俺がお前を叩き潰す
(何だアレは !?あんなに強かったか !?伊島宏助は・・・ ・・・)
清明は戦慄しながら立ち上がった宏助を見つめる。
宏助と言えば自身のパワーアップに驚いている様子もあるが、それよりも清明へのはっきりとした敵意が感じられる。
距離にしておよそ十メートル。
あの異常なパワーアップの理由は分かっている。
魂はエネルギーの塊だ。つまり、燃焼すれば、多大なエネルギーが生まれる。
それは自分の命を削る、ということを代償に、清明を何度も追い詰めた程の脅威でもある。
だが、神条家の直系でない宏助にそんな芸当は出来ない。
つまり、神条家の直系である明が宏助の魂を肉体へ誘導した上に燃焼までしたのだ。
自分以外の魂を遠隔操作し、燃焼するという離れ業に清明は内心舌を巻く。
だが明もおそらく賭けだろう。
もし、宏助が清明を倒せなければ直宏助の魂は燃え尽きてしまう。
(どいつもこいつも賭け事がお好きだ・・・ ・・・)
舌打ちをしながら、目の前の敵に意識を傾ける。
奴は、清明を睨みつけながらこちらに一歩、また一歩と近寄ってくる。
身体から迸るエネルギー。溢れ、漲る聖気。
だが問題ない。自分は歴代日本でも随一の霊能力者、安部清明だ。
どんなに相手が強くなろうが、清明の敵ではない。
この瞬間、清明は高をくくっていたかもしれない。しかし、油断とは少し違った。
なのに、なのに、だ・・・ ・・・。
清明が己の身体から魂を放ちいざ攻撃しようと考えた瞬間、
「・・・ ・・・ッ !」
既に宏助は清明の懐に潜り込んでいた。
瞬きもしていない。余所見もしていない。清明の目は宏助を捉えていた。
しかし、宏助はまるで瞬間移動したような速度で急接近したのだ。
致命的なまでの速度の違い。呆然、戦慄、恐怖。清明の出来ることはそれだけだった。
宏助の拳が突然光ったかと思うと、
「覇邪拳聖」
「・・・ッぐわあああああああッ !!!」
思い切り上空へと吹き飛ばされた。
正確には、宏助の聖気を纏った強烈なアッパーカットに吹き飛ばされたのだ。
清明の魂は聖気によって抉られ、削られた。
地上からゆうに十数メートルは吹き飛ばされている。
恐るべきパワー・スピード。
これがパワーアップした宏助の姿なのだ。
全力で叩き潰さなければこちらが喰われる。
清明は空中で一旦静止し、清明を地上から睨みつけている宏助を見つめる。
ひとまず、奴を倒す為に魂を補給するとしよう。
圧倒的な数で攻めれば、パワーもスピードも関係ない。
そう思い、清明は神条家本邸に存在する自分の手中に収めた魂を呼び寄せようとする。
しかし、何の反応もない。
仲間を呼んだのに誰も現れない某rpgゲームのような虚しさが漂う。
何故だか分からない突然の事態に、清明の心は荒れるが、平面上はあくまで冷静を保つ。
宏助に気付かれてはならない。
(ならば少し早いが『ALLDY』を使うか・・・)
今ならもう完成しているはずだ。最終的な発動や操作は清明が出来る。
予定より少々早めだが、別に何ら問題はない。
大量の聖気で奴の残り少ない魂を喰い尽せばいいのだ。
そう思い、清明は『ALLDY』を遠隔操作で発動させる。
清明自体は、宏助のおかげで上空に漂っているので影響を受けずに済む。
馬鹿な奴よ、と内心で二マリと清明が微笑み、次の瞬間あたりをまばゆいほどの光と轟音が包む・・・はずだった。
しかし、何も起きない。何も起こらない。
否、変化はあった。
突然、神条家本邸の一角が凍りつき、屋上からは膨大な量の聖気が上空へと放たれる。
どちらも清明が行おうとしたことに関連がないようには思えない。
「あいつらやったみたいなだな・・・」
宏助の呟きが下から聞こえる。
今度こそ、清明は平静を保てなかった。
もう、麗には鎌を振る力も残っていなかった。
だから、麗は鎌を振らない。走らない。
「さぁ、止めを刺そうぜ」
「ああ」
残り敵の数は二十人。麗は完全包囲され、警戒しながらもジリジリと寄ってくる敵に成す術は、
「ない、なんて言い切れないじゃない・・・」
「・・・ ?」
「明様だって、宏助君だって、・・・真だって。
きっと諦めずにがんばっている。なのに、私だけが、ここを諦める訳にはいかない !」
