Tale.3
奇人変人なおとーさん(ゲームマスター)登場
VRMMOでのアバターは現実に近い顔立ち、体形になる。
なので誰もが理想の長身イケメンや、巨乳美人になることはできない。
増してや、性別を変えることなど論外に当たる。
唯一の例外がホビット、ドワーフ、ギガントなどの体形の変わる種族だが、それらは体の感覚が変わらない様に骨格はそのままでサイズが縮小・拡大されるだけ
『アバターくらい自由にいじっても良いじゃないか』とクレームを送った奴は多いらしい。
それに対しての運営の答えは
『アバターの体形が現実の物と違い過ぎると、ログイン・ログアウトする度に脳が体に違和感を覚える。その違和感がたまに幻覚に繋がったり、脳に異常を起こしたりするので、ゲーム内のアバターはなるべく現実に近い体形でなければならない』とのことだ。
人々はそれで納得した。
つまりボクは何が言いたいのかと言うと、
『ゲーム内でイケメンだったり可愛かったりすると、現実でもそれほどなのだろう』という常識が存在することだ。
それはボクにとってピンチを意味する。
ボクの今の外見は美少女なのだ。自分で言うのも悲しくなってくるが
周りの人はチラチラとこっちを見てくるし、ナンパされた数はもうすでに二桁を越えている
勿論カナ達が追い返してるが。
それでもすでに掲示板で騒がれていて、一目見ようと影から付けて来る人は把握できる範囲だけで十数人程だった。
まだログインして一時間も経ってないのに、だ。
情報が伝わる速さって凄いな...
もう一つ重要なことは、『性別が変えられないこのゲームでボクは性別が変わってしまっている』ことだ
小さいながらも、現実で男であるボクにあってはならない胸の膨らみがあり、無くてはならない物が股にはない。
身長も10cmは下がった感じで、短い手足の感覚にはまだ慣れていない。
肌も柔らかいし、