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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
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突入 隠し通路

 「シルビアさん、この花火は?」

 「かのん、これはナイトジェイドのメインイベント、『魂送り』よ」


 完全に日が暮れた星明りの海岸に爆発音が響き、夜空に花火があがり始める。

 無数の花火が夜空を花畑のように彩り始めた。

かのんはバーガーを片手に驚きの表情でそれらを見つめている。


 「魂おくり?」

 「魂送りと言うのはね…」


 シルビアは説明を始めた。

 ――『魂送り』と言う行事は鎮魂のために花火を打ち上げ、広場では残された人たちが香草を焚いて送り火をつけて、今は亡き人に想いをはせると。

 そして、その祭りには、国王以下国民のほとんどが参加する事も。

 遠い目で花火を見つめながら彼女は説明を続けている。


 「シルビアさん何を考えてるんだ?」

 「セージ、あんたに頼みたい事があるんだ」

 「何だよ」


 シルビアは振り向かない。

 濃紺の髪が海風に揺れて、ネコ耳もぴくぴく動いて居る。

 

 「もしもの時は、暴走したかのんの事をお願いね。 そしてブルーを呼んで村に帰るのよ」

 

 シルビアの言葉に青ざめ、言葉を失うかのんとセージ。

 彼女は振り向いて、二人を抱きしめる。


 「そんなのは絶対嫌だ、絶対に戻る時は4人で戻るぜ」

 「シルビアさん、また自分の命だけは捨てちゃう気なの?」

 

 セージとかのんの問いに、作り笑いで返事を返すシルビア。

 

 「二人とも、悲しい顔しないの。 まず大丈夫、天の時は此方に有るわ」

 「天の時?」


 かのんは何の事か判らず、悲しそうな瞳でシルビアの顔を見つめる。

 

 「かのん、盛大に花火が上がってるでしょ?」

 「さすがだな シルビアさん」


 花火をみながら感心するセージ。

 彼は作戦に気が付いたようだ。

 シルビアはセージの頭を撫でながら、笑顔で口を開いた。


 「あんたは察しがついたようだね」

 「この祭りの騒ぎにまぎれてローズを奪い返し、さっさとトンズラするんだろ?」

 「その通り、この花火は数時間は時間は続くからその間に奪い返すのよ」


 シルビアの視線の先には山の上にある屋敷があった。――ローズが囚われている白亜の牢獄だ。

 下から見上げる屋敷は花火に不気味に照らし出されている。

 

 「シルビアさん、早く行きましょ」

 「かのん、少しだけ待ってくれないかな?……時間は掛からないから」

 「何をするの?」

 

 心配顔のかのんを余所に、シルビアは岩場に向かうとドライフラワーの向月葵ムーンゲイザーを袋から取り出し岩場に小さく積み上げ火をつけた。

 これは送り火だ。


 柔らかい焚き火の光に彼女の顔が照らし出される。

 ――頬には一筋の光る澪。

 かのんとセージには彼女の涙の意味はまだ分からない。


 「シルビアさん?」

 「ふふっ、これはあたしのケジメなの。 ……昔を思い出してね」

 「ケジメって何だよ?」

 「ん~、二人は気にする事は無いよ。 じゃ行くよ!」


 シルビアは涙をぬぐう。

 そして、涙が海風に流れて行った。

 

 「わたしがブルーさんを呼ぶ?」

 

 かのんは卵型のペンダント――戦女神ヴァルキリー鋼殻シェルを胸元から取り出そうとした。

 その様子に、目を丸くするセージとシルビア。

 ――かのん暴走するな! と思いつつ。


 「かのん、いくら何でも ブルーさんを呼んだらばれるだろ?」

 「セージ、ごめん…」

 

 久々の召喚を止められて、しょんぼりするかのん。


 「全く何時もかのんあんたは……。 今回は地図にあった隠し通路を抜けてゆくよ」

 「何処にあるの?」

 「入り口はここよ」


 シルビアが指さしたのは、近くにある岩の壁。

 ただの岩がそそり立つ岸壁となり、まるで城塞のようなっている。

 見た感じではタダの岩肌だ。

 

 かのんとセージは何の事か判らないようで目をぱちぱちさせていた。


 「何かあるの?」

 「ただの壁じゃねえか?」

 「二人とも、みてみなさい。 不可視インビジで通路がカモフラージュしてあるのよ」


 シルビアが壁に歩み寄ると壁に大きいな穴がぽっかり現れる。

 ――中には仄かに光る洞窟。そして、奥には上り階段があった。

 洞窟内に延々と続く階段に二人は、まるで天空まで伸びて居る様な錯覚さえ覚える。


 「これが隠し通路ね」

 「かのん、この段数、明日足に来そうだよな!?」

 「二人とも、これは多分数千段は有ると思うわよ」

 「「え~~!!」」

 

 驚くかのんとセージ。

 二人を横目にシルビアはニヤリとする。

 

 「この程度で何を驚いて居るの? いくわよ!  はぐれた時は、2日後同じ場所に集合ね」

 「は~い」

 「海岸に集まるんだな」


 シルビアはしっぽを振りながら階段をかけあがってゆく。

 彼女に続くかのんとセージ。


 洞窟の中は湿った海風が吹き上がって居る。

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