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居場所は自分で作るものだけど、与えられてもよい


「明さ・・・・グホッ!」


宏助は思い切り殴られ、床に叩きつけられる。


そのまま妹が上に圧し掛かるようにして動きを封じてくる。


「・・・・んんッ!」


「今、いいとこでしょ。少し黙って見てて」


宏助の数メートル横では、明が総帥の放つ黒々しい魂に呑み込まれそうになっていた。


これでは宏助が駆けつけてきた時と相違ない。


「クソッ!どけよ!蘭!どけよッ!そこを!」


もがく宏助だが、がっちり固められていて身動きが出来ない。


明の方を見やると、彼女はもう黒々しい魂に取り囲まれもう呑み込まれる寸前だ。


「明さ・・・・」


そこでバクン!と音がしそうな勢いで黒々しいものが明を呑み込んだ。


宏助を押さえつけている蘭は思わずニヤリとする。


「明さぁん!」


「これで仕事完了ね」


宏助が思わず虚無感で全身の力を抜いてしまいそうになったとき。


「「うおおおおッ!!!」」


突然、見たことのある神条家のSPの格好をした二人組の幽霊が乗り込んできた。


そのまま二人で明を飲み込んだ魂に突っ込んでいく。


そして、次の瞬間、


「プハァ!」


明の吐息が聞こえた。


「なっ・・・・・・にっ!」


「明さん!」


宏助は自分の状態など忘れて明の無事い安堵する。


明を助けたのは、他でもないSP兄弟二人組・・・・


「佐多兄弟・・・・・・」


「あらら、久しぶり過ぎて忘れられているかと思ったわ」


「読者にもな」


「そういう不穏な発言をするんじゃない!」


そう、他でもない。あのSPが人質に取られ、明を取られそうになったあの事件のときに助けてくれた二人だ。


あれからすぐに姿を消してしまってまったく見ていなかったが。


「お前ら、こんなところにいたのか・・・?」


「ええ、神条家本邸でなにやら不穏な動きがありましたから」


「清明に気付かれぬ様作戦を妨害しようとしていたのですが・・・・」


「全く妨害も出来ず、ここまで来たのですよ・・・・」


「と、とりあえず。ありがとうございます!」


掴みだしてもらい、下ろしてもらった明が言う。あいつ等にしては上出来だろう。


「しかし、アナタ・・・・・。宏助さんの上から降りてくれると助かるのデスが・・・」


「降りそうにありませんよ・・・・」


「降りるわけないでしょ。あんた等幽霊なんかに命令されても」


「お前も、同じようなモンだグえっ!」


「だ・・・まれ・・・ッ!」


「んっぐうッ・・・・!」


いきなり妹に首を絞められる。抵抗は・・・・出来ない。


「宏助さん!」


「助けに行きたいところですが・・・・」


「こっちもこっちで手一杯ですね・・・・」


明が叫ぶ声が聞こえるが、既に佐多兄弟は総帥と再び戦闘・・・というより防戦に入っている。


またドス黒い色の魂が広がり、明を捕らえようとしているのだ。


佐多兄弟はそれを振り払うので精一杯っぽい。


「放しやがれ・・・この手ぇ・・・」


自分の首を絞めている手を外そうと、宏助は必死にもがくが、


「アアアアアッ!」


「ンングアッツ!」


「こ、宏助さん!」


蘭の容赦ない一撃が右肩に。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアツツツツツツツツウ!」


左肩、右腕、左腕、腹、胸、首、頭、顔、右足、左足、右脚、左脚、全てに容赦ない連打攻撃。


「おいおい、これは助けに・・・・・」


「やめろッ!」


「・・・・・!」


義無が助けに行こうとしたところで、そこに総帥の魂がビュン!と弾丸の勢いで飛んでくる。


「宏助さん・・・・」


「明さんはジッとしてて下さい!アナタがやられては・・・」


「しかし、宏助さんが!」


「今は待っていて下さい!」


更にビュン!ビュン!と魂が更に飛んでくる。避けるだけが精一杯で、避けた弾丸が後ろの壁を貫通するのが分かる。


宏助は意識が遠のくのを感じられた。


ふわっと、何か自分の体が浮き上がるような感覚。


(・・・・・・・・・)


そのとき、涙が一粒、ポツンと落ちた。










「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


「お兄ちゃんです。どうぞ~?」


「何ふざけてんのよ!ていうか・・・・・ていうか・・・・・」


「うん?」


急に妹の目が潤んできた。アレ、どうしたんだろ?俺、何か悪いことした?


