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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
145/283

そして 時代は動き出す

 蒼竜歴2006年

 ペウタ王崩御し、エアフォルク王が王位を継ぐ。


 ――統治能力のない彼に変わり、ペイモンによる傀儡政治が続いて居た。

 


”””


 ――そして、現在。

 蒼竜歴2008年



 ルーシェ診療所隠し部屋。

 部屋の中には柔らかなランプの明かりが満たされていた。

 ほのかな明かりの元、静かに話し込むルーシアとシェスとシグルド。

 


 ――そして、れいなとバジルは座り込みながら彼女達の話を聞いて居た。

 

 バジルは小さく震ながら れいなに縋り付いている。

 れいなは彼女を庇うように抱きしめながら彼女ルーシアの話に耳を傾けていた。

 彼女達は女神が銀髪の天使を慰めるように見える。

 ランプの明かりに照らされた二人は神々しくもあった。


 「――これが、エリクシールとパパに関する話の全てよ」


 ルーシアは話し終えると、静かにベットの上に腰を下ろした。

 ――彼女は何かを考えて居るようだ。


 「判った? これがあたし達の背負っている物さ。 あたしの中ではゼファー先生の意思は何より重要なんだ」

 

 アンヌは静かに、そして力強く言い切った。

 そしてシグルドが沈黙を守る中、シェスが続けた。

 彼女シェスは何かを考えて居るようだ。


 「ゼファー先生の意思。 それは――スラムの人々の希望なんだ、其処はお前達にも判ってほしい」




 れいなとバジルの二人は言葉を失っていた。


 ルーシア達が背負っている物。

 ――D.r.ゼファーの遺志。

 その重さに二人は何も言葉が出せない。

 


 ――そして、沈黙が支配した。




 「でも、ごめんな……」


 シェスはバジルの側に近寄ると口を開いた。


「今度は何をされるの? 助けてれいなさん!!」


 何か酷いことをされると思い、れいなに縋り付いたバジル。

 れいなは銀髪の天使を庇うようにして背中を撫でてやっている。


 「よしよし、もう怖がらなくて良いからね」

 「ありがとう、れいなさん」


 可憐な天使はおびえた表情で、れいなの顔をのぞき込んで居る。

 そして、シェスやアンヌの方をちらりと見ると彼女は怯えた表情を見せ始めた。


 その様子を複雑な表情で見つめるシェスとアンヌ。


 ――ルーシアとシグルドは複雑な表情で事態を見守っていた。



 「いい加減にしなさい!」


 れいなは怒りを露わにしてシェスを睨み付けると、シェスは冷めた目をして呟くように返事を返した。

 

 「何もしやしないさ」

 「本当よね?」「本当に?」


 何もしないと言うシェスを 二人は不審そうにじっと見つめている。

 


 「オレもエリクシールで女になったからな。 お前の気持ちは良く判る」

 「…本当なの?」

 「嘘だと思うなら男の習性言ってみようか? 何でも答えられるぜ、朝の習性でもな」

 

 バジルは不信感を拭えない口振りで呟いた。

 彼女はシェスが自分と同じだと言うのが信じられないようだ。


 「仕方ないな、良く聞けよ……」



 シェスはため息を吐きながらバジルの耳元で何か囁いた。


 バジルはその言葉を聞くと少し赤くなった。

 ――そして、警戒心を少し解いたようだ、天使の体の震えが少し収まって居る。

 

 「……ぼく、シェスさんの事を信じるよ」

 「信じてくれてありがとう、でもお前には一つお願いが有るんだ」

 「何?」


 バジルはきょとんとした表情でシェスを見つめている。

 彼女シェスは銀髪の天使を見つめ、複雑な表情を浮かべながら続けた。


 「お前には、ここで大人しくして置いてほしい。 下手に動かれると計画が失敗するからな」

 「何時まで?」

 「俺たちの計画が終わるまでだ」


 「待てよ、シェス! 計画はどうなるんだ?」


 シェスがそう言うと、アンヌは声を張り上げた。

 その顔には焦りの表情が見えた。

 ――まるで時間が無いように。


 「シェス、イザベラを助け出す作戦に可愛い女の子が必要なんだぞ。 解ってるのか?」

 「判って居るぜ」

 「だったら、あたしがこの子を調教するのを邪魔するなよ」


 アンヌは舐めるように、れいなにしがみついているバジルを見ていた。

 ――まるで、獲物を狙うような目つきで。


 調教と言う言葉を聞いてバジルは震え上がっている。

 そして彼は考えた。

 (調教って……僕は何をされるの? 絶対に酷いことをされるんだよね?)



