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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
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Pretend back pendulum エリクシールエピソード零 十一話  受け継がれていく意思~そして未来へ 後編  2部

 ゼファーの診察室。


 ルーシアは診療所まで逃げ延びていた。

 ジョンに連れられたお蔭で彼女は無事の様だ。


 泣き疲れた彼女は床に座り込んでいた。

 ――俯きひたすら泣き続けている。


 彼女の傍でシェスとシグルドが沈痛な表情でルーシアを見ている。 

 そして、シグルドはたまらず吐き捨てた。


 「くそぉ……何が守護騎士だ! 護れない騎士なんて意味はねえだろ?」


 彼は崩れるように座り込み、拳で床を叩きつけている。

 

 「誰もお前を責めねえよ……」

 口を開いたシェスはシグルドの側に座り込みむと彼女の小さな胸がぷるんと揺れた。

 その様子を横目で見た居た、ルーシアは驚きの表情を上げた。


 「シェス…… まさか?」

 「ばれちゃったか……黙っとくつもりだったんだけど」

 「本当に薬の副作用で女の子に?」


 ルーシアが半信半疑で訪ねた。

 シェスは自分の服をめくり胸を出してあっけらかんと答えた。


 「これが薬の副作用なんろうな、完全に女の子の体になっているぜ。 あそこもトイレで確認済みだぜ」

 

 強気な返事をするシェスだが、声は震えているのが判った。

 ルーシアはその答えは予想して居なかったように呆然とした表情を見せている。

 そして彼女は号泣しながら、シェスに謝り始めた。

 

 「ごめんね…シェス……。 私のせいでそんな体になっちゃって…、きっと好きな子も居た筈よね?」

 「良いんだぜ……。 気にして無いからな……」

 

 そしてルーシアはシェスを抱きしめるようにして背中を叩いて居る。



 二人の姿を見たシグルドは立ち上がり、自分の剣を床に叩きつけて真っ二つにした。

 床には、真っ二つになった彼の剣が無造作に転がっている。

――そして、彼は絶叫を上げた!


 「うおぉぉぉ!! 俺は、俺を許せねぇ……。これからもずっとな!!」

 

 シェスは俯きながら、シグルドを慰めるように彼の足を叩きながら口を開いた。


「全部終わった訳じゃ無いだろ?

 オレはこんな体だけど、まだ生きている、だからまだ何か出来る……」

 


 その時、ドアが開きアンヌが現れた。

 彼女の表情は、焦りに満ちている。


 「シグルドやばいぜ」

 「どうした、アンヌ」

 「市民がこっちに押しかけて来ている」

 「なんだって? 詳しい話を聞かせろ!」

 「ブルーローズが……」


 アンヌの話を纏めると、処刑の後スラム住人と市民で衝突が起きて、スラム住人の鎮圧にブルーローズが出動。 そして勢いづいた市民が暴徒と化して、スラムまで乗り込んで来てる、と言う事だった。

 そして、彼らは口々に『罪人の娘ルーシアを吊るせ』と話している事だった。



 シグルドはその話を聞くと唖然としたした表情でアンヌに尋ねた。


 「ルークの親父はどうしたんだよ……。 ブルーローズがスラムの人間を鎮圧するなんてシェリルも何考えているんだ?」

 「二人とも不敬罪で自宅謹慎させられるのを見てたよ…… 」

 

 アンヌは沈痛な表情で口を開いた。

 その話を聞きシグルドは頭を掻きながら彼女に尋ねた。


 「おい……じゃあ……。ブルーローズは誰が牛耳ってるんだ? ……まさかシルビアが?!」

 「あたしも命からがら逃げて来たんだよ判る筈は無いだろ? とりあえず逃げなきゃヤバいよ!」

 「そうだよな……どうする、アンヌ?」


 暫く考えたアンヌは口を開いた。


 「あたしが囮になる。 その隙にルーシア達は逃げな」

 「お前は大丈夫なのか?」


 シグルドは心配そうに口を開いた。

 アンヌは軽く微笑んだ。

 

 「誰かがやらなきゃだめなんだろ?」

 「死ぬなよ アンヌ……」

 「判ってるって、 ルーシア、服を借りるよ!」


 アンヌは奥の部屋からルーシアの服を取り出すと飛び出して行った。

 その後ろ姿を心配そうに見つめながら、シグルドは口を開いた。


 「此処の裏口から港までオレが案内する。 市民には解らない道だから安全だろ」

 

 ――しかし、ルーシアは動こうとしない。


 「もう、ここで死にたい・・・」

 

