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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
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Pretend back pendulum エリクシールエピソード零 二話 エリクシール誕生

 時は流れ、蒼竜暦1960年ミットランド王国市街地

 


 夕暮れの広場には花壇が広がり向月葵がよい匂いを漂わせていた。

 子供達が元気に広場を走り回り、時折物売りの声が聞こえている。

 どこらともなく肉が焼けるよい匂いも漂って来ていた。

 

 平和その物の光景が広場には広がっている。

 


 そんな広場に面した邸宅にある小綺麗な部屋。

 その部屋のソファーの上に若い母子が居た、年の頃は母親の方は25歳前後、子供は5歳くらいだろうか。


 子供は、母親にお願いをしているその手には絵本が握られていた。

 その本には、『創世記』と描かれており、美しい女神が醜悪な魔王を踏みつけにしている表紙が付いている。


 「ステラお母様」

 「ゼファー何?」

 「この絵本を読んで頂けませんか?」

 「良いわよ、創世記神話ね。

 あなたはその本が好きよね、何回読んだのかしら?」

 

ステラはゼファーの頭を撫でながら口を開いた。

 優しい視線を送っているが半ばあきれた様子である。

 

「じゃ 読むわね」

 「ありがとうございます、お母様」


 ステラはゼファーの本を受け取ると膝の上に彼を乗せ本を読み始めた。



 その昔、静かな平和な時代が続いていました。

 しかし、突如として世界の平和は破られたのです。

 何処からともなく現れた恐怖の大王の侵略でした。

 ヘルゾットと言う恐怖の大魔王がヒャクハチサマと言う魔物を従え世界征服に乗り出したのです。


 人類は果敢にも戦いを挑みましたが、魔王の猛攻により、村村は焼かれ人類を滅亡の縁まで追いやられました。



 人々に為す術は有りませんでした。


 人々は救いを求め、ただ天に祈る日々。

 そして。

 祈りは天に通じたのです。

 

 美しい女神イシュが現れ魔王に戦いを挑みました。

 イシュと大魔王の戦い…。

 それは長く激しい戦いでした。

 


 戦いにより森は焼け、海は干上がり、世界を焼き尽くした炎はこの世から雲を消し去りました。



 イシュが大魔王を亡ぼした時。

 辛くも生き残ったのは二人の少女、イブとリリムだけでした。


 深く愛し合う二人。

 女神は、二人の深く愛する姿に心を打たれました。

 彼女は、リリムに神の祝福を与え二人に子供を授けれるようにしたのです。


 そうして、イブは多くの子供達を産みだし、また世界に繁栄がもたらされました。



 「おしまい」

 「ありがとう、お母様。

 でもどうして、始まりの人が女の人二人なの?」


 ゼファーは不思議そうにステラに訪ねた。


「…そうね、神話は大体誇張が多いから。

 世界が滅びたと言っても、別のところに沢山人が居たのかも知れないわね」

 「ふ~ん」

 「ヘルゾット自体も、火山の猛威を大魔王に例えたんじゃ無いかしら?

ゾット火山と言う物も有るしね」

 「じゃあ、ヒャクハチ様は?」

 「火山と一緒に起きる大津波かしら?」

 

 ステラは首を傾げながら説明し始めた。

 ゼファーは感心している。



 「ところで、パパは何時になったら戻ってくるの?」

 

 ステラの表情が変わった、恥ずかしさと怒気が入り交じった複雑な表情をしている。


 「…パパは、お星様になったのよ、忘れなさい」

 「お星様?」

 「ええ、薬を作るときの事故で遠くに行っちゃったの。

 だからもう会えないのよ」

 

 ステラは考えていた。

 (…この子には言えない……。

 口が裂けても言えないわ。

 エリクシールの実験で、夫のランディールが女性化して、しかも女装しているなんて……)


 悲しい表情を浮かべるゼファー。

 今にも泣き出す寸前のようだ。

 ステラは彼の頭を優しく撫でながら微笑みかけた。


 「でも、あなたにはママがついているから心配しないで」


 「ありがとう、ママ」





”””



 ミッドランド王宮

 王宮付属の薬剤研究室

 

