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居候は悪魔ですって!  作者: 貴遊あきら
ミエルから櫻子への質問、やってみた
4/12

ミエルはネコ、サクラはウサギ、あのヒトはなに?


部下さんへ


 お久しぶりです。お元気ですか。アルは仕事の話になると極端に人の名前を省いてしまうので、あなたがお元気かどうかわかりません。やんわりと訊けば、「気になるんですか? でしたら私のほうからお聞きしておきましょうか」と言ってきたので、そこはきちんと断っておきました。安心してください。




 不穏な冒頭から始まった一通のメール。着信はお昼頃。


 隊長は今魔界で仕事中か、と脳内スケジュールで確認してようやく、早鐘のように鼓動し始めた心臓が、緩やかに通常ペースを取り戻した。


 メールの送り主-西宮櫻子は、こうしてときどきメールを送ってくる。一度でも「部下さん、メール返してくれないなあ」なんてぼやかれたら最後、虫けらのように必殺ビームで殺されてしまうことを想像したら、メールの返信など面倒などと言っていられない。このやり取りが明るみになれば、また別な理由で黒焦げになりそうな予感もするが、今日死ぬか明日死ぬかの二択ならば、明日死にたいと部下は思う。


 命の危険性を孕んだこのやり取りは、件の、「遠距離って言葉は、悪魔的に言えば別れましょうってことなんだってね、事件」解決後、「色々とご迷惑を掛けました。ありがとうございました」と櫻子が律儀にお礼のメールを送ってきたことに始まる。「どういたしまして。このメールは今すぐ削除してください、おれのアドレスも同時に」とは返せず、櫻子にとってはほのぼのと、部下にとってはスリル満点な雰囲気たっぷりに、今日まで続いていた。



 ああ、おれ、今度あっちに帰ったら、死ぬな。


 アジュールとの出会い頭、「元気ですか、マイース」と微笑まれ、成す術もなく地に伏す自分の姿を想像して、乾いた笑いが唇の端から漏れる。西宮櫻子に、隊長はこう報告するに違いない。


――彼、元気でした(・・・)よ。




それはさておき、と思考を無理やり切り替えて、メールの続きを読んだ。




 実は今日メールしたのは、部下さんに訊きたいことがあって。

「ミエルはネコ、サクラはウサギ、あのヒトはなに?」と、知り合いの女の子から質問があったんです。ミエルというのはその子の名前で、“あのヒト”とはアルのことです。つまり、動物に例えると何、という質問だと思うんですが、アルを動物に例えて何になるか、思いつかなくて。




 まさか隊長を動物に例えたら何になるか、おれに答えろと?

 部下は愕然とした面持ちになったが、先を読み進めると、だんだんとうんざりとしたような表情になった。





 だから私、アルに直接、自分を動物に例えたら何になるって聞いてみたんです。

 そうしたら……







「私を動物に例えたら? 気が進みませんね」


「え、そこをなんとかお願い。何かない?」


「そうですねえ、しいていうならば」


「しいていうならば?」


「櫻子さんを愛するオスですね」








―――隊長、あんた、何言ってんですか。


 部下は眩暈を覚え、畳の上に倒れ伏した。


 回を増すごとに、我らが隊長の恋人への溺愛ぶりに拍車がかかっている。

 もう本気でいやだ、とすべてを投げ出したくなったが、部下は緩慢な動作で起き上がり、またメール画面に目を落とした。しかし、続く櫻子の言葉に、いかんともしがたい脱力感を覚えて、スマートフォンを投げ出した。




 それで私、困ってしまって。

 まだ小さい子なので、アルの答えをそのまま書くのはどうかと思ったんです。

 アルは、私と同じウサギってことでいいんでしょうか? どう思います?





 激しくどうでもいいと思います。


 部下は今猛烈に、誰か助けて、と叫びたくなった。



ミエルへ

あのヒト、つまりアルを動物に例えると何になるか、アルに直接聞いてみたよ。

アルはウサギの男の子だそうです。





 櫻子からの返信を受け取って、ミエルは「ふぅーん」と意外そうに頷いた。


「ねえ、イル様」


「なんだ?」


「あの人、ウサギだって」


「は?」


「あの人を動物に例えると、ウサギの男の子なんだって。サクラがね、あの人に直接聞いたら、そう答えたらしいよ」


術式を弄っていた手を止め、イヴォワールはしばし沈黙する。


「……そうか」


「なんでウサギなのかなぁ」


その呟きに、イヴォワールが答えることはなかった。



 翌日、アジュールはレグリスにこんなことを言われた。


「なあ、今日イヴォワールのやつが『ウサギは常時発情していると聞いたことがあるが、真実か否か』って聞いてきたんだが、どんな脈略だ?」


「ウサギ? さあ、知りませんね。新しい術式にでも必要だったのでは?」


「ていうか、なんで俺に訊く?」


「知っていそうだと思ったからでしょうねえ」


「それって、褒めてねぇよな」


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