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今日から魔王始めました  作者: くろねこ
2章 秘薬エリクシール
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診療所 2足の草鞋

 宿屋にいるかのんとセージ。

 二人はラフな格好で巨大なベットの上で転がってくつろいで居る。

 バジルの身に起きた事を知る筈もなく、彼の帰りを何時もの様におしゃべりしながら待っていた。



 「ゆきな、バジル戻って来ないわね」

 「全くお前は…、セージと言えと言ってるだろ?」

 「ごめん……」


 いつもの様にセージは、かのんの頭を軽く小突いた。

 まるで恋人のような感じでセージは かのんを見つめている。

 しかし、かのんは彼の視線に気が付いて居ない。


 「この時間だと、診療所も閉まってるだろ?」

 「そういえば、閉めるとか言ってたよね」

 「荷物を取ってくると意気込んで行った手前、取り戻さずにすごすごと戻れないだろ?

 あいつが戻るに戻れなくて、宿屋か診療所の前でうろうろしてるのが見え見えだぜ」


 セージはベットの上で転がり仰向けになって口を開いた。


 「男ってバカなんだから……」

 

 その様子を見て かのんは微笑んだ。


 「今のセージも男でしょ?」

 「そうだけどさ、オレの中身はゆきなだからアイツみたいな事は無いぜ。

 あた…、違う、オレなら診療所に忘れ物をしない!」

  


 セージはゆきなの時の口癖であたしと言いそうになったのを、オレと言いなおした。

 彼は、かのんと話している内に転生前の感覚になっていた。

 まるで転生前の女子トークの様な感じで話している。

 

 「かのんさあ、この世界ってスマホもコンビニも電気すら無いけどこんな世界も良いよな」

 「その分、魔法とかあるしね、怖い事も有ったけど、結構面白いよね。

 それに、シルビアさんみたいに良い人も一杯いるしね。

 エロフォルクは最悪だけど」



 無邪気に喋るかのんを横目に、突然セージは冷めた視線で窓の外を見つめた。

 何か心に秘めた物が有るようだ。

 そして、彼は口を開いた。


 「あたし達ずっとこの世界で暮らす事になるんだよね。

 大人になって誰かと結婚して子供を作って……」

 「と 突然何を言い出すの、ゆきな?」

 

 セージの突然の発言に、かのんは驚きを隠せて居ない。

 それを察知したセージは話題を変えた。

 

 「なんでも無いから今のは忘れて、かのん。

 バジルの事なんだけど、チキンだけど頑張ってるだよな……」

 

 「彼を迎えに行く?」

 「そうだなシルビアさんが戻ったらバジルを迎えに行くか?

 泣いてそうだしな」



 暫くすると、シルビアが宿屋に戻ってきた。

 

 「ただいま~、みんな大人しくしてた?」

 「おかえりなさい、シルビアさん」


 シルビアは、かのんとセージだけでバジルが居ない事に気が付いた。


 「バジルが居ないようだけど、どうしたの?」

 「あいつなら、忘れ物を診療所に取りに行って、戻ってきてないぜ。

 どーせ何処かでバツが悪くて、戻れないで居るだけだろう」



 セージの言葉を聞いたシルビアは真っ青になった。

 彼女の血の気が引き、尻尾が震えているのが解る。

 そして口を開いた。


 「ここの夜の町は、そんなに生やさしい物じゃ無いのよ!

 バジルは、さっきの診療所に向かうと行ったのよね?」


 彼女のあまりの狼狽にかのんとセージは思わず顔を見合わせた。


 「診療所に向かうと言ってたわ」

 「私が探して来るから、あんたたち二人は此処で待ってなさい」


 そう言うと、シルビアは宿屋から全速力で走って行った。

 


 残されたかのんとセージ。

 二人は顔をつき合わせたまま話始めた。

 その顔からは血の気が引いていた。


 「おい、かのん、ヤバくないか?」

 「ヤバい気がするよね。

 シルビアさんだけじゃ、探しきれないから私たちも探さない?」

 「シルビアさんは、待ってろと言わなかったか?」


 セージはバジルを探しに行きたそうにして居るのが表情からにじみ出ている。



 「私とゆ…、私とセージのコンビって前から最強のコンビだったよね?」


 かのんはゆきなと言いそうになるのを押さえて、セージと言い直した。


 「最凶ともいえるけどな……。

 幼稚園の時、お前がクラスチェンジしたいと言い出したのを覚えているか?」


 「あ……」


 かのんは何かを思いだしたようだ。

 照れ臭そうにしている。


「勇気の城にクラスチェンジアイテムのネズミの尻尾を取りに行くと言って、お前は何も知らずに山の上にある城のようなラブホテルに忍び込んだんだよなぁ」

 

