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賭けに勝った


「ごめんなさいね」


それが、親子での抱擁を終えた後の母の第一声だった。


「お前には親として何もしてやることが出来なかった」


謝罪、確かにその行為は正しいのかもしれない。


母親は明に何も告げずに、清明と戦い、死んだ。


父親だって操られて明に厳格になった。


それでも。やはり何もしてやれなかった、のとは少し違う気がする。


「ううん。いいの、もう。


たくさんとは言いがたいけど、生きていくために必要なものを、二人からもらったから。


それに、私には、二人からもらったものを私にまた注いでくれる人がもういるから」


明には、もう支えてくれる人がいる。自分を見てくれている人がいる。


『愛』を注いでくれる人がいる。


明は強くなった。それ以上に、明をそんな風にしてくれる人が出来た。


それを確認し、明の力強い言葉を聞いて、両親は顔を見合わせて微笑む。


「最後に、二つ言っておくことがある。


一つ、この私の魂を侵食している清明の魂には核がある。


その核があるのは、この場所のすぐ隣だ。


この核をおまえの霊能力で破壊すれば私は止まる」


そこで父親が一旦言葉を切り、母親にバトンタッチする。


「二つ目は、アナタの大切な人が、助けを求めている。


魂はバラバラになってこの神条家本邸に散らばっている。


自我もなく消えかけているけれど、確かにアナタの大切な人よ」


「・・・・宏助君が・・!?」


散らばっている、ということは自分の魂をバラバラにして散らしたのだろうか。


ならばすぐに元に戻さないと取り返しのつかないことになる。


でも、今はそのことよりも大切なことがある。


「それより、最後、ってどういうこと?」


明が慌てた様子で聞くと、両親は表情を和らげた。


「もう、私達はここにはいられないの」


「お前と会話する為だけに、この魂の欠片を何年間も取っておいたからな。


もう、成仏してしまいそうなんだ」


父と母のそんな一方的な言葉に、明は耐え切れなかった。


「何でよ!?


何で会った瞬間にもうお別れなの!?


私、二人に言いたいことたくさんあるのに!


たくさん色んなことがあったのに!


