精霊銀の約束
ミッドランドでデート中の かのんとセージ。
二人は露店のしゃれたアクセサリー屋の前で話し込んでいた。
「セージ、このペアリング可愛いよね♪」
かのんは露店の店先に並んだ指輪をじっとみて、目を輝かせている。
彼女の目の前に有るのは、露店の店先に並んで居る精霊銀のペアリング。
指輪は飾り石の無い金属だけのシンプルな作りだが、精緻な植物の彫刻が施されている。
清楚だがセンスの良さを感じさせる作りだった。
「かのん、この指輪可愛いけどさ、きっと高いぞ?」
「シルビアさんからおこずかい貰ったけど、これで足りないかな?」
かのんが銀貨三枚を見せると、セージは呆れた顔をする。
「馬鹿かのん、それじゃ全然足りないだろ? きっとオレの分も足しても足らないぞ」
「そうよね…」
俯き、しょんぼりするかのん。
「ぎゃははは! さっきの娘たちだね。何しょんぼりしてるんだい?」
その時、背後で大阪のおばちゃんのような豪快な笑い声と話し声が聞こえた。
かのんとセージが振り返るとソコにいたのは、先ほどのアイスクリーム屋の女性。
彼女は巨体を揺らしながら大声で話しかけている。
「さっきのおばさん、どうしてココに?」
思わぬ来訪者に、かのんは驚きながら口を開く。
「売れに売れて、アイスの方は有るけどさ下のコーンカップが足りなくなったのさ。
あんた達のお陰で大儲けだよ、笑いが止まらないねぇ うはははは!!」
あいもかわらず、重機関銃のように言葉を射出するおばさんに二人は何も話せない。
「…そういえば、しょぼくれている理由聞いてなかったね」
おばさんの話にきりがついたのでかのんはやっと話し出した。
「あそこにあるリングが欲しいけどお金が足りそうになくて…」
「かのん、諦めろよな」
二人の言葉を聞いて、おばさんの表情が変わる。
「いくら足りないんだい?」
「二人合わせても銀貨六枚しかないぜ、どう見てもあれは結構するだろ?」
セージは諦め半分で口を開くと、おばさんは二ヤリとする。
「任せておき!」
「おばさん、大丈夫なの?」
「あたしに任せておけば大丈夫だよ」
心配顔の かのんをよそに、おばさんは露店の奥に乱入していく。
恰幅の良いその姿はまるで重戦車。
彼女が歩く度に地面が揺れる感じがする。
「因業ジジイ~! いるんだろ~~!! 居ないなら商品貰っていくよ~」
ずかずかと入って行く姿は、まるで強盗である。
「なんじゃ?! 」
露店の奥から不機嫌そうに出てきたのは貧相な老人。
赤髪に片メガネを掛けてる見るからに強欲そうな感じの面構えである。
「ここの娘達が、精霊銀のペアリング欲しいそうだよ」
「金貨二枚!」
老人は商売する気が有るのか無いのか判らない様に不愛想に答える。
その値段を聞いて、「やっぱり」と思い かのんは、がっくり肩を落とした。
かのんの姿をちらりと見て、おばさんは更に続ける。
「金が足りないだって、安くしてくれないかい?」
「あんたの頼みでも、ワシも生活が有るのでいやじゃ!」
おばさんの値切り交渉ににべも無く答える 店主。
「やっぱり無理なのね…」
かのんは大きな目に涙を浮かべ泣きそうになってきた。
その姿をみておばさんは鬼の形相で更に続ける。
――彼女は何時の間にやら、指をごきごき鳴らしていた。
「あんたには、人の心が有るのかい?」
「ワシにもあるわい」
「こんな可愛い娘が過酷な任務について、男ともつきあえず明日の命さえ分からないんだよ?」
「ぐぅ……。確かにのう……」
店主の老人は痛い所を突かれたと顔が引きつる。
「そんな娘が健気にも好きな娘と愛を確かめあうのに精霊銀のペアリングを欲しがっているのに、手持ちのお金が足りなくて欲しい物が手に入らないんだよ?
負けてやってもよいじゃないか? 何かい? あんたは人の皮をかぶった鬼かい? 売れない時に散々うちが食わせてやった事も有るのにさ…」
おばさんは、チェーンガンのような速度で言葉を吐き出している。
さすがの因業店主もこれにはたじたじのようだ。
次の言葉が出せそうにない。
おばさんはたたみかけるように更に続ける。
「……いいかい? 銀貨五枚? 銀貨五枚で文句はないよね?!」
「材料代にしか…」
冷や汗をかき落ち込む店主をよそに強引に話を進めるおばさん。
かのんとセージは固唾をのんで成り行きを見守って居る。
「材料代くらいあればよいだろ?
腕がよいからってさんざん町の住人からボッタクったんだ、五枚ではい決定!」
「うぐぐぐ…」
強引な進め方に店主もついに折れたようだ。
彼は泣きそうな表情で最後に一言つぶやく。
「…勝手にしろ!!」
「さすが当代随一の職人だね。キップがちがうねぇ」
にんまりするおばさん。
その姿にかのんとセージの二人も思わず顔がゆるむ。
「ありがとうおじいさん」
「じいさんありがとうな」
かのんとセージは笑顔で店主に頭を下げた。
「可愛いお嬢さん達にそう言われたら嬉しくなるねぇ。 この際文字でも何でもタダでも入れてやる」
何時の間にやら店主は機嫌が直っていた。
彼は上機嫌でペアリングを手に取ると、工作机の上にある布のついた万力に挟み込む。
そしてタガネを持ち口を開いた。
「何か希望の言葉は?」
顔を見合わせたかのんとセージ。
「セージ、どうするの?」
「かのん、こんな場合は名前をいれる?」
其処におばさんが何時ものように、ガトリングガンのようなトークを繰り出す。
「あんた達の場合は、刻む文字は決まって居るんだよ。
「星光と月光」そう刻むんだ、それでね、海の見える崖の上でお互いの指に指輪をはめあい、そして、口づけをするんだよ。
それがイブとリリムの神話の時代から今も昔も変わらない……」
おばさんのマシンガントークの続く側でセージは口を開く。
「かのん、おれたちもやってみないか?」
「セージ、いいわね。彫り終ったら海の見える崖探しに行こうよ」
かのんは満面の笑みを浮かべながら口を開いて居た。




