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彼は傲慢に、そして当たり前のように、人間を語る

戦闘シーンがまたもや微妙な第六章。

で、最後はクサイ台詞。

我慢して読んでください。

異物が身体の中に押し込まれる感触。やはりこんな身体でも感じる、身体の痛み。こんな身体でも流れる赤い液体。

分かる。今俺は、腹に槍を刺されている。しかし、刺さっているだけだ、貫通はしていない。

何故なら俺は別に槍に刺された訳ではない、『刺ささりにいった』のだ。別に運良く貫通しなかったのではない。『貫通させなかった』のだ。

有馬の持つ悪趣味な槍は槍自体が細かく震えている。その槍と、有馬の人外の速度で、かなりの速さと貫通力を持つことは見ていて分かった。

だがらこそ、槍と有馬の本体を捉える必要があった。そうしなければあの速度で俺の攻撃は当たらない。

相手の攻撃を敢えて受け、筋肉を硬質化させて槍を捕らえる。予想外に槍が引き抜けなかった有馬は一瞬の逡巡。そして、さっ、と瞳に理解と怯えの色が浮かび、揺れる。だが、もう遅い。既にその一瞬の逡巡の内に宏助は拳を繰り出す。

「オラァ!」

短い気合と共に繰り出す、単純な右の拳。真っ直ぐで何のフェイントも無い、素直で、しかしだからこそ大きな破壊力を生む貪欲な拳。

それが、人外の力と共に音を立てて有馬の身体に走る。

「・・・・・・・・!!!」

有馬は大きく身体を仰け反らせその衝撃を後ろに受け流す。しかし、そのまま吹き飛んで後ろへ飛んでいく。

ここだ。

宏助はそう思った。あの厄介な速度をまた出されれば自分の攻撃は当たらなくなる。

だから宏助は走る。一直線に、有馬を追いかけて。

その際に自分の腹に刺さった槍を抜くのを忘れない。そして、

衝撃を後ろへ流したことであまりダメージを受けていない有馬の身体に向かって投擲した。

空気がビュン!となる音。有馬は既に体制を取り戻そうとしていた。しかし、無駄だ。

「グ・・・・グワァぁァァァ!」

有馬自慢の悪趣味な槍によって貫通力と速度を高めた槍が、人外の投擲によってその持ち主の肩に刺さる。

しかし、宏助は追うのをやめない。更なる疾走を自分の脚に命じる。

槍を肩に刺したのは死なないようにするためだ。死神・・・・とやらでも殺したくはない。

だがら行動不能にしなければならない。

ちらりと有馬がこのままいったらぶつかるであろう後ろの壁を見やる。アレなら、大丈夫だ。コンクリートだ。

そう自分に言い聞かせ宏助は腕に、拳に、肩に、肘に、力を込める。

そして、

「オラァァァァァァァァァァァァァァ!」

その全てを有馬に刺さっている槍の柄にぶつける。

柄は新たな勢いを得、そのまま槍が刺さるものに更に刺さる。そして、宏助はその拳をそのまま伸ばして。

その勢いで槍を後ろの鉄筋コンクリートの壁に刺す。

有馬の身体も当然のように追随し、有馬は壁に縫い付けられる形になる。

「ゴホッ・・・・・・・・。」

有馬は血を吐き出し、そのままうな垂れる。意識は有るだろうが深手だろう。少なくとも槍の刺さった右肩の方は使い物になるまい。

明を無言で見、視線で坂口と共に来るように伝える。

明は小さく頷いてこちらにやってきた。

「こ、宏助さんは大丈夫なんですか?」

「ま、俺の方は特に大事ないです。槍に刺された腹もそれほど深手では。」

腹は既に人外の自然治癒で傷が塞がりかけてる。

それを聞くと安堵の息を漏らす明を見て顔を緩めるが、しかし坂口を見るとその表情はまた元に戻る。

「おまえは何故そこまでして俺をかばってくれた?」

坂口が俺が見たことに気づいて質問。何故か少し明るい気がしなくもない。

「別にアンタを庇ったわけじゃない。お嬢様がお前を護ろうとしたからだ。あとは個人的な理由。アイツが・・・・・」

そこで宏助は一度言葉を切る。そして、

「アイツが個人的にムカつくからだ。幽霊だってそれぞれの思いがあんのにそれを無下にして、勝手に排除なんて身勝手にも程がある。だからだ。」

それを聞いた坂口と明は何故か微笑む。なんだろう。多少むず痒い。

しかし明はその微笑を一瞬で消し、壁に刺さる有馬に向かい直る。

「貴方は、この坂口という幽霊の居場所を突き止めた。それは決してたまたま見つけたわけではなく、意図的にここにきたのでしょう。あなたは・・・・、いやおそらく貴方たち死神は、幽霊の居場所が分かる何かを持っていますね。それで、この人の妻の幽霊を探しなさい。」

明の有無を言わせぬ強い口調。しかし、倒れている有馬は平然と、

「・・・・ゴホッ・・・さあな。そんなの知るか。」

と余裕だ。明が少し困った表情をする。やれやれだ。自分の出番か。

脅しとかやったことねぇ・・・・・とかブツブツ言いながら有馬に近寄る。顔を近づけ、目を合わせ、息を吹きかけたら届く距離まで顔に接近。そして、

「と、いうことは俺にも逆らうことということだよな?じゃあ・・・・・消えるか?」

「・・・・・・・・・!」

有馬が自分の目も見、声を聞き、あきらかにビビッた反応。今自分はどんな声を出したのだろう。知りたくないと思うが、今のは少しビビり過ぎではないだろうか。人外の存在である死神がなんでまたこんな・・・・、とか思いつつ、また顔を近づけて睨むと・・・・、