 セージは意地悪そうに口を開くと、かのんは耳まで赤くなった。


 「そ、その話は言わないでよ」


 セージは楽しそうにさらに続けた。


 「そこに入って、勇気の証しのネズミの尻尾と称して、例の使い古された風船をお前が見つけたったんだよな。

 その後居なくなった かのんをオレが探しに行って……。

 そんな感じで俺たち、前から良いコンビだったよな、今回も二人で行くか?」


 顔から火を噴きそうな表情の、かのんは頷いた。

 セージも相槌を打った。

 二人は、宿屋から駆け出して暗い夜道を診療所に向かって行った。




”””



 二人は診療所に着いた。


 其処の扉は何故か開かれて居り、中の様子が伺える様になって居る。

 しかし、待合室の雰囲気は昼間の診療所の時とは異なっていた。

 まるでコスプレ喫茶の様な雰囲気に変わって居り、扉の内側ではメイド服のシェスがヘッドドレスをいじりながらお客を待って居る。



 「セージ、なんかここ雰囲気変わってない?」

 「だな……」


 かのんとセージは余りの診療所の変貌ぶりに驚きを隠せない。

 セージはこの店が大体何で有るかは見当が付いて居るようだ。

 しかし、かのんは全く判らないようだ、店の様子を興味津々で見ている。


 「かのん、あんまり雰囲気良くないけど入って見るか?」

 「勿論でしょ、バジルが居るかもだからね」

 「お前がそう言うなら良いけどさ……」



 二人は診療所のドアを潜るとシェスが愛想よく二人にお辞儀をした。

 そして二人に向けて口を開いた。


 「いらっしゃ~い。

 でも此処は子供の来るお店じゃ無いんだよね。

 ここは大人の男の遊び場なんだよ、其処の坊や大人になったらおいでよ歓迎するからさ」

 

 「バジルと言う黒髪の男の子此処に来なかった?」

 

 かのんはシェスに尋ねると彼は答えた。


 「そう言えば男の子は来たけど、ウブな子らしく診察室の中を見たら恥ずかしそうに叫び声をあげて逃げて行ったよ」

 シェスはさらりと答えたが、何かを隠しているように落ち着きがない。

 その時、かのん達の後ろで声がした。



 「あたしはソッチの趣味なんだ、どんな子が居るか見せてくれない?

 良い娘ならお金は倍払っても良いわよ。」

 

 かのんとセージが振り返ると其処にはシルビアが居た。

 彼女は笑顔を浮かべていたが、目が笑って居ない。

 そう言うと彼女は診察室のドアの方に向かって行った。


 しかし、シェスは余裕の表情を浮かべている。


 「じゃあ 今日入った娘が診察室のベットの上に居るから見て見る?

 銀髪の凄く可愛い子なんだ、着いてきなよ」



 そう言うと、シェスは診察室の扉を開けて中に入って行った。

 後に続くシルビア。

 かのん達も 彼女達の後を追って診察室の中に入って行く。



 診察室のベットの上にはローブを纏った銀髪の美少女が静かに寝息を立てていた。

 その姿は艶やかな長い銀髪と整った顔立ちからは可憐な天使を連想させる。

 彼女の姿を見た シルビアとかのん達は思わず息を飲んだ。



 「どうだ、凄く可愛い娘だろ~ 顔だけじゃなく胸も大きいんだぜ?

 サービスでこの娘のローブを捲っても良いんだぜ?」


 そう言うとシェスはローブの裾をまくり上げ始めた。

 その中を覗いたシルビアは俯いた、

 

 「ごめん、お邪魔したね……。

 あたしの勘違いだったみたいだよ、かのん、セージこの店を出るよ」


 「じゃ 今度は別の良い子入れて置くので、また来いよ~」


 

 診療所を後にするかのん達。

 宿屋に戻る途中にシルビアは呟いた。


 「一体バジルは何処に……」

 

 冷たい月明かりがかのん達を照らしている。


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