 彼女はぽつり呟いた。

 その時、シェスの平手が飛んだ。

 乾いたおとが室内に響きわたる。


 「いい加減にしろ!」

 「…叩きたいなら好きなだけ叩けば? 私はもうここで死んで、パパやママの所に行くわ」


 ルーシアは投げやりな態度で吐き捨てた。

 彼女に生きる意志は完全に失われているように見えた。

 その姿をみて、何の言葉も出ないシェスとシグルド。 

 

 ――重たい空気が流れる。



 ルーシアが希望を失い座り込んで居ると、ドアからふわりと風が吹き込んできた。 

 その風は何処かで嗅いだことのあるよい匂いを運んできた。――向月葵の香りだ。


 その匂いを嗅いだシェスはぽつり呟いた。

 

 「向月葵の花言葉何か知ってるか?」

 「え? たしか意味は「明日への希望」……」

 

 ルーシアはその言葉を聞いて我に返って気が付いた。

 希望の光が灯って居る……――それは意思を引きついた私達が居る事。

 ――それが明日への希望。

 私たちがこの国を変えてみせる!


 ――彼女は静かに立ち上がり、語り始めた。

 彼女の目には力強さが満ちている。

 もう死にたいと行っていた弱さは何処にもない。


 「やっと今パパの言葉の意味が分かったわ、『希望の光』の意味が」

 「何なんだ?」

 「今を生きる、意思を引きついた私達が希望の光なのよ」


 「たしかにそうだよな……。 先生の意思が消えたわけじゃないからな!」

 シェスとシグルドはうなずいた。


 「私たちがパパの意思を継いで、この国を変えてみせる」

 「俺も力を貸すぜ!」

 「オレもだ」

 「私が考えて居る事が有るんだ……。 この国を変えるためにね」

 「何なんだ?」


 「後で話すわ、まずは此処から逃げないとね……」

 「そうだよな! それが最優先だぜ!」


 

 ルーシア達は路地を抜け港まで走った。

 彼女達が逃げる途中に騒ぐ声が聞こえる。


 「何あれ?」

 「まさか もう市民が?」

 

 ルーシアがそちらの方を向くと喚き散らす男が居た。

 彼女達に一瞬緊張が走る。


 彼は海沿いの路地で大酒を飲み、その手には、何かの書類の束があった。


 「俺が護りたい国って こんな糞ったれの国なのかよ!! 闇に潜み、人生を捧げて来たのはこんな国を守るためじゃねぇ!!」

 彼はわめき散らすと、その束を投げ捨てた。



 その様子を見てシグルドは胸をなでおろした。


 「タダの酔っ払いだ、急ごう」

 「良かったわ」



 ルーシア達は港に着いた。

 其処にはアンヌが先に到着していた。


 「ルーシア、あんた達も無事にたどり着いたんだね?」

 「アンヌのお蔭でね」

 

 ルーシアはアンヌに深々と頭を下げた。

 そして静かに語りだした。


 「みんなありがとう、あたしが考えて居る事を聞いて欲しいの」

 「「「何をやるつもりなんだ?」」」


 シグルドとシェスとアンヌはルーシアの話に耳を傾け始めると、ルーシアは自分が考えて居た組織の事を話し始めた。

 

 ゼファーの意思を受け継ぐ革命組織――リベリオン。

 ――そして、実現の為には力を蓄える必要があると。



 その話を聞いたシェスとシグルドとアンヌは考え込んだ。

 

 「そうだな……、流石ゼファーの娘だ、俺もその話に乗るぜ」

 「オレもやるぜ」

 「あたしもだよ」


 「じゃあ リベリオン結成ね」


 ルーシアが頷くと残りの三人も頷く。



 港には小さな船が有る。

 其処に乗り込むルーシアとシェス。


 「私たちは、ステラお婆さんの所で医術を学んで力を付けるわ」

 「オレも別の力を付けてみせる……」


 ルーシアとシェスは船の上でシグルドとアンヌを見つめていた。


 「オレは、アンヌと此処でこの国を変えれるように力を付ける。 手始めは人身売買ギルド壊滅だ」

 「あそこはヤバいんじゃないか? まあ付き合うけど」

 

 シグルドはアンヌの方を向きながら口を開いた。


 「何時再会にするんだ?」

 「ペウタ王が死んで、次の王に変わった時計画実行の好機ね その時に再会しましょう」

 「了解」


 ルーシア達を乗せた船は魔王の村のステラの元に向かった。


 

 ――8年後そして、再び時は動き出す。

過去編はこれで終わりです。

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