなんてね」
火球にちらりと照らされた姿は兎。
しかし、ピー○ーラビットよろしく二本足で立ち、生意気にも服まで着ている。
魔王の村でみた巨大兎だ。
「シルビアさん、どうするんだよ?」
「セージ、あたしに任せなさい」
シルビアは腰のポーチから小袋を取り出すと、兎に向かって投げつけた。
あたりは白い粉の煙幕に包まれる。
「スベテ……」
兎は詠唱をやめた。
彼の姿を見たシルビアの口角がゆがむ。
「そりゃそうだよねぇ、今魔法を詠唱したら自爆だからね」
「うさぎさん、どうして魔法を止めたの?」
「シルビアさん、さっきの粉は何だよ?」
兎が魔法を止めた理由が判らないかのんとセージ。
何が起こったか判らない二人にシルビアは説明を始めた。
「二人とも、あの粉はただの小麦粉よ。 ただし此処で魔法を使えば小麦粉に引火してどっか~んだけどねぇ♪」
刹那、シルビアは電光石火で兎との間合いを詰める。
「魔法が使えなきゃ、ただの大きな兎だからねぇ、 これで終わりよ」
彼女の刃が兎の首をとらえようとした。
その瞬間かのんの声が響いた。
「まって!!」
「かのん?」
「殺さないで、もう戦えないなら命まで奪うことは無いでしょ?」
かのんはシルビアに駆け寄り腕を押さえた。
兎の方は覚悟を決めた様に身動き一つしない。
「ヤレ……、敵カラノ、情ケハブジョクダ。 潔ク散ルノガ我ラノ誇リ…」
「私たちはここを通りたいだけなの、騒がせてごめんなさい」
金髪を揺らし頭を下げるかのん。
彼女の態度に兎は唖然とした表情を浮かべた。
「……イママデノニンゲントチガウ、オマエナニモノ?」
「かのんよ、言葉が通じるから分かりあえない事は無いわよね?」
笑顔を見せ、いつもの調子で続けるかのん。
彼女をみて、シルビアとセージはため息一つ。
「あたしはどっちでも構わないんだけどね、どうするの? あんたを殺して通っても、素通りするのでも」
「……」
きゅーきゅー
穴の奥で小さな鳴き声が聞こえてきた。
かのんたちの視線が穴の奥に集中する。
そこに居たのは小さな兎。
元が大きいので通常サイズくらいの兎だが。
「もしかしたら、子供がいるのかよ?」
「ソウダ……、オレノ命ト引キ換エニコイツラハ助ケテクレ」
セージは兎を軽くたたく。
「おいウサ公、かのんの話聞いていなかったのか? お前が素直に通せば住む話なんだよ」
「……ワカッタ…」
「ありがとう兎さん」
穴の奥に進むと、小さな兎たちがおびえた目でかのんたちをみていた。
「うさぎさん達、おじゃましますね」
かのんは会釈すると、そのまま奥に進んでゆく。
その後ろ姿を頭を下げながらじっと見送る兎の親子がいた。
”
「ここが出口ね」
無限とも思える階段を上りきったかのん達。
洞窟の横にぽっかり開いた横穴が出口だった。
そこは山の中腹に繋がっている。
「かのん、あそこがローズの居る牢獄よ」
シルビアが指差す先には、月明かりに照らされた白亜の城とそれに連なる牢獄と円形の広場が見える。
建物は広場で見た時は小さく見えたが、この場所から見るとスグ手が届きそうな距離に感じれる。
「あの塔にローズが居るのね」
「そうよかのん、ここを飛び降りたら戻れないわよ」
シルビアは足元の崖を表情を硬くして口を開いた。
――足元はかのんの身長の3倍はあろうかと言う高さの崖になっている。
そして崖の下は広場に通じる通路になっていた。
「うん」
「だろうな」
うなずくかのんとセージ。
「じゃあ 少し高いけど飛び降りて、あたし牢獄まで走る、後は手はず通りお願いね」
「分かったわ」
「じゃあ、あたしから行くわよ」
シルビアは飛び降りた。
セージも後に続きそうになっている。
「セージ」
かのんは、何か感じたようにセージに話しかけた。
――何時もの元気印のかのんとは違う不安一杯の表情だった。
「何だよ、かのんは今更おじけづいたのか?」
「ううん、何か変な感じがするの」
「何か居るのかよ?」
「何も見えないけど……」
セージは、きょろきょろ辺りを見回した。
しかし、別に変なところはない。
「かのんは気にし過ぎ。 ゆっくりしてると花火が終わっちゃうぜ」
セージは言い終わる前に飛び降りる。
かのんは粘着質の不安をぬぐえずにいた。
「何か、風がおかしいのよ…」
かのんもセージに続いて通路に飛び降りた。
花火が上がる中、生臭い潮風が吹き抜けて行く。
月は静かに3人を冷たく照らしていた。




