激闘そして・・・
城から走り続けたかのんは、ササビさんの店の前にたどり着いた。
処には意識を取り戻した ゆうじを介抱するリーザが居る。
しかし、まだ立つ事は出来ないようだ。
「ゆうじさん大丈夫ですか?」
「ああ、何とか俺は大丈夫だ」
「大丈夫じゃないでしょ?
心配かけないでよバカゆうじ!」
リーザはゆうじに縋りついて泣いている。
「あいつはヤバいぜ、気を付けろ!」
ゆうじは今までの事を話した。
「待っててローズ、セージ・・・。
仲間は何が有っても、私が護る!!」
かのんは剣を抜くと、ローズの連れて行かれた暗がりの方に走り出した。
「待て、かのん!
シルビアさんとウッドを待たないと無茶だ!!」
ゆうじが大声を上げたが、しかし、かのんの耳には届いてないようだ。
◇◇◇◇◇◇
空には白銀の三日月が照らす村外れの十字路に、二人の男女の姿があった。
一人は、金髪の壮年の男は武骨な漆黒の鎧を纏い、背には巨大な剣を背負っている。
もう一人は、金髪の巨乳の女性で、ロングドレスに不釣り合いな大剣を背負って居り、
彼女は影のように男に付き従っている。
「ルーク様、イザべラ様の身柄を確保しました」
ロイは、ローズの首に付けられている首輪のリードを引きながら二人に近寄った。
「痛い!強く引っ張らないで・・・。
ロイ、仲間の手当位させなさいよ!
あなたには血も涙も無いの?」
痛々しく引き回されるローズは、泣きながら懇願している。
「妨害者を庇う事は、法で禁じられています。
治療は庇う行為と見なされますよ。」
ロイは表情一つ変えず答えた。
ルークはローズを見るなり苦悶の表情を浮かべ、重い口を開いた。
「戻って来たのだな・・・ロイ」
「当り前です、今回の僕の任務はイザベラ様を確保する事ですから」
ロイは眉ひとつ動かさずに答えた。
「うむ・・・そうだ、お前の言う通りだ。」
「あなたはイザべラの事が好きじゃ無かったの?」
シェリルは憂いを帯びた表情を浮かべている。
「姉上、私がイザベラを好きだったのは、私事です。
イザベラ確保は法に乗っ取った公事。
僕でも其処を混同しない分別位はあります。」
「そう・・・きちんと法に乗っ取って縄で縛って首輪まで付けていますね。」
シェリルは悲しい顔を浮かべた。
「法に、その様に拘束しろと書いてありますから。」
「ロイ、あなたは、確かに間違いではありませんよ・・・。
でもね・・・。」
「姉上、今何かおっしゃりましたか?」
「いえ・・・。」
「ローズを返してよ!
ローズが何をしたと言うんだよ~」
バジルの声が遠くから聞こえた。
「バジル逃げなさい!
来ちゃダメ!!」
ローズの叫び声が辺りに響いた。
◇◇◇◇◇◇
静かな月明かりに、道が照らされている。
其処の町はずれにセージが月明かりの元、横たわっていた。
セージの元にたどり着いた かのんは、セージに縋り付いた。
「セージしっかりして!!」
「ローズが連れて行かれた・・・。
其れを追って、バジルまで・・・畜生!! 」
セージは苦しそうに話している。
「何処に向かったの?」
「あそこだ、うっすら人影が見えるだろう?」
セージの指さした方向の暗がりには、幾人かの人影が見える。
「あそこね、待っててローズ今助けるから!」
そう言うと、かのんは人影まで走り出した。
其処には、ルークとシェリルとロイが居り、傍ではバジルが気絶している。
そして、ローズが縛られ、犬の様に首輪を付けられて居た。
「あなた達何をやってるの!」
かのんは犬の様に扱われるローズを見て叫んだ。
「かのんさん、来ちゃダメ!
私の事は気にしなくても良いから早く逃げて、殺される!!」
ローズはかのんを見ながら叫んでいる。
「罪人イザベラの連行ですが、何か?」
振り返り かのんを見ると、ロイは眉ひとつ動かさずに答えた。
「何馬鹿な事を!
今直ぐにローズを解放しなさい!!」
「出来ない相談です、エリクシール使用は重罪ですから。」
「やりたくは無いけど、力ずくになっても取り戻すわ。」
かのんも剣を無形の位に構えた。
「可愛い顔なのに、君もあの馬鹿男達と同類ですか?