 彼女の様子を見て、シェスは呟くように吐き捨てた。


 「アンヌいい加減にしろよ!?」

 「シェス、何がだ?」

 「調教とかだよ」

 「作戦にどうしても男を咥えこめる可愛い娘必要なんだぜ? お前に準備出来るのか?」

 「だからと言って、何をやっても良い訳じゃないだろ? ソコまでやったら城のやつらと一緒だ」

 


 シェスとアンヌが言い争っている状況を見ながら れいなは考えていた。

(薬で無理矢理女の子にさせて、レイプ紛いの事をしようとしている時点で同類よ)


 そして彼女はバジルを庇うように抱きしめて口を開いた。


 「ゼファー先生の遺志は良く解ったわ。 けど関係ない人間まで巻き込むのは良くないわよ」

 「れいな、偽善者ぶるなよ!!」


 れいなの言葉を聞いたアンヌは吐き捨てるよう言うと、彼女に詰め寄った。

 彼女のあまりの剣幕に、ルーシアとシグルドとシェスは何も言えずに居る。


 「偽善者?」

 「お前は自分の欲望の為だけに『かのん』って娘を酷い事をしたんだぜ? そんなお前に言われたくは無いよな!」



 ――其の言葉を聞いたれいなは、何も言い返せずに俯いた。

 そして、小さく震えながらぽつり呟いた。

 彼女の体からは気が抜けたようにだらんとしている。


 「かのんに酷い事をしたのは確かにあたしよ……。 命で償わないと行けない過去の自分の罪よ……」

 「なら、あたしがこれからやる事に偉そうな事を言うなよな!」

 


 バジルはアンヌに詰め寄られた れいなが震えているのが判った。

 銀髪の天使に漆黒の女神の鼓動と震えが伝わっている。

 そして、バジルはれいなの顔をじっと見つめていた。

 彼女の顔は今にも涙が零れそうになっている。


 ――そしてバジルは、あの時西風で見せた彼女の表情の意味が分かった気がした。

 (この人は自分の罪に向き合って居るんだ――でも、どうやって償うつもりなの? さっき命って言わなかった?……まさかこの人は!?)



 「じゃあ この娘はあたしが預かるよ。 今夜のうちに調教して男好きのするようにしないとね」

 

 アンヌは無慈悲にもバジルの腕を掴むと、彼女をれいなから引きはがした。

 天使の絶叫が部屋中に響き渡る。



 「助けてれいなさん!」

 

 銀髪の天使はその目に涙を浮かべている。

 れいなは立ち上がりアンヌから銀髪の天使を奪い返した。

 彼女れいなはバジルを庇うような仕草をしている。


 そして、静かに力強く れいなは口を開いた。

 

 「やめなさい!」


 彼女は剣に手を掛けようとしていた。

 その様子に部屋中に緊張が走る。

 シグルドは彼女の闘気に気がついたようだ。

 彼は叫び声を上げた。


 「れいな、本気か?」


 彼女れいなは冷めた目でアンヌを見つめながら呟いた。

 

 「あたしは確かに酷いことをして来た……」

 「なら、あんたに言われる筋合いは無いよね?」

 

 アンヌは れいなにさらに詰め寄りながら彼女を睨み付け始めた。

 彼女アンヌも本気を出すようだ、彼女の体は淡く光を放ち始めていた。

 


 「でもね……これから起こることは別よ! これ以上この子に酷いことをするなら、あたしが相手になるよ」

 れいなも震えるバジルを庇いながら剣に手を掛けている。

 

 

 ふたりの間に冷たい火花が飛び散る。


  「二人とも冷静になりなさい!」

  「あたしは冷静よ」

  「あたしも冷静さ」


 ルーシアが二人を止めようとしているが収まりそうにない。

 一触即発の状況になっている。




 がちゃっ!


 その時、隠し部屋に扉が開く音が響いた。

 誰かが来たようだ。


 みんなの視線がそちらに集中する。

 ――レンだ。


 「アンヌ! いい加減にしてよ!!」


 レンそう言うとアンヌの方につかつかと歩み寄り、彼女の頬を叩いた。

 


 ばーん!

 乾いた音が部屋に響きわたる。

 いきなり頬を叩かれたアンヌは唖然としていた。


 「レン、何するんだよ?」

 「あなたは、れいなお姉様に何て事を言うのよ!」

 「事実だろ?」

 「お姉様はね……」


 レンはその眼に涙を浮かべながら話していた。

 その様子を見た れいなは、レンに静かに話しかけた。

 

 「いいの……。 これは私の過去の罪だから」

 「良くありません!」



 レンはアンヌを見据えながら口を開いた。

 彼女アンヌの方も訝しそうにレンを見ている。


 「アンヌ!」

 「レンあんたも邪魔するつもりなのかい?」

 「貴女は自分が何をやって居るのか判って居るの?」

 「ゼファー先生の遺志を継いで……」

 

 彼女は澄んだ瞳で彼女を見澄ましていた。

 ――彼女は、アンヌの本音に気が付いているようだ。

 レンはアンヌを正面に見据えながら口を開いた。

 


 「二言目にはゼファー先生の遺志と言ってるけど、現実を見なさいよ!」

 「現実?」

 「そうよ、今から自分がやろうとして居る事よ」

 