そう言って麗は鎌を前に突き出す。包囲されているので意味のない行為だ。
それを小ばかにしたように鼻で笑い、あるいは首を傾げ、敵は一歩、また一歩と近づいてくる。
(ごめんない、真。私・・・ ・・・)
「おらぁッ !止めだあああああッ !」
(私、死ぬかも・・・)
『うおおおおおおおッ!』
敵の一斉攻撃。麗は死ぬかもしれないと思った。
敵の攻撃によって、ではない。闘って力尽きてに決まっている。
「広域氷結『絶対零度』!!!」
『・・・・ !? ウワアアアアアアアアアアッ !!』
麗にまさに今攻撃を繰り出そうとした彼らは、鎌から出てきた大量の吹雪に、冷気に飲み込まれていく。
その冷気は貪欲に次々とこの空間を氷漬けにしていく。
全てが終わったとき。麗達のいる空間全てが凍り漬けになっていた。
ただ一点。冷気の発生源、麗の元を除いて。
周りに今まさに攻撃しようとしていた敵が氷漬けになっているのを眺めながら、
(真、私・・・幸せだったわ)
最後に、最愛の恋人にメッセージを送りながら麗は氷の上に身を倒した。
来た
そう思えたのはほぼ一瞬だった。
次の瞬間、先ほどまで渦を巻いていただけの聖気たちがあちこちの方向に分散を始めようとする。
「う、オオオオオオオオッ・・・ ・・・」
聖気を上へ、上へとやろうと操るが、これが想像以上に難しい。
幾ら自分の聖気と言えどもこれだけの量を同時に操るのだ。かなり無理がある。
(それでも・・・やるんだよ・・・ ・・・)
何とか爆発の方向を上へと調整し聖気を上昇させる。
しかし、このまましばらくこれを維持しなければならない。
一瞬でも崩壊すれば、それは皆の死(alldy)を意味する。
ただ耐える、耐える。
身体中に電撃が迸るような衝撃。強烈な眩暈、頭痛、吐き気。耐える。
操れないかも、崩壊するかも、という消極的な声。耐える。
今にも倒れそうな程に上も下も前も後ろも分からなくなるほどの疲労。耐える。
どれくらい経っただろうか。何時間も経ったような気がしたし、数分しか経たなかった気もした。
ともかく、自分の目の前から聖気の渦も、上へと上がっていく柱も消えていることに気付いたのは、しばらくしてからだった。
呆然とし、全身から力が抜け、眩暈がし、何が起こったのかも分からない。
ようやく、やがて終わりが来たと知る。
(終わった)
その安心感で身体がぐらつき、そのまま地面に倒れこむ。
目がチカチカし、頭がガンガンし、地面が揺れているような感覚。
それでも、不思議と真は何か暖かいものに包まれているような気がした。
(麗・・・ ・・・)
最後に、最愛の恋人を思い浮かべながら真は長い眠りについた。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおお」
キレていた。
清明は完全に、キレていた。
叫び、己の身体を掻き毟り、空中でのたうちまわるほどに、キレていた。
宏助はそれを何の感情もなしに見つめている。
否、敵意しかない瞳で、それを見つめている。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
一通り暴れまわるのをやめ、落ち着いた清明は、再び宏助を見据える。
「貴様だ・・・」
「・・・あん !?」
「全て貴様のせいだアアアアアアアッ !!!」
清明が叫んだ瞬間、清明の全身から多量の魂が流れ始める。
宏助の先ほどの攻撃でやられたのか ?
いや、清明はそんなに簡単に終わる奴ではない。
だとすれば、あれは死の瞬間ではない。
その証拠に、流れ出した多量の魂は、空中で何やらひとつになっていく。
魂が一箇所に集まり、それから蠢き、何かを形作っていく。
手前と奥に伸びて長細くなり、更に魂を供給され動きながら形を造る。
手足のようなもの、口のようなもの、歯のようなもの、目のようなもの、角のようなもの。
数十秒で、その大量の魂は、ひとつの龍の形へと変貌していた。
黒く、動く、本物の龍。
流石の宏助も驚きに目を見開く。
そして、その龍の上には、清明が乗っていた。
「見たか貴様。これが私の力だ !