仕方が有りません、振りかかる火の粉は払わなければなりませんね」
ロイの表情が変わり、小ぶりな剣の柄に手を掛けた。
しかし、ルークとシェリルは動く気は無さそうだ。
「ロイ止めて!
かのんさんを殺さないで!!!」
一瞬ロイの姿が消えた。
次の瞬間 かのんの背後に彼の姿が現れると、かのんを斬りつけようとした。
しかし、かのんはロイの剣を皮一枚でさらり躱した。
「さっきの技、 シルビアさんの 水月よね?
見えてたわよ。」
「先ほどの雑魚たちは違いますね。」
ロイは冷たい笑みを浮かべている。
「安心して、殺しはしないから。」
そう言うと、かのんはロイの方に剣を突きつけた。
「散桜の動きを身に着けた貴方には、手加減は無用ですね」
「散桜?」
「そうです散桜、何も知らずに使っていたのですね。
舞い散る桜の花びらのごとく、攻撃を皮一枚で躱す極意です。」
「この動き方に名前が有ったなんて、知らなかった・・・」
「誰にも教わらず天然で身に着けていたのですね、恐ろしい才能だ。
先を考えると、ここで始末して置いた方が良さそうです。」
そう言うとロイは剣に魔力を込め、剣が淡く光りだした。
「ロイ、もう止めて!」
ローズは叫んだ。
「何よ?その剣?」
「魔剣と言う物ですが見るは初めてです?効果は時期に判ります。」
そう言うと、ロイはかのんに斬りかかり、かのんは自分の剣でその剣をうけとめた。
しかし、ロイの剣によって かのんの剣がだんだん切り裂かれている。
「え?? そんな嘘でしょ?」
「ロイ、お願いだからもう止めて!
私があなたのお嫁さんでも、奴隷でも何でもなってあげるから。」
「イザべラ様 申し訳ありませんがそれは聞けません。
これは私怨でも何でも無い、法に乗っ取った行為ですので。」
かのんの剣がロイの剣によって徐々に切り裂かれ、剣の幅が狭くなってきている。
「これが魔剣の切れ味ですよ、そこらのナマクラの剣程度は楽に切り裂けるんです」
そう言うと、ロイは かのんの剣を真っ二つに切り裂いて、かのんを切りつけた。
「くっ・・・」かのんは小さく悲鳴を上げた。
「いやぁあぁ~~ かのんさん!!!」
ローズの声が辺りに響いた。
かのんの胸の辺りの服が裂けている。
「だ、大丈夫よローズ、この程度かすり傷よ」
かのんは苦しそうに息をしている。
「かのん ブルーを呼べ!!」
遠くでセージの声が聞こえた。
「判ったわ!」
ロイとの間合いを放し、かのんは静かに集中しはじめた。
「今度は何をやるつもりです?」
ロイはかのんとの間合いを無防備に詰めた。
「あの・・・ 」
シェリルは何かに気が付いたようで、剣に手を伸ばしている。
かのんが戦女神 の鋼殻 のペンダントに魔力を込めると
近くに虚空に怪しい魔方陣が描かれようとしている。
シェリルが大ぶりな剣を振りかざし、その魔方陣を切り裂いた。
「え?何が起こったの?ブルーは?」
あっけにとられる かのん。
「私の斬魔剣で、召喚をお止めになって頂きました」
「嘘でしょ?」
「それが私の斬魔剣の特性、魔方陣などを破壊して無効にできるんです」
「さすが、姉上です。」
「ロイ、貴方は油断が過ぎますよ。
あのクラスが召喚されたら、大変な事になって居ましたよ。
しかし、恐ろしい娘ね、あれだけの大質量を召喚できるのだから。」
次の瞬間、かのんを魔方陣を破られた強烈な 反作用が襲った。
「そ・・・そんな・・・」
かのんは崩れ落ちた。
「勝負ありですね。」
ロイはかのんを見つめている。
「まだまだよ・・・。仲間は私が護って見せる!!」
そう言うとかのんは立ち上がり、静かに集中し始めた。
「お願い風の精霊さん 力を貸して・・・」
「トルネード!」
かのんの手からつむじ風が放れると、小さな竜巻となってロイに襲い掛かった。
「何処までも、あがくんですね。
この魔法を弾く剣の前には、魔法は逆効果なのですよ。
こんな感じでね。」
ロイは剣を大ぶりに振りぬくと、竜巻を弾き返した。
