閑話 西風閉店の危機!
金貨1枚 万札
銀貨1枚 千円札
少銀貨1枚 百円玉
貨幣価値は大体こんな感じです。
「ふぅ……、どうするんだよ…オイ…」
西風の店主ジョン(38歳、♂)は、ため息交じりに呟いた。
店の入り口で立ち尽くすジョン。
彼の目に前には、破壊魔に破壊し尽くされた風景が広がっている。
まるで廃墟のような有様だ。
アンヌと金髪の少女のトルネードが店で暴走したのである。
おかげで店は滅茶苦茶。
割れた皿や壊れた家具類がところ狭しと散乱しているし、窓の残骸からは冷たい風が吹き込んで柱に刺さったブーメランを風に揺らし、ぎしぎし音を立てていた。
幸いにも、けが人一人居なかったのが救いだった。
しかし、この様子では調理場は無事な物の、暫く店内での営業は無理じゃね……。
ヒュ~~~。
吹き込むすきま風に彼は心まで寒くなる気がした。
ジョンは考えている。
(店を破壊した張本人のアンヌともう一人の少女に責任を取らせるのが筋だ。
しかし、金髪の少女は行方不明。
アンヌの方は、「店で働くから勘弁して」と言うのは判りきっている。
そんな事をしたら、ガサツな彼女が更に破壊して、店を完全に潰すのは目に見えている。
かと言って彼女は弁償できるとは思えない。
何せ、彼女の出費の殆どは酒代と食費と家賃に消えている筈だから蓄えも有ろう筈がない。
――つまり、今回の被害はオレが泣くしか無いのか……。
この際夜逃げでも――やはり不味いよなぁ……。)
「ふぅ」
絶望的な結果に彼はため息一つ。
その時、彼の背後で女性の声がした。
「マスターどうしたんですか?」
其処に居たのは、れいな。
彼女は漆黒のロングヘアーを風にたなびかせ彼の背後に立って居た。
レオタードの様な漆黒のアンダースーツと巻きスカート、腰には愛刀2本を携えている。
――完全な戦闘態勢だ。
彼は、驚き交じりに返事を返す。
「れいなちゃんか、そんな恰好してどうしたんだ?」
「さっき、あっちでルークの親父が暴れてたからね」
れいなは、ルークが先程暴れて居た方を見つめて小さく微笑んだ。
その様子にジョンも小さく頷く。
「そっか……、気をつけろよ」
「あたしは平気よ。 そっちはため息ついていたけどヤバいの?」
「確実にヤバい! 見ろよこの有様」
不安そうな表情でジョンを見つめるれいな。
ジョンは目を大きく見開き、彼女に店の惨状を見せてさらに窮状も伝えた。
このままでは、店が潰れるのも時間の問題とも。
爆撃を受けた後の様な、店の惨状を見たれいなは納得した。
「マスター。確かに、明日から店内で営業はきびいわね」
「だろ、れいなちゃん……」
彼の話を聞いたれいなは、不安混じでジョンに尋ねた。
「この店の経営状態どうなってるの?」
「だいたいこんな感じかな…」
ジョンは店の売り上げと支出をざっくり言い始めた。
彼の言った経営状態は次の通り。
収入
売り上げ 一月金貨300枚
――――――――――――――――――――――――
支出
材料費 金貨150枚
人件費 金貨120枚
燃料代 金貨 12枚
店の借り賃 金貨 14枚
――――――――――――――――――――――――
ひと月 金貨 4枚の利益。
ちなみに貯金 金貨5枚
「れいなちゃん。 大きいところでこんな感じだぜ、後は細かいものがあるけどな」
「ありがとう、マスター」
ジョンの話を聞いたれいなは、考えていた。
(粗利でこんな感じなら、お皿が割れたり鍋や竈が古くなる分引いたら、とんとんか下手したら赤字じゃないの?
借金が無いのがせめてもの救いかな?
