突入 隠し通路
「シルビアさん、この花火は?」
「かのん、これはナイトジェイドのメインイベント、『魂送り』よ」
完全に日が暮れた星明りの海岸に爆発音が響き、夜空に花火があがり始める。
無数の花火が夜空を花畑のように彩り始めた。
かのんはバーガーを片手に驚きの表情でそれらを見つめている。
「魂おくり?」
「魂送りと言うのはね…」
シルビアは説明を始めた。
――『魂送り』と言う行事は鎮魂のために花火を打ち上げ、広場では残された人たちが香草を焚いて送り火をつけて、今は亡き人に想いをはせると。
そして、その祭りには、国王以下国民のほとんどが参加する事も。
遠い目で花火を見つめながら彼女は説明を続けている。
「シルビアさん何を考えてるんだ?」
「セージ、あんたに頼みたい事があるんだ」
「何だよ」
シルビアは振り向かない。
濃紺の髪が海風に揺れて、ネコ耳もぴくぴく動いて居る。
「もしもの時は、暴走したかのんの事をお願いね。 そしてブルーを呼んで村に帰るのよ」
シルビアの言葉に青ざめ、言葉を失うかのんとセージ。
彼女は振り向いて、二人を抱きしめる。
「そんなのは絶対嫌だ、絶対に戻る時は4人で戻るぜ」
「シルビアさん、また自分の命だけは捨てちゃう気なの?」
セージとかのんの問いに、作り笑いで返事を返すシルビア。
「二人とも、悲しい顔しないの。 まず大丈夫、天の時は此方に有るわ」
「天の時?」
かのんは何の事か判らず、悲しそうな瞳でシルビアの顔を見つめる。
「かのん、盛大に花火が上がってるでしょ?」
「さすがだな シルビアさん」
花火をみながら感心するセージ。
彼は作戦に気が付いたようだ。
シルビアはセージの頭を撫でながら、笑顔で口を開いた。
「あんたは察しがついたようだね」
「この祭りの騒ぎにまぎれてローズを奪い返し、さっさとトンズラするんだろ?」
「その通り、この花火は数時間は時間は続くからその間に奪い返すのよ」
シルビアの視線の先には山の上にある屋敷があった。――ローズが囚われている白亜の牢獄だ。
下から見上げる屋敷は花火に不気味に照らし出されている。
「シルビアさん、早く行きましょ」
「かのん、少しだけ待ってくれないかな?……時間は掛からないから」
「何をするの?」
心配顔のかのんを余所に、シルビアは岩場に向かうとドライフラワーの向月葵を袋から取り出し岩場に小さく積み上げ火をつけた。
これは送り火だ。
柔らかい焚き火の光に彼女の顔が照らし出される。
――頬には一筋の光る澪。
かのんとセージには彼女の涙の意味はまだ分からない。
「シルビアさん?」
「ふふっ、これはあたしのケジメなの。 ……昔を思い出してね」
「ケジメって何だよ?」
「ん~、二人は気にする事は無いよ。 じゃ行くよ!」
シルビアは涙をぬぐう。
そして、涙が海風に流れて行った。
「わたしがブルーさんを呼ぶ?」
かのんは卵型のペンダント――戦女神の鋼殻を胸元から取り出そうとした。
その様子に、目を丸くするセージとシルビア。
――かのん暴走するな! と思いつつ。
「かのん、いくら何でも ブルーさんを呼んだらばれるだろ?」
「セージ、ごめん…」
久々の召喚を止められて、しょんぼりするかのん。
「全く何時もかのんあんたは……。 今回は地図にあった隠し通路を抜けてゆくよ」
「何処にあるの?」
「入り口はここよ」
シルビアが指さしたのは、近くにある岩の壁。
ただの岩がそそり立つ岸壁となり、まるで城塞のようなっている。
見た感じではタダの岩肌だ。
かのんとセージは何の事か判らないようで目をぱちぱちさせていた。
「何かあるの?」
「ただの壁じゃねえか?」
「二人とも、みてみなさい。 不可視で通路がカモフラージュしてあるのよ」
シルビアが壁に歩み寄ると壁に大きいな穴がぽっかり現れる。
――中には仄かに光る洞窟。そして、奥には上り階段があった。
洞窟内に延々と続く階段に二人は、まるで天空まで伸びて居る様な錯覚さえ覚える。
「これが隠し通路ね」
「かのん、この段数、明日足に来そうだよな!?」
「二人とも、これは多分数千段は有ると思うわよ」
「「え~~!!」」
驚くかのんとセージ。
二人を横目にシルビアはニヤリとする。
「この程度で何を驚いて居るの? いくわよ! はぐれた時は、2日後同じ場所に集合ね」
「は~い」
「海岸に集まるんだな」
シルビアはしっぽを振りながら階段をかけあがってゆく。
彼女に続くかのんとセージ。
洞窟の中は湿った海風が吹き上がって居る。




