一方その頃
すこし時間はさかのぼる。
ルーシェ診療所の二階。
窓から差し込む朝日でベットの上のフィリアは目を覚ました。
朝の心地よい風が、窓から吹き込んでいる。
「何時の間にか寝ちゃったんだ……」
彼女があたりを見回すと、レンはベットの端に腰をかけて、フィリアを見つめて居た。
――まるで、昨夜の事が嘘のように。
そして、彼女は笑顔を浮かべなら口を開いた。
「フィリアちゃん起きた?」
「おはよう、レンさん」
「あなたの寝顔可愛かったから、ずっとみてちゃった」
「えっ…見てたの?」
フィリアは思わず、天使の様な顔を赤らめ、イタズラっぽく顔の下半分を布団に隠した。
そして、上目づかいで口を開いく。
「恥ずかしいよ…」
「ふふっ、可愛い♪ このままあなたを見て居たいけど、朝の支度でもしないとね」
フィリアの無邪気な姿に、レンも優しい視線を彼女の方に向け口を開いていた。
「昨日は体調悪そうだったけど、レンさんは体の方は大丈夫なの?」
フィリアが心配そうに尋ねると、レンは赤い髪をさらりと振って口を開いた。
「ふふっ、あなたは優しいのね。 でも、私は今はこんなにも平気よ」
「昨日は……」
「今日は何故か動きたいのよ」
レンは腕をぐるぐる回して元気なのをアピールしている。
しかし、逆にフィリアには違和感を感じて居るようだ。
――そして、心配そうに口を開いた。
「レンさん、ボクも手伝うから無理しないでね」
「ありがとうフィリア、じゃ何か手伝って貰おうかな?」
フィリアとレンはメイド服にエプロン姿に着替えると下に降りていった。
”
フィリアとレンは一階に降りた。
二人が一階まで降りると隠し部屋がみえる。
中はすさまじい状況になっていた。
疲れ果てたのか机に伏して、女神のように眠っているれいな。
――彼女は昨日のレオタードのような戦闘服を着たままだ。
近くの床にはルーシアが毛布にくるまって顔だけ出して、無防備な表情ですやすや眠っている。
シェスに至っては素っ裸で床に大文字。
そのため、彼女のあそこ丸だし、さらには、大いびきまで……。
そして、床にはレオタードのような衣服が無数に散乱している。
――これは百年の恋も醒める光景である。
とんでもない状況に開いた口が塞がらないフィリア。
その状況を見ても、レン慣れているのか表情一つ変えない。
「レンさん」
「なに、フィリア?」
「いつもこんな感じなの?」
「そうよ、みんな忙しいから疲れてるの。 だから私が朝ご飯作らないとね」
「そうなんだ、ボクは何をしたらよいの?手伝うよ」
レンは赤髪をさらりと揺らし、にこやかに答える。
その表情に天使の笑顔で答えるフィリア。
「じゃ こっちの台所で料理のお手伝いをお願いね」
「少しなら手伝えるかも……」
”
二人は台所に行くと、手早く朝ご飯を作り始めた。
今朝のメニューは芋のスープとパンと飲み物のようだ。
水を張った大鍋に火をかけると、フィリアとレンはテーブルの上に置かれた芋の皮を手早くむき始めた。
二人は芋を剥きながら喋り出す。
「レンさん」
「フィリア、どうしたの」
「れいなさんでも、あんな格好になるんだね」
フィリアはれいなの無防備な姿が信じられないらしい。
レンは半分呆れながら口を開く。
「フィリア、お姉様を神か超人と思って居ない?」
「違うの?」
「れいなお姉さまは、何時も無理してる普通の女の人なのよ」
「そうなんだ……」
「あの人は心も体も傷だらけで戦ってきたのよ。 服の下は女の人とは思えないような傷がいっぱいあるのをあなたは知らないでしょ?」
「どうしてそんな傷があるの?」
「お姉様から聞いたのだけど……」
レンはフィリアに、れいなから聞いた話を語り出した。
それは驚くような内容だった。
――れいなの物心つく前から、グループ後継者として父親から受けた地獄のような特訓の日々。
彼女は何度も死線を彷徨ったらしく、その時に刻まれた体の傷が今でも残って居ると。
レンの話を聞いたフィリアは思わず言葉をこぼした。
「れいなさんに護ってもらった。 だから今度は……ぼくが護りたいな……」
フィリアの言葉にレンの表情が変わる。
「護りたい? …昨夜の事、忘れてないわよね?」
レンは冷たい笑みをみせる。
ぞっとするほどの笑みだ。
その笑みにフィリアは昨夜のことを思い出して青ざめた。
「う うん…」
「れいなお姉さまは私の物よ、奪おうとする人は許さないから……。 もし奪おうとするならこうよ」
トーンを落として口を開いたレンはナイフを投げつけた。
――しゅん!
凶器はフィリアをかすめて飛ぶ。
――そして、銀髪が1~2本空に舞っている。
――コン!
乾いた音がして、ナイフはフィリアの近くにあるジャガイモに突き刺ささっていた。
余りの恐怖に、フィリアは震え上がってうなずくだけだった。
「ごめんなさい……」
「それで良いのよ、その事を何時も忘れないでね♪ 何があっても、お姉様は私が護るの……。」
フィリアの表情を見たレンは何時もの笑顔に戻って居た。
鍋の中でお湯が沸く音だけが台所に響いて居る。