 アンヌは冷静になったようだ。

 ――彼女は、辺りを見渡した。


 彼女の目の前には女の子にされて、怯えた目をしている銀髪の天使が居る。

 天使は女神れいなにしがみ付いて居た。

 二人とも震えているのが判った。

 

 そして、アンヌを冷めた目で見つめるルーシアとシェス。

 シグルドは彼女アンヌを憐れみを帯びた目で見ていた。



 その光景に気が付いたアンヌは自分がやろうとして居る事が酷く、そして恐ろしい事に思えて来た。

 彼女から魔力の集中が薄れている。

 そして、彼女はうなだれた。


 「……」


 「あなたはゼファー先生の意思を盾にして、この子を無理矢理こんな姿にして自分の欲望を叶えているだけじゃないの?」

 「――あたしが自分の欲望を?」

 「そうよ、自分でも判らないなら私が言ってあげるわよ!」


 アンヌはレンの話している意味が解らないようだ。

 彼女はただ俯いて居る。

 レンはうな垂れているアンヌを見据えると更に続けた。

 

 「あなたは、昔騙されて奴隷として売られたのよね」

 「そうだよ……」

 「その時、店の男の人たちに調教と言って酷い目に合されたんでしょ?」


 レンの話を聞いたアンヌは震えだした。

 彼女は昔の事を思い出したようだ。

 アンヌは座り込んだ。


 「何故それを知ってるんだよ?」

 「――噂で聞いたから。 アンヌがシグルド達に助け出された時にソファーの上に恥ずかしい恰好で縛れていたとね」

 「やめろ……ヤメロ……、その話は止めろ!!!」


 アンヌは駄々っ子の様に吐き捨てた。

 彼女にとって最大のトラウマになっていた過去の経験を思い出したようだ。

 頭を抱えて体を震わせている。


 レンはアンヌに無慈悲に更に続けた。


 「だから元男の子だったこの子を自分と同じように調教する事で、あの時の精神的な復讐しようとしているだけじゃないの? 違うの!?」


 「……」


 アンヌはレンに自分の心の内を見透かれて何も言い返せずに居た。

 彼女はただ震えている。


 アンヌが震える様子を見た れいなはレンを止めようとしていた。


 「レン……もう止めなさい」

 「れいなお姉様、最後まで言わせて下さい。 アンヌの為にもね」

 「判ったわ……」


 そして、レンは更に続けた。

  

 「復讐の感情に囚われて、自分じゃ何も考えて居ないじゃない? あなたこそゼファー先生の遺志を勘違いして居るわよ」



 レンの話を聞いたアンヌは俯いたまま、ぽつり呟いた。


 「あたしが調教されて居ても、この娘を同じようにして良い理由にならないよな」

 「アンヌごめん、私も言い過ぎたかもしれない」


 レンはアンヌに頭を下げた。



 ルーシアはその言葉を聞いて考え込んでいた。

 そして、アンヌやバジルを見つめながら口を開いた。


 「そうね……、こんな事はパパも望んでいないわよね…」



 彼女の言葉にシェスもアンヌもシグルドも何かを考えるように黙り込んでいる。

 


「こいつが居ないと、結局だれがやるんだ? みんな顔を知られてるからダメだろ?」

 


 アンヌがバジルをちらりと見て、ぽつり呟いた。

 ――部屋を重苦しい沈黙が支配する。

 だれも口を開けない。



 銀髪の天使もれいなの顔をのぞき込みながら考えていた。

 れいなさんは、ぼくを護るためにアンヌさんに立向かって行けるなんて凄く勇敢な人なんだろう……。

 それに、レンって女の人も……。

 


 れいなもバジルの様子に気がついたようだ。彼女の方をじっとみていた。


 「バジル、どうしたの?」

 「ううん、何でもないよ」


 バジルはさらに考えた。

(ゼファーと言う人も最後の最後まで信念を貫き通したすごい人だった。 僕もみんなみたいに勇敢になれるかな……)



 

 その時、ドアからふわりと風が吹き込んできた。 

 風は何処かで嗅いだことのあるよい匂いを運んできた。――向月葵の香りだ。


 「良い香りね……、向月葵の花言葉は『明日への希望』だったわね」

 

 ルーシアがぽつりと口を開いた。

 


 「明日への希望……」


 バジルは呟いた。

 そして、彼女バジルはルーシアの言葉を聞いて何かを決意したようだ。

 ルーシアの方を向いて沈黙を破って話し出した。


 「イザベラさんを助けるんだよね?」

 「そうよ」


 ルーシアは、バジルの突然の発言に少し戸惑いながら答えた。


 「彼女を助けるなら僕にも手伝わせて」

 「本当に良いの?」

 「僕も少し勇気を出してみるよ、ぼくは何をしたら良いの?」


 バジルは震えながら返事を返した。

 彼女バジルは れいなの胸にしがみつきながら、けれど精一杯の勇気を振り絞っている。

 

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