10月31日 -3-
「今日の日付は、10月31日。間違いありませんね」
湯気の立つコーヒーを一口すすって、アジュールはそう確認した。
テーブルの上のチーズケーキは、残り一切れとなっていた。
気取られぬように、しかし物欲しそうに最後の一切れを見つめるアジュールに、櫻子は可笑しそうにほほ笑む。
黙って取り分けてやると、アジュールは頬をほんのり紅潮させ、悔しげな眼差しを彼女に向けた。
硬く引き結ばれたその唇から、耳を焦がすほどに聞かされた愛の言葉や甘い褒め言葉が紡がれることはない。ただ黙々とフォークで切って、口に運ぶ。
その一連の動作を盗み見ながら、櫻子は確かに、彼がアジュールであると確信し、また、その中には自分の知らない彼が混在することを思い知った。
「ここは、どこですか。魔力を、ほとんど感じません。人間界という答えが一番妥当ですが、なぜ…」
「なぜ?」
「なぜ私がここにいるのか、皆目見当がつかないのですよ」
最後の一口を残して、アジュールは視線を上げた。
薄々感づいていたが、口に出して問われると結構きつい。櫻子はきりりと痛む胸を庇うように動いた手を、もう片方の手で膝の上に縫いとめた。
「わたしのこと、知らないんだ」
乾いた笑いとともに、そんな言葉が零れ落ちた。
トリック・オア・トリート! 誰かがそう叫ぶ。
お菓子をたくさんあげたのに、どうしてこんな酷い悪戯をされなきゃいけないのだろう。
認めさせるのか、わたしに。
――彼は、「アル」じゃないと。
「…あなたは私のことを知っているんですね。一つ伺います。“私”の年齢は、いくつですか」
「え?」
思いがけない質問に、櫻子は愁眉を開き、ぽかんとした表情になった。
「年齢ですよ」
「え、と、27って聞いた、よ」
数字を聞いた途端、アジュールは軽く瞠目し、それから得心のいったように頷いた。
「なるほど。謎が解けました」
「なぞ?」
首をかしげる櫻子に、アジュールはにっこりと笑う。そして、冒頭の質問を口にした。