 石造りの部屋の一角、そこで二人の男が机を囲んで話し合っていた。

 そこに居たのはランディールとジルである。



 二人の男たちの表情は暗い。

 何か思いつめている表情だ。


 「ランディールの兄貴、エリクシールは出来て男には戻れたけど、どうするんですか…。

 このまま薬をアイツらに渡すんですか?」

 「ジルお前に頼みたい事がある」

 「何ですか?」

 「今から、ステラとゼファーを連れて此処から逃げろ」


 ランディールが話した意味が解らず唖然とするジル。

 彼は自分の考えを話し始めた。

 彼の表情は険しく苦悶に満ちていた。



 「オレは、お前が探し出してきた石版タブレットから創世記神話より前の世界が有ることを知った。

 其処から、創世記神話が実際に有った事を突き止めたんだ」

 「だよな、その話を聞いた時は唖然としたからな」

 「蒼熱病の原因がその時に起きているのを突き止めて、それを解決しようとしたのがエリクシールだ。

 自分の予測だがリリムと言う娘が石版タブレットに書いてあった二世代エリクシールを飲んで男性化しイブと結ばれたと思う」

「じゃ、 イシュも実際に居たと言う事か?」



 ランディールは青ざめている、自分の導き出した恐ろしい予測に。

 その話を聞いたジルも血の気が引いている。


 「たぶん……な、そしてゾットも」

 「マジかよ……」

 「俺たちが存在する理由は、そいつらを生存させる為かも知れない。

 時代の変わり目に現れている不思議な女性の話は千年前にも昔話に出てるからな。

 そして俺たちはその掌で踊っているだけなのかもな……」


 「そいつ って何者なんだ?」

 「オレにも判らない、だが今はこの薬を悪用されないのが最優先だ。

 この薬は人民を救うための物で、支配の道具に使われる為では無いからな」

 

 「しかし相手が悪すぎるぜ兄者。

 弟王クレメンスから呼び出しとはヤバく無いのか?」

 「ヤバいだろうな」


 ランディールは平然と答えた。

 その様子を見て半ば呆れた表情でジルは見ている。


 「あいつは黒い噂耐えない奴だぜ、実の親を殺害したとか何とか。

 病弱な女王シェーンを追い落として王座狙ってるのが見え見えだろう?

 今回の呼び出しも罠だろうぜ」


 「だからと言って、病人を放置する事はできまい。

 蒼熱病を治す事が出来るのは俺だけだ、ペウタ王子が蒼熱病に倒れたと聞いて同じ子を持つ親なら見捨てる訳には行かないだろう?

 例え罠と解っていてもな」


 彼の目には迷いは一切無いように見えた。


 「兄貴らしい」

 「オレは逃げれない、この国を見捨てれない、最後の最後までやってみるさ。

 エリクシールの作り方と言う切り札があるから、クレメンスにオレを殺す事は出来ない筈だからな」


 彼の顔には悲壮感が漂って居る。

 しかし、覚悟を決めているようだ。



 「判った、兄者も無理せずに逃げろよ。

 オレはステラとゼファーを連れて何処かに雲隠れするぜ、連絡はジェミニシードで取ろう」

 「オレも死にたくないからな。

 適当な所で逃げ出すさ、例の石版タブレットは任せたぜ」


 ランディールは作り笑いをしながら、部屋から出ようとしている。

 ジルも石版タブレットを持って窓から走り去って行った。

 彼の後ろ姿をじっと見るランディール。


 「語られぬ歴史の真実頼んだぜ……」



”””

 

 ランディールの怒号が弟王の部屋に飛び交った。


 「やはりぺウタ王子が蒼熱病と言うのは嘘だったのですね」

 「よく聞け、この薬はうまく使えば愚民を牛耳れるのだ。

 新たな法や神託システムを作り出す事によってな」

 

 クレメンスは玉座に座り、邪悪な微笑みを見せながらランディールを見据えている。



 「この薬はバカげた法や神託イカサマをして支配の道具に使うための道具では有りません。

  病に苦しむ民のために使うものです!!」


 両者の激しい論争は続いた。

 

 

  姉上の時代も時期に終わる、蒼熱病に侵されているからだ、そして姉上無き後俺が国を盗る。

 オレはお前の薬を作る能力は高く買っている、俺に力を貸さないか?」


 「シェーン女王の蒼熱病はこの薬で治せる、おまえの野望は叶うことは無い」

 「そうか…」


 王の表情が変わった。

 彼の合図で兵士が飛び出し、ランディールを押さえつけた。

 

 「俺に従うか、死か選べ」

 「お前に薬を渡して何が起きるか予想は付く、お前には従えない」

 「残念だ、オヤジと同じように始末するしか無いのか……。

 だがお前を殺してもエリクシールはまだ残りは有るんだろう?」

 「!!」

 「支配するには、薬が有ると言う事実だけが有れば良い。

 その量は少なければ少ないほど価値は高まる、ローブの女が言って居たようにな」


 

 ランディールはうなだれた。

 「やはり噂は本当だったのか、嘘だと信じて居たかった。

 ステラ…、ゼファー済まない……」



”””



 ランディールの死後、彼の予想していたように動き始めた。

 様々な法による支配体制の強化。

 広場における公開処刑。

 フールの民への差別など。




 そして魔王の村に逃れたステラ親子。


 そして40年の時が流れた。


 


 ゼファーはミッドランドのスラムで診療所を開いていた。

 無き父の意志を知るはずもなく。


用語解説 ジェミニシード

一対の実が片方が震えるともう片方が同調して震え、音などを伝える木の実。


神話とかは、勝った方が都合の良いように書き換えられるものです。

負けた方は魔王とされるのが世の常。



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