私は、私はッ・・・・・・・」


そこで言葉が続かなくなり、嗚咽が漏れる。


口を、目を抑えても、目からは静かに涙が頬を伝う。


そんな明を両親は静かに抱きとめた。


「アナタは、強くなった。


だからもう私達がいなくても大丈夫でしょ」


「お前は、私達の自慢の娘だ」


二人の存在が段々薄れてゆく。白い光が零れてゆく。


「「愛してる」」


そこが、臨界点だった。


明の傍にいた二人の存在が感じられなくなり、やがて、フッと、消えた。


二人は最後まで、ずっと笑顔だった。


だから、明もいつまでも二人との別れを惜しみ、茫然自失になっている場合ではない。


「がんばるのよ。二人が見ているんだから」


明は自分を奮い立たせ、この空間から飛び出る。


光の膜から思い切り飛び出ると、そこはまた清明の魂が支配する空間だった。


「うっ・・・・・・」


清明の魂に呑まれそうになるのを必死に堪え、その魂を掻き分けて、奥へ奥へと進んで行く。


たとえ、呑まれそうになっても魂を自分自身に供給し続ければ耐えられる。


明に魂を供給し続けている『核』の魂そのものが喰われてしまえば終わりだ。


やがて明は、清明の魂の源、発生源ともいえる場所に辿りついた。


一際大きく黒々しい清明の魂が、心臓の形を造り、脈打っている部分がある。


そこから血管のように幾本もの魂が出ていた。


心臓のような見た目と鼓動音が一際不気味だったが、明はその魂のすぐ傍まで寄る。


「お父様、お母様、見てて。


私は、強くなったわ」


明は魂で一本の鋭い槍を形成する。


「だから、安心して、私を見守っていて」


その槍が清明の魂に喰われる前に、心臓のような魂に思い切り突き刺した。










今から数時間前。明がまだ、父と戦わず、宏助に話しかけていたとき。


「宏助君」


「うん?」


「少し、話があります。話せる機会はこれが最後かも知れませんから」


「最後って・・・・。縁起悪いですよ」


「いいえ。これは、いずれ話しておかなければならないことでした」


「・・・?」


「ええと、ですね」


「はい」


「結局の所、好きなんです」


「はい!?」


「許婚がいることもバレて。それでも諦められないんです。


例え、許されないことでも、諦められないんです。


宏助君が、好きなんですよ。


いいえ、好きでした。


ずっと、前から。言いたかったけど、なかなか言い出せなかったけど」


「・・・・・・」


「タイミングがわるいかもしれない。


それでも、言わなければ気が済まない。


だって、宏助君は、これか」


「分かりました」


「へ?」


「明さんの言いたいことは分かりました。


だから、これが最後かもしれないなんて、言わないで下さい。


また、もう1回再開して、その空気で、


「自分も好きでした」


って絶対言いますから。


だから、また会いましょう?」


「・・・・・はい」


「約束ですよ」


「約束です」










そのとき、神条家本邸の、各所に散らばっていた宏助の魂が突如として動き始めた。


霊能力のない者には見えない。そして、聖気によって今にも消えそうな宏助の魂。


それでも確かにそこに存在する宏助の魂は、明の遠隔操作によってある一点に集まり始める。


光る魂が空を流れていくそのさまはまさに・・・










(流星群・・・・!?)


佐多兄弟は、壁に空いた大穴(作・伊島宏助)から、多くの魂が流れていくのを呆然として見つめていた。


だから、突然肉体に戻った明の魂に、すぐには気付かなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


「明さん!?」


「戻ってきたんですか!?」


驚いた佐多兄弟の声が明の鼓膜を震わす。


正直、肉体の疲労が半端ではない。魂での消費は、直接身体に響く。


それでも、もう明の仕事は終わった。


だから、


(次は、宏助君の番ですよ。約束を果たすの)


明は心の中でそう呟いて、そのまま床にドサリと倒れこむ。


全身筋肉痛のような疲労感と、両親に抱かれたときのような安心感に包まれながら、明は意識が薄れていくのを感じていた。


そのとき、ふと、流星群のうちのひとつが、明の方へとやってきた。


佐多兄弟は警戒するが、明はむしろ疑問に思う。


(なぜ・・・?これは私の意志で操作しているものなのに?)


無意識で呼び寄せたのだろうか。それも有り得なくはないな、と苦笑しながら、宏助の魂の一片を手に取る。


今にも消えそうな淡い光を放つこの魂は、しかし何故だかひどく安心感も与えた。


(これ位は・・・私が・・・・)


明はその魂を胸に抱くと、今度こそ深い疲労感に身を任せた。


しばらくすると、その魂は、スぅーと明の胸の中に消えていったが。










(流星群・・・・!?)


麗は、今にも攻撃を開始しようと麗を取り囲んでいた敵たちが、急に壁に空いた大穴(作・若菜真)を指差して何やら言っているのでそちらを見てみると、光を放つ魂が流れていくのが見えた。


だが、今はそんな美しい風景に目を傾けている暇はない。


麗以外の仲間は皆、この死神の武器を使ったことによる疲労を突かれて、敵にやられてしまった。


麗も、この武器(鎌、零の持ち物)のせいで、敵五十名を引き換えに、麗への疲労感は半端ない。


実際立ってるのもやっとの麗は、敵に囲まれ袋の鼠状態だったのだ。


だから、敵が今あの魂に気を取られている隙を突かない理由は無い。


「雹害ッ!!!」


鎌に大粒の氷を多く出すように命じると、敵に雹が真横から叩きつける。


敵は次々と倒れ付していった。


(よし、あと二十人ならなんとか・・・・・・)


そこまで思ったとき、はっと視界が回り始める。足元がふらつき、思わず床に膝をついてしまう。


麗の活動量の限界が来たのだ。元々死神の使っていた武器を人間である麗が使っていたのだから無理もない。


「あの女、俺らの隙をついてッ!」


「だがもう限界のようだ。追い詰めろッ!!!」


だが敵はそんなこともおかまいなしにやってくる。


正直、もう無理だった。


それでも・・・・


(諦める訳なんかないッ・・・!!)


あの流星群に、大切な人を護るために自分の命をも賭ける青年を重ねてしまったから。


麗も、自分の大切な人を護るために、全力で、命を賭して、闘う。










(流星群・・・・・・!?)