空想上の動物すらも造り上げる、日本国の歴史上、最も優れた霊能力者。
貴様などが一生かかっても太刀打ちできる相手じゃ」
「黙れ」
「・・・・ !!?」
清明の長ったらしい自慢と癇に障る台詞。
そんなものを宏助が聞いている暇はない。
「グダグダうるせぇんだよ。
最も優れた霊能力者なら、他人の魂どうにかしていいのかよ ?
つけあがんなよ、お前は神じゃねぇ。
霊能力を精一杯使ってそれでも出来ない事にぶち当たって泣いている彼女がいるんだ。
お前なんぞが一番優れている霊能力者なんて言うならよぉ・・・俺がお前を叩き潰すッ !!」
そう、宏助が告げた瞬間が、
「うおおおおおおおおッ !!!」
「うらあああああああああッ !!!」
開戦の合図。最後の戦いの火蓋が切って落とされた瞬間だった。
清明は龍に乗ったまま、宏助に向かって急速に下降する。
対して宏助は、地面を思い切り蹴って、跳躍する。
宏助の魂は、パワーアップの代償に燃焼されてゆく。
時間はない。早期決着が望ましかった。
宏助は、両拳に聖気を纏わせ、跳躍の勢いで上昇。
清明も、龍に口を開かせ、宏助を飲み込まんと下降。
5メートル、4メートル、3メートルと両者の距離があっと言う間に短くなり、
「邪龍。呑み込めぇえええええええッ !!!」
宏助の拳が届かない、間合いで、清明が先を制し、龍の速度を上げて、宏助を呑み込もうとする。
しかし、宏助は、龍が宏助を呑み込もうとする一瞬。宏助の間合いに入り、接近中の一瞬を見逃さなかった。
「覇邪拳聖・乱舞」
その一瞬で、宏助は聖気を纏う拳を高速で龍に繰り出した。
削られ、磨り減り、龍は聖気にどんどん溶かされてゆく。
まるで、灼熱の太陽を前にした氷のように。
まるで、砂漠を前にした一滴の水のように。
圧倒的な力の前に、成す術もなくただ崩壊してゆく。
それほどまでに圧倒的な宏助の力は清明の内面すらも破壊してゆく。
清明の今まで築き上げてきた力が、自信が、ガラガラと音をたてて崩壊してゆく。
(馬鹿な・・・。私は、生も死も皆操る霊能力者、安部清明だぞ・・・)
-最も優れた霊能力者なら、他人の魂をどうにかしていいのかよ ?
(私は全知全能の・・・)
ーつけあがんなよ、お前は神じゃねえ
(こんな若造に・・・)
ー ・・・俺がお前を叩き潰すッッ !!
「うわあああああああああッ !!!」
清明は最早、狂っていた。
自信もプライドも全てを粉々にされ、様々な感情が入り乱れる。
清明の内側も滅茶苦茶に掻き回し、暴れまわる。
憤怒嫉妬憎悪絶望憤怒嫉妬憎悪絶望憤怒嫉妬憎悪絶望憤怒嫉妬憎悪絶望ッ--- !!!
宏助は思う。清明は醜い。
人間を捨て、ただ醜く生きさらばえる化け物。
宏助も、望んだわけではなくとも、同じかもしれない。
「化け物の相手は・・・化け物で充分だろ・・・」
だから宏助はコイツをこのままにしてはいけないと思う。
コイツを人間に戻すために、宏助はただ拳を繰り出す。
龍は最早、清明の内心を表すかのように、ただ空中でのたうち回るだけ。
その龍を聖気で、完全に消滅させる。
そして露となった清明の本体に肉薄。
「あはははっははははははっははははっは」
清明は、笑っていた。
狂った顔で、声で、笑っていた。
清明の目は焦点がずれ、宏助すら見ていない。
ただ笑いながら空中でのたうち回る清明を見て、
「・・・」
宏助は無言で拳を振り上げた。
このとき、宏助の魂は最早、燃焼され限界寸前だった。
今ここで燃焼を解除しなければ魂は燃え尽きてしまう。
それでも、宏助は闘うのを止めない。
宏助の闘う理由は、生きるため、ではない。
生かすため、に闘うのだ。
(約束はしたけど、ごめんなさい。
やっぱり、俺は明さんを護りたいから。
だから・・・)
「うおおおおおおおおおおッ !!!」
宏助は拳を一切の躊躇いもなく、清明に向かって振り出した。




