スターゲイザー
みんなが出て行き静かになった診療所。
二階の病室で、れいなとレンが話して居る。
「レン……今日朝ごはん作ってたみたいだけど、無茶はしないで」
「れいなお姉様。ごめんなさい……、私も何か役に立ちたいの」
「あたしはあなたが心配なの!」
「……ありがとう、お姉様……、でも蒼熱病はここまで来ると安静にしても変わらないのよ……。 わたしが居なくなる前に何かやっておきたいの」
震えながら口を開くレン。
れいなは震えるレンを抱きしめると沈黙が支配した。
窓から聞こえるスラムの雑踏の音だけが部屋に聞こえて居る。
――永遠とも思える沈黙。
沈黙を破ったのはレンだった。
彼女は目に涙を浮かべながら笑顔でれいなを見つめた。
「お姉様、最初で最後のわがまま言っても構わない?」
「……何でも構わないわよ……」
れいなもレンをじっと見つめながら、口をひらいた。
「デートに連れて行って欲しいの」
「デート?」
「うん、デートよ。 わたしは生まれてから、ずっと必死で生きて来たから遊んだこと何て無かったの」
「あたしと一緒だね……」
れいなは、ぽつりと呟いた。
「何時も遅くまで働いて、何時も帰るのは夜。 帰り道、お空に浮かぶ星を見て何時も祈ってた――『素敵な人に出会えますように』ってね」
レンはれいなの胸に顔を埋めながら続けた。
「そして、れいなお姉様にやっと会えたの……。 なのに、なのに……」
――悔しそうに泣き声を上げるレン。
れいなは彼女の背中を撫でながら、整った顔から大粒の涙を零している。
そして、口を開いた。
「……レン、何処にするの?」
「えっ?」
れいなの言葉が何の事か判らず、きょとんとするレン。
「『えっ』じゃないの、デートの場所よ。 レンはデート行きたいんでしょ?」
「う、うん……。」
「じゃ 早速着替えてこっそり出かけましょ。 ルーシアさんに見つかると止められそうだしね」
きょとんとした表情のレンに、笑顔を作り話しかけるれいなが居た。
二人は窓の外を見つめた。
外には、露店が立ち並び始めて居る。
窓からは、気持ちの良い朝の冷たい風が吹き抜けていった。