真がそれに気付いたのは、ほとんど偶然と言えた。


集会場にいる人間の魂を除いて、ほぼ全ての魂が例外なく聖気へと変わりつつあり、その量は膨大。


膨大過ぎるが故に、その空間に留まることは出来ず、破裂する。


そんな『ALLDYオールダイ』を止める為に、真は屋上で苦戦していた。


ひとまず、真に限界量まで発生した聖気を詰めてみた。その数約、人の魂五十人分。


勿論、それでは焼け石に水なので、何か別の方法を考えなければならない。


聖気を無駄遣いして減らす・・・・・・駄目だ。無駄遣いした分、結局その空間に聖気が行く当てもなく彷徨い、結局この膨大な量の聖気にまた引き寄せられて元に戻るのがオチだ。


と、なると、『ALLDYオールダイ』の放出時に、どこか被害のない場所に一気に放出するしかない。


つまり、破裂する瞬間に、その破裂した聖気の行く先を整えて、どこかに放出すれば問題はない。


つまり、どこに放出するかが問題となった。


聖気の行く先を整えること自体は、これらは全て真の聖気であるのだから、方向位は何とか操れるだろう(多分)。


しかし、せっかく聖気の方向を定められても、その方向に人がいるならば結果は同じ。


下には、皆がいる。横方向も、水平に操るのを失敗すれば、下にいる皆が被害を被る。


となると、絶対安心で、失敗しても大丈夫そうなのは上方向しかない。


しかし、『ALLDYオールダイ』は元々、下方向に破裂するものだろう。(そうでなければどれだけ楽だったか)


それを無理やり上方向に放出させるのだから大変に違いない。


(上かぁ・・・・)


半ば憂鬱に上を見上げると、そこにはあの光を放つ魂の流れる様が真の視界に移ったのだ。


その光景が真の視界に映ったとき、真は憂鬱さが晴れていくのを感じた。


あの流星群に、ある青年の姿を重ねたから。


あの、大切な人を決死で護ろうとする姿に、胸打たれてここまで来たのだから。


だったら、最後まで、俺も大切な人を決死で護る。


そう決心した真は、再び目の前の巨大な魂の渦に視界を戻した。


あの青年が諦めない限り、俺も最後まで付き合う。


そう、心に誓いながら。










流星群は、人々に希望を、驚きを、意思を与えながら、まっすぐに在るべき所へと戻っていく。


それは、元の肉体。つまり、伊島宏助の元へ。


しかし、それを好ましく思わない男が一人、宏助の傍にいた。


安部清明。この男は今、自分でもよく分からない敗北感に包まれていた。


(馬鹿な・・・・・。あれほどバラバラになった魂が・・・戻ってくる!?


それでは明が・・・!?いや。それはあり得ん。しかし・・・・)


こんな各所にバラバラになった魂を一箇所に遠隔操作など清明ほどの霊能力を持っていなければ不可能だ。


つまり、そんな条件を満たす人間は、世界中を探しても数えるほどしかおらず、その中の一人が今ここにいる。


だが、彼女には清明渾身の操り人形である彼女の父たる総帥をぶつけてあるはずだ。


あれをいかなる手で止めたというのだろうか。


(いや・・・そんなことよりまずは・・・・)


とりあえず、目障りなゴミの処理をしなければならない。


そう決めると清明は、


「ウラァアアアアアアッ!!!」


宏助の魂の欠片達に攻撃を開始した。


しかし、聖気を纏い、単体となった魂たちは速く、なかなか捕らえられない。


そこでモタモタしている間に、ひとつ、またひとつと魂は宏助の体内に入ってゆく。


「かくなる上は・・・・・・」


清明はそう呟くと、宏助の肉体本体に攻撃する。


魂が入る前に、肉体を傷つけてしまえば終わりだ。


そう思ったのだが。


先ほどまで魂を捕らえようと展開していた大規模な清明の黒々しい魂は、一瞬にして消え去った。


宏助の身体から放たれるまぶしいほどの聖気とエネルギーで。


攻撃しようとした瞬間、一瞬でその攻撃が無意味だったと理解させられる。


そして、ゆっくりと清明の攻撃しそこねた肉体が起き上がった。


そのとき清明は、生きてきた中で数えるほどしかしたことのない恐怖、というものを感じることになる。


溢れるほどのエネルギーを纏った伊島宏助はゆっくりと起き上がり、


「賭けに・・・・勝ったぞ」


そう呟いて、こちらを睨みつけた。

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