「ていうか・・・・生きてて良かった~!」


「わ~ッ!」


いきなり妹に抱きつかれる。いや、恥ずかしいから。この年で。


「よかったよかった~」


「・・・・・」


でも、俺に抱き着いてそれだけを泣きながら繰り返す妹を見てると、そんなことも言えない。


ま、生きてたことは実際奇跡だし、このままでいいか。


俺は、右手を妹の頭の上に乗せた。


俺たちは普通の兄妹だった。ごく普通の、どこにでもいる。


ある日、俺は交通事故で死んだ、ように思われて実は生きていて、何の障害も残らなかった。


まぁ、勿論、「蘇った」っていう言い方が正しいんだけど・・・・そのときはそんなことも考えていなかった。


だから、こんな風に妹に抱かれることも出来る。


俺は、自分の力を認めたのは俺に絡んできた同級生を、ボコボコにしたときだ。


認めたのは、だ。


気付いたのは、病院を退院してすぐだった気がする。


あのときは力が出せる、という可能性すら見出していなかった。


それは良かったと思う。もし、全力が出せたら殺していた。


まぁ、この出来事があったから、同級生を「ボコボコに出来る」という可能性に気付いてしまった訳だが。


で、この出来事とは何なのか、と言うと。


妹となんやかんやあって記念すべき退院の日。


親は病院での手続きがあるというので、一秒でも早く家に帰りたかった宏助は妹と一緒に先に家に帰ることにした。


これが原因だったとも言えるし、妹が世間一般に言えば可愛かったことも原因かもしれない。


ともかく宏助と蘭は、帰り道にいかにも「不良」と言う感じの若者数名に絡まれてしまった。


道をテクテクと笑いながら話していたら、急にあちらから宏助にふざけてぶつかってきたのだ。


あちらは「わりいわりい」などと顔の前で手をブラブラさせていた。


宏助は別に少しよろめいた程度だったので、特に何も言わなかったが・・・・・妹は違った。


あきらかに、ムカッとした顔をして、「ちょっと」と若者たちを引き止めたのだ。


今思えば、妹は俺のことを思っていてくれていたのだし、正義感が強かったのだろう。


だが、そのときの俺は「何してるんだよ!」と怒鳴ってしまった。


勿論、相手側も「あんだよ」みたいな反応で何やら不穏な空気が漂ってくる。


だが、良く最初は見ていなかったのだろう。若者の内、数名が今更、妹をまじまじと見詰めてきた。


引き止めた本人は少し後ろずさって「な、何よ・・・」と引き気味に言う。


そして、


「うっほ~!」


「マジ美人じゃねッ!」


「ははっはああああッ!」


「・・・・なッ!」


なんといきなり相手方が全員で妹の体をまさぐり始めた。


「おいッ!」


流石にここまでされてはほっとく訳にはいかない。宏助は声を荒げて男たちの腕を掴んでやめさせる。


「ああん!?なんだよ、お前!?」


三人組みのリーダー格と思われる男が宏助に気付いて今にも服の中に入れそうだった手をひっこめて宏助の方に向き直る。


他の二人も同様に手を収めて宏助に体を向ける。


妹は涙目ではぁはぁいいながら今にも倒れそうだ。


しかし・・・・・正直、宏助も泣きそうだった。


目の前にいるのは明らかに自分よりも大きなしかも怖い男たち。


宏助はいままで喧嘩というものはあまりしないように生きてきたし、ましてやこんな男たちを倒せるほど強くもない。


相手も流石に三対一だし、お楽しみ中を邪魔されてイラついていたこともあったのか、宏助にすぐに歩み寄ってきた。


「おいおい、テメェは黙ってりゃ見逃してっやったのに。お兄ちゃん面ですか?」


リーダー格の男が思いっきり凄んでくる。やばい、泣きそうだ。


他の二人の内の一人が、「お兄ちゃん~」とわざと高い声を出してからかい、他の奴らが下品な笑い声を響かせる。


だが、目は全然笑っていない。「この小僧、生意気な。いますぐたたんでやるよ」の目だ。


そして遂にリーダー格の男の手が宏助に伸びたとき・・・・・


「やめて!お兄ちゃんに触らないで!」


パシン!!!