この状況で借金したら、確実に潰れそうね。
――しかし、この経営状態で、よく今までお店が潰れなかったわよねぇ……。
経営学も帝王学の一環で子供の時から叩き込まれたけど、こんな時に役に立つとは予想外よね。
「れいなちゃん、何とかなりそう?」
ジョンはれいなの表情を穴が開くほど見つめている。
彼女は整った顔をヒク付かせた。
「今、考えて居るわよ……」
「たのむ! オレは料理以外は判らないからな!!」
拝み倒すジョンをしり目に、れいなはクールに尋ねる。
「看板メニューのステーキあるよね、原価いくらなの?」
「値段が銀貨1枚と少銀貨5枚で原価は銀貨1枚だな」
れいなは考えた。
一枚売るごとに、小銀貨5枚の利益か……。
――悪くないわね。
「お酒のたぐいは?」
「そうだな… 考えたこともなかった」
「ポートワインがだいたい金貨2枚で樽1つ買えるな、それで100グラス分くらいかな」
「それを少銀貨6枚で売るのよね、つまり1杯あたり少銀貨4枚の利益」
伏し目がちにクールに呟く、れいな。
ジョンは更に続けた。
「ビールは自家製だけど麦芽1袋で1月持つからな。一袋金貨6枚」
「だいたい一日20杯はビール出てるよね。 ひと月で600杯か……つまり1杯の原価は少銀貨1枚。
それを少銀貨4枚で売るから、ビールの利益は少銀貨3枚よ」
利益を簡単にはじき出すれいな。
彼女の姿にジョンは感心している。
「れいなちゃん、賢いんだな」
「マスター、その位お店の経営者なら把握して置いて下さい……」
呆れ顔のれいなは、ジョンを見てため息一つ。
そして、彼女は考えた。
看板メニューの原価率が6割程度は優秀ね。
お酒類、特に、ワインの売り上げが上がれば、利益は上がる。
つまり、看板メニューの売り上げと酒類の売り上げUP。
そして、支出を減らせば立て直せるわね。
なんたって、味自体は一級品なんだから。
――でも、どうやって支出減らす?
材料費は減らせないし、残るは人件費(バイト代)か……。
まずいわね、それやるとあたし達の生活がきつくなるわね。
燃料も削れないし、そうなると残るは家賃か…。
――大家に負けてもらうか…。
……食器類は、あの手で行けば良いわね。
これで上手く行ける。
れいなの口角がわずかに上がる。
そして、にこやかに話し始めた。
「マスター、キッチンは使えるんでしょ?」
「れいなちゃん、調理場は使えるけど店内がアレじゃ何処で食わせるんだ?」
不思議がるジョンに、れいなは店の前を指差した。
「店の外にテーブルを並べて、開放的なオープンテラスをしたらどう?」
「雨は少ないからシーズンだから名案だな」
マスターは手をぽんと叩く。
そして、有る事に気が付いた。
「テーブルは残ったのを使うとして、皿はどうするんだ?」
「まかせて、皿ならアテがあるの」
れいなはバイトの娘達の家に向かって行った。
”
「こんばんわ」
「「「こんな時間に誰?」」」
れいながバイト娘達の家に行くと、彼女達は眠そうな目をこすりながらドアから現れた。
年の頃10代前半の赤髪の可愛らしい少女たちだ。
「まだ起きてる?」
「「「れいな先輩、こんな時間にどうしたんですか?」」」」
れいなはジョンとのやり取りを話した。
「あなた達に、お願いしたい事が有るの」
「「「先輩の頼みなら何でも聞きますよぉ、しかもお店を明日から再開させるんでしょ? 断る理由なんて有りませんよぉ」」」
「ありがとう、みんな」
三人娘は、れいなの頼みを二つ返事で答えを返した。
そして、れいなは更に続けた。
「陶芸人間って近所に居たよね?」
「魂が籠もってないって皿割る、有名な偏屈スケベジジイでしょ?」
「その人」
3人娘の顔色が曇る。
どうやら、陶芸人間は有名人の様だ。
――陶芸の腕ではなく、エロジジイの方で。
れいなは小さく微笑むと更に続けた。
彼女には何か作戦があるようだ。
「そこから、たたき割る皿を頂いてきて」
「「「いいの?」」」
「ど~せ 壊すんだからね」
「「「それもそうよね~」」」
三人娘は頷いた。
「「「持って行く皿はどう選ぶんですか?」」」
「どれも魂が入ってない駄作だから全部一緒」
れいなは切れ長の目でクールに説明する。
「「「でもさ、あのスケベジジイただじゃくれないと思うけど……、絶対に胸触らせろとか言って来るわよ」」」
「其処は、あたしに任せて置いて良い方法があるの」
「「「れいな先輩、何するんですか?」」」
れいなは三人娘に耳打ちした。
三人娘はニヤリとする。
「「「さすが先輩です。 あのジジイが驚く姿が目に浮かぶよねぇ」」」
「でしょ?」
「「「因業大家はどうするの?」」」
「あたしに任せておいて」
「「「じゃあ、お皿の調達は、私達に任せて下さい」」」
れいなは大家の元に向かって行った。
”
市民たちが住む高台の白亜の豪邸。
そこが西風の大家の家である。
「夜分すいません」
「だれじゃ?」
豪邸から出て来たのは、身なりのよい白髪の老人。
ここらで多くの建物を持って居る富豪である。
れいなは大家の所に行くと、耳元で囁いた。
「店子ゼファーのお店ピンチなので、家賃安くならない?」
「此方も生活がありますので」
にべも無く答える老人。
れいなは計算通りの様で、表情を変えずに更に続けた。
「大家さん、西風がつぶれちゃうと上にいる住人も引っ越すとか言ってましたよ。
其れ所か、近隣の住人引っ越しちゃうかも」
彼女は小悪魔の様に、大家に語りかけた。
考え込む老人。
確かに、ゼファーの店の魅力、うちの物件の売りの一つじゃなぁ……。
家賃半額でも、西風存続させた方が得……。
大家のシナプスが火花を散らしていた。
「しかたありません…半額に……。」
老人はため息交じりで答えると、れいなは静かに続けた。
「何なら、別に引っ越しても此方は構わないってマスターは言ってましたよ。 そうなると空き家増えて困るのは其方じゃないのかな?」
れいなの的確な指摘に、ぐうの音も出ない大家。
殆ど強制的に値下げである。
「ぐぅぅぅぅ……。」
「家賃半額、更に半年免除ね!!」
「かってにしろ!!!」
大家は泣きながら、条件をのんだ。
「ありがとう、大家さん」
にこやかに一礼すると、れいなは去ってった。
”
街並みから少し離れたガラヤマ宅
「魂が籠もっていない」
がしゃ~ん。
派手な音が響いた。
がっしゃ~ん がっしゃ~ん。
陶芸家ガラヤマドウジンは自宅兼釜場で皿を割っていた。
その数、大きな箱に5~6箱は裕にあるようだ。
「「「おじいさん」」」」
バイトの娘三人集が不意に笑顔でガラヤマに話しかける。
「どうした?」
「「「どうせ壊すなら、私たちに譲って貰えないかなぁ~」」」
ネコのように妖艶な格好で迫る三人組。
ガラヤマもニヤ付きながら返事を返す。
「かまわんよ、あ、後で……パフパプしてくれたらな」
ドスケベなジジイは、目がハートになっていた。
「「「良いですよ」」」
ガラヤマの反応を読んでいたように笑顔で答える彼女たち。
「ほんとうか?」
若い娘にぱふぱふされる状況にニヤツクガラヤマ。
「「「もちろんですよ~」」」」
三人娘は後ろを向くと、スカートをめくりショーツを引っ張ると下腹部に何かを張り付けた。
――ブルーローズの少女がやっていた肉体強化の呪法だ。
そして、陶器の入った箱を一人で3箱楽々持ち上げる。
箱の重さゆうに150キロは軽く越えているだろう。
その様子にガラヤマは、目を疑った。
「…………」
そして、三人娘は笑顔で口を開いた。
「「「おじいさん、おもいっきり、パフパフしてさしあげますからね」」」
ばりん!!
一人の娘が、皿を摘むと握力で粉となった。
少女は照れ臭そうに口を開く。
「あ、ごめん。 壊しちゃった。ごめん、テヘペロ」
「力の加減が難しいのねぇ」
「そうよねぇ…… まだ慣れないから……」
凄まじい怪力を見せつけながら微笑む娘たち。
これはもう脅迫である。
「パフパフは要らない。 た タダでいいから持って行ってくれ……」
少女たちの笑顔にガラヤマは青ざめながら口を開いた。
「そうも行きませんよ…」
「ねぇ」
「ぱふぱふの代わりに何かしないとねぇ?」
お互い顔を見つめながら娘たちの口角があがる。
彼女達の表情に、泣きながら何かを出して懇願するジジイ。
彼の傍には、良さそうな大きな皿の箱があった。
「これも、持って行って良いから……」
「ありがとう おじいさん」
笑顔を振りまきながら、娘たちはひょいと良い皿の箱を持ち上げる。
陶器箱を全部持って、その数一人4箱。
その重さ軽く見積もって一人200キロは楽に有りそうだ。
「…………」
その姿に腰を抜かすガラヤマが居た。
「また来るね~」
「これで、先輩も大喜びよね」
「これで、明日からお店再開できるね」
「「「ね~~~~」」」
顔を見合わせながら、談笑する三人娘達。
彼女たちはガラヤマから頂いた皿を山ほど箱に詰め、凄まじい怪力を見せつけて去って行った。
どうやら、西風は明日も開店できそうです。
次から本話に戻ります。