「わ、分かった教える。教えるよ!」

やはり、さっきとは打って変わった調子の怯え死神の声。なにをしたんだ・・・自分。

そして有馬がしばらく瞑想のような姿勢をとること数分、こう告げる。

先程宏助と明が歩いていた川原・・・・・そこに妻はいる、と。

なんの偶然か知らないが、近くにいることは好都合。とにかく三人(?)でそこに向かう。

とりあえず有馬はほおって置いた。後で戻ってくればいい。死神なので人に見られる心配はない。見たとしても割れたコンクリートと・・・最悪槍が見えるだけだろう。

有馬の槍の柄を一層深く刺し込んでその場を離れる。

坂口をふと見やると、さっきの行動からは考えられないこれ以上に無い真剣な瞳をしていて、それを明が心配そうに見つめていた。


 目的地に辿りつくとあっけないほど簡単に川を眺めている女性の幽霊を見つける。年は坂口と同じくらいで、肩まであるほどの髪を後ろで結んでいる。ふっくらとした体つきで見た目は人の良さそうな優しい奥さん。しかし、坂口の登場であの優しそうな雰囲気はどうなるのだろう。

宏助達は少し離れた土手でとまり、そのまま緊張した面持ちの坂口だけがその女性のもとに向かっていく。

そして、接触。

「・・・・・秀美・・・・。」

その声に女性の幽霊がばっ、と振り返り驚きの表情。何故だか明がいるおかげでその全てが鮮明に見える。聞こえる。

「秀美・・・・・。やっと会えた・・・・。」

坂口は妻の顔を見て恍惚の表情を浮かべるが妻の方は顔を歪めて叫んだ。

「なんでアンタがここにいるの!私を捨てて出て行ったくせに!」

数十年の妻の、自分を捨てて出て行った夫に対する憎しみ。それが今、ぶつけられている。

「それは・・・・悪かったと思って・・・・」

「悪かった・・・?悪かったですって!貴方には分かる?貴方の浮気を確信してしまった私の気持ちが!貴方には分かる?自分の部屋の中に死ぬために紐を吊るす場所を決めるために泣きながら部屋を歩きまわった私の気持ちが!?」

妻は吐く。全てを。そのとき言えなかった自分の気持ちを。それを聞いていた宏助は耐えられなくなってくる。

「明さん・・・・・これって・・・?」

宏助は不安になって明に聞く。しかし明はさっぱりとした表情だ。

「ねえ、宏助さん。あの人・・・・秀美さんの未練はなんだったと思います・・・?」

え、と言いかける宏助の耳にまた妻の苦悩が届いてくる。

「私の気持ちは・・・・私の気持ちは貴方に踏みにじられたのよ!あんなにあんなに慕ってたのに。たかが貴方の気持ちで!私の人生は・・・!」

「秀美!」

初めて坂口が声を荒げる。秀美・・・と呼ばれる女性は言葉を止める。

「・・・・すまなかった。私が身勝手だった。私は最低最悪の糞野郎で、妻を身勝手に裏切って、自分も身勝手に死んだ。そして今、身勝手に消えようとしている。分かるんだ。おまえに会ったことで私は今成仏しそうだ。もう、お前と一緒にいることもできない。だから・・・・・許さないでくれ・・・こんな私を。憎んでくれ。こんな私を・・・・でもね。私は・・・・・・・」

そこまで坂口が続けたところで秀美がまた叫ぶ。

「なに?これから成仏ですって?ふさけんじゃないわよ!私が・・・・・私の気持ちはどうなるの!私の思いは!」

「・・・私はお前と会えて良かった。嬉しかった。」

「・・・・・!!違う・・・・違うの。私があなたに言いたかったのはそんなことじゃなくて・・・・。私はね、私も待ってた。今も貴方のことを憎んでいるのは変わらないけど、でも・・・・・!」

そんな急に弱くなってきた妻の口を坂口の手が抑える。

「それ以上言ってはいけない。私は許されてはいけない。だから・・・・、いこう。いっしょに。」

「ええ、そうね。貴方は最低ですもの。許すわけない。でも・・・・・。」

そういって妻は坂口に顔を近づける、そして・・・・・・夫と妻の愛の証拠。いつのまにか彼らからは田中のときにも見た白い靄が発されている。

一度だけ坂口がこちらに向かって頭を下げた気がして・・・・そして、二人は消えた。ふっ、と。唐突に。

それを眺めていた二人の男女は呟きあう。

「彼女の未練はおそらく・・・・・彼だったのでしょう。彼に自分の思いを伝えること。憎んでいてもやっぱり好きだったことを。」

「おれ・・・・ひとつだけわかりました。坂口が銭湯覗いていた理由・・・・。」

「・・・・え?」

「妻が風呂好きだって・・・・言ってたじゃないですか・・・・。」

明が少しこちらを見て驚いた表情をして・・・・、そして微笑む。

夕暮れ・・・・オレンジ色の日に照らされた明の表情がそれらに暖かく包まれる。

宏助は思う。人間とは身勝手で、最低で、最悪で、糞野郎で・・・それでも・・・・・・・

「そろそろ帰りましょう。」

明がそう宏助に呟き、宏助もそれに同意。ゆっくり歩を、閉ざされた住宅の壁に進める。

そんな中、明の方を見て、宏助は思う。彼女の微笑を見て・・・・・・思う。

それでも・・・・・『俺たち』人間は・・・・愚かで・・・・美しい。

どうでしょうか。ひとまずここで少し区切りをつけたいと思います。

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