そんないい音が響くほどに、蘭はその男の手を思い切り叩いた。


宏助が反応する前に、


「なにすんだ!テメェ!」


「キャッ!」


思い切り男が妹を突き飛ばす。


その瞬間、宏助の中で、


ぷツン


何かがキレる音がした。










「はぁはぁはぁ」


うん?何だ?どうしたんだ俺?なんでこんなに息荒げてんだ?


そうだ、確か。妹があいつ等に突き飛ばされて・・・・・


「あ・・・・・」


いた。目の前に妹が。とても怯えた様子で。


「怖かっただろ?もう大丈夫だ。問題ないぞ」


宏助は妹をあまり刺激しないようにゆっくりと笑いながら近寄る。


しかし、


「い、いや・・・・・」


妹は後ろに後ずさっていく。ずるり、またずるりと。あの、何かに怯えている目で。


「おい?大丈夫って言っただろ?なんかあんのかよ?おい?」


宏助もおかしく思って妹に素早く近寄りその肩に触れ・・・・


ズルリ


「あ・・・・・!?」


何かで宏助の手が肩から滑った。いや、それは血だった。血で宏助の手は滑ったのだ。


「い・・・・・いやああああああッ!」


妹が目を白黒させてバタリ、とその場に倒れこむ。


受け止める余裕はなかった。宏助はそれほどに動揺していた。


宏助の指についた、手についた血。


それを裏付けるように周りに転がっている数人の若者たち。


みな、意識はなさそうで、口や鼻から血を流している。


命の別状がない、そんなことは喜べなかった。


恐ろしかった。この数人の若者を自分が倒してしまったことが。


恐ろしかった。いつの間にかある自分の力が。


恐ろしかった。妹を怖がらせていたのが自分だったことが。


そして、宏助は。


「うわああああああッ!!!」


その日、自分の力に気付いた。










後日、若者たちには正当防衛という形で殴ったと説明したのでお咎めなしだった。


実際、正当防衛だったことは言うまでもない。度が過ぎていたが。


しかし警察、世間体がどうであれ、それはメッキを張って誤魔化しているだけ。


既に、「伊島宏助」という化け物を隠しているメッキは剥がれつつあった。


妹の異常なほどの宏助に対する怯えは後日も続き、会話はおろか、近づくことすら出来ない。


そのくせ、「何かあったの?」と親に聞かれても何も答えない。ただ怯えたように首を横に振るだけ。


それが宏助には耐えられなくて、妹もー蘭も、宏助に会ってくれなくて。


家族も蘭の様子に不気味さを宏助に感じ、あまり近づかない。


勿論、何があったかは誰にも言わない。


しかし、その一ヶ月後に学校で、化け物に張られたメッキは剥がれ、宏助は完全にこの世に居場所をなくした。


今まで必死に隠してきたものが明るみに出てしまった。


蘭は、もう宏助と話さなかった。











ーそして、今に至る。


「覚悟なんざ・・・・・」


蘭の体がビクン!と大きく震えるのが分かる。


連打攻撃が止まる。いや、止める。


宏助ががしりと蘭の腕を掴んでいた。


「覚悟なんざ・・・・」


宏助は言葉を紡ぎ出す。


例え、妹が相手でも、俺が護ろうとしているのはこの世に居場所がなかった俺に居場所を与えてくれた人だから。


だから・・・・


「覚悟なんざ・・・・・とっくに出来てるんだよッ!!!」


宏助は妹に、蘭に自分の拳を遠慮なく振り出せる。

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