変わりゆく物 変わらない物
フィリアを見送っているかのん達。
路地を走る彼女の銀髪がさらさらと風になびいている。
かのんは遠ざかる彼女の後ろ姿を見つめながら考えていた。
(フィリアさん、すごく綺麗な娘だったな…、髪もさらさらで胸も大きかったし…。あの子と男の子の取り合う事になったら負けちゃいそう。 でも、セージは ゆきなだからそんな事は無いよね?)
そして、かのんがおそるおそるセージの方を見ると、彼もフィリアをじっと見つめていた。
呆然とするかのん、そして彼女は考えた。
(もしかして、セージはあの子に気が有るの?)
「かのん」
「せ、セージ、どうしたの?」
「フィリアって綺麗な娘の事なんだけどな」
セージはフィリアの後ろ姿を見つめながら、突然かのんに話しかけてきた。
驚きを隠せないかのん。
そして彼女は考えた。(やっぱり セージはあの子の事が好きなのかな……)
そして彼女は悲しげに口を開いた。
「――うん……、彼女の事ね……」
「かのん どうしたんだよ?」
「ううん……、 何でも無いよ」
かのんは泣きそうな顔になっていた。
しかし、セージは かのんの思いは判らないようだ。
心配そうに、かのんの顔を見ている。
シルビアはそんな二人に話しかけてきた。
――彼女は かのんの気持ちに気が付いて居るようだ。
にやにやしている。
そして、シルビアは考えて居た。
(かのん あんたの気持ちは良く判るよ、あんたはセージが好きなんだよね。 だからフィリアって娘に嫉妬してるのよ)
「二人とも何ぼ~っとしてるの?」
「「ごめん、シルビアさん」」
「早く宿に戻るわよ、またあいつらが来ると面倒だしね」
シルビアはそう言うとブルーローズの少女を一人ひょいと背中におぶった。
「あたしが一人連れていくから、あんた達でもう一人お願いするね」
「「え~」」
「あたしに二人持てと言うの?」
シルビアの顔がひきつっている。
その顔にしかたなく少女を運ぼうとするかのんとセージ。
「仕方ねえなぁ かのん、宿まで運ぼうぜ。 俺がこいつの片方の肩を持つから、こいつの反対の肩頼む」
「うん…、わたしも手伝うね」
かのん達は暗いスラムの夜道を宿まで戻りだした。
ブルーローズの少女をシルビアは背負って、かのんとセージは二人で少女の脇を抱えながらとぼとぼ宿屋まで歩く。
”
「重たいな……」
セージは呟いた。
彼は文句を言いながら金髪の少女の胸のほうを見ている。
どうやら、彼は大きな胸が重さの原因だと思っているようだ。
かのんは無言で冷たい視線をセージに送って居た。
シルビアはあきれた様子でそんな二人を見ている。
「セージ、女の子にそんな失礼な事言わない、 宿屋までもうすぐなんだから。 かのんも かのんだよその位で焼かないの」
「絶対こいつ重たいぜ、無駄にでかい胸してるから重たいんだろうな」
「……」
かのんは考えていた。
少しずつ変わって行っている、セージの事を。
(セージはゆきなさん、それは間違いないよ。 でも今は男の子だから……)
かのんの脳裏に不安がよぎった。
しょんぼりするかのん。
彼女の様子に気が付いたセージは話しかけてきた。
「かのん、どうしたんだよ?」
「ううん…、何でもないよ」
「今日の かのん何か変だぞ」
「そうかな? 色々あったから疲れてるのかもね」
かのんは作り笑いをして微笑んだ。
シルビアはかのんの作り笑いに気が付いたようだ。
明るい調子で彼女を気遣うように話しかけてきた。
「そうよね~。今日はあの女に合ったりさ、エロフォルク絡みで色々あり過ぎたからね、早く宿に戻って休もう」
「そうね」
「ブルーローズはもう大丈夫なのかよ?」
セージは不安そうにシルビアを見ながら話しかけると、彼女は表情を変えずに返事を返した。
――其の返事は自信に満ちていた。
「ブルーローズに関してはもう来ないわ」
「どうして?」
かのんは不安そうに口を開いた。
彼女にはシルビアの自信の理由が判らないようだ。
「総司令の命令じゃ無かったから」
「そういえば、そんな事言ってたな」
セージは頷いた。
かのんはまだ理解できないようだ。
「かのんには、こいつ等の事話した方が早いかな…、あたしが居た頃の話になるけどね」
シルビアはそう言うとちらりと背中の娘にやりながら、ブルーローズの事を歩きながら話始めた。
路地には冷たい夜風が吹き抜けている。
かのんとセージは少女を運びながらシルビアの話に耳を傾けていた。
「ブルーローズというのは、通称で本当の名前は無いのよ」
「本当の名前は何なの?」
「正式には存在しない部隊、それがブルーローズ」
「だから、青い薔薇って名前なのか」
「そう言うことよ」
シルビアからブルーローズの由来を聞いた二人は納得していた。
――正式には存在しない部隊、それがブルーローズ。
「ブルーローズはスタンウエィ家の女性が代々率いている女性だけの部隊で、今の総隊長はシェリルよ」
「シェリル?」
「村でみた巨大な剣を背負った女が居たでしょ、 彼女がシェリルよ」
「あの女が??」
セージは不審そうに尋ねた。
彼は彼女が総隊長というのが信じられないようだ。
「かのんはあの女の恐ろしさ判るよね?」
「わかる……」
かのんは頷いた。
魔法陣を一瞬で切り裂いた魔王の村での彼女の姿を思い出した。
そして、シルビアは更に続けた。
「あの女の下に、真紅のレオタード姿の真紅、紫服、青服が居るのよ。 さらに腰に巻いてある布が白なのは見習いの証よ」
「つまり、あいつらは下っ端って訳だな?」
「そう言う事よ」
「でもさ、こいつ等堅く無いか?」
セージはそう言うと、少女の腕のあたりを揉んでみた。
彼の手に堅い筋肉の手応えが伝わった。
その手応えにセージも驚きを隠せない。
「これって俺より筋肉無いか……?」
「そうよ、これがブルーローズよ」
「下っ端ですら、こんな感じなのかよ」
「そうよ、彼女たちは最弱クラスね」
シルビアは平然と彼女達を最弱クラスと言った。
かのんは彼女の事が気になっている。
「シルビアさんは、ドコにいたの?」
「内緒♪」
シルビアは猫口で微笑んだ。
釈然としない かのん。
彼女は更にシルビアに質問を投げかけて見た。
「シルビアさんの服は黒よね? もしかして真紅のさらに上なの?」
「返り血で真紅だった服がドス黒くなったから黒服なんだよね。
ふふっ、あたしだけの特別階級よ」
シルビアは乾いた声で小さく笑い声をあげた。
彼女が殺し屋だと言うのを知らないセージの背中に冷たい物が走る。
「セージには話して無かったよね、あたしの過去を……」
「シルビアさんは、昔に何があってもシルビアさんだぜ」
「ありがとう、セージ」
セージの方をちらりと見て、シルビアは尻尾を振りながら話を続けた。
「だから、隊の事は詳しいのよ。 表も裏もね」
「そう事なんだな」
「隊長の命令じゃ無い限り隊は動かない、だからもうブルーローズの襲撃は無い筈よ」
「じゃ もう安心と言う訳よね」
「うん」
シルビアの話を聞いて かのんは納得したように頷いた。
暫く歩くと宿屋が見えてきた。
明かりは消えているようだ。
月明かりにボロの宿屋入口が照らされている。