弾かれた竜巻は、かのん達に襲い掛かった。
「きゃ~~~~ 」
「うわぁ~~~」
かのんは悲鳴を上げ竜巻に巻き込まれた、セージも巻き込まれてダメージを負ったようだ。
「言ったでしょう? 逆効果だって・・・。」
「ま・・・ まだまだよ・・・。」
ボロボロの かのんはまだ戦おうとしている。
「もう止めてかのんさん。
ロイ、私はもう静かに連行されるから、その人に酷い事をしないで・・・」
ローズは涙を浮かべている。
「心配しないで・・・。 私は・・・負けないから・・・」
「娘,お前はもう休むが良い、お前はもう十分に戦った。」
ルークが巨椀を振り上げ、虚空を薙ぎ払うと衝撃波が現れ辺りを薙ぎ払った。
「きゃぁぁぁぁぁ~~~~。」
衝撃波に成す術も無く かのんは吹き飛ばされて意識を失った。
ロイは、気絶した かのんの胸の傷をしげしげと見ている。
「まさか、この女がエリクシール使用者ですか?」
「ええ・・・ その様ですね。」
ロイはかのんの腕を掴み、かのんの顔を見始めた。
「この顔なら、エアフォルク様も満足されるのでは無いでしょうか?
胸は小さいですが、パットで胸は誤魔化せますから連れて行きませんか?」
そう言うと、かのんの首に首輪を付けようとした。
「どう言う意味だ?
イザべラの助命嘆願を、この娘をエアフォルクへの生贄として頼むと言うのか?」
ルークはロイを睨みつけた。
「そうです、ここまで連行の妨害をした時点でこの娘は罪人、この場で処刑も止む無しです。」
「確かにそうだ」
「この娘を連行して着飾らせ、縄で縛った上で献上すれば、エアフォルク様のご機嫌も変わる筈です。」
「あの王への慰み者として、この娘を使うと言うのか?」
「ロイ、其れだけは止めて、かのんさんを巻き込まないで・・・」
「イザべラ様、あなたは本当に判って居るんですか?
このまま戻れば、この娘に薬を使った罪で確実に処刑されるんですよ!!」
「判って居るわよ・・・、かのんさんに薬を使った時点で覚悟してたから・・・。」
「だったら、この かのんと言う娘を生贄にして・・・」
「私は其処までして、生き延びたくない・・・、そうなるなら処刑台を私は選ばせて頂くわ」
ローズは冷めた目でロイを見ている。
「イザべラ様、何て事を言うんですか!」
「ロイ、娘を放して此方に来い・・・」
「はい、ルーク様」
ルークの剛腕がロイを襲い、近寄ったロイをルークは殴り倒した。
「ルーク様、何をなさるのですか?」
「我々は誇り高き守護騎士、人さらいの様な真似は儂が許さん!」
「ルーク様、一瞬私事と公事を混同してしまい申し訳ありませんでした。」
ロイは土下座をしてルークに謝っている。
「そろそろ引き上げませんか?
これ以上長居すると、更なる犠牲者が増えそうですから」
シェリルが暗がりを指さしている方向には、尻尾を振りながら此方に走る人影がある。
「シルビアさん?」
「ローズ、その姿どうしたの?
それに かのんやセージは?」
「来ちゃダメ!
私が連れて行かれても決して助けに来ないで!!
そうして私の事は忘れて、此処で静かに皆と暮らし続けて!!」
剣を構えたシルビアの目には殺意がみなぎり、どす黒いオーラを纏っている。
「あんた達、よくもあたしの可愛い子供たちを!!
ローズ待って、スグにこいつ等皆殺しにして自由にしてあげるから!」
「地獄のホルスタイン、こんな所に居たんですね。
アンヌが居たら、さぞ喜んだでしょうに・・・。
そろそろ、転移陣を発動させますよ」
「うむ・・・、シェリル頼む」
「かしこまりました、ルーク様」
彼女は虚空にルーン文字を切ると何かを詠唱し、ルークたちはふっとの体が空に消えた。
「待ちなさい!」
シルビアの十字の斬撃が虚空を斬りつけた。
戦いが終わった村はずれには、ボロボロになった、かのんとセージとバジルが倒れ込みシルビアの泣き声だけが辺りに響き渡っている。
海風が吹き抜け、白銀の三日月が四人を静かに照らし続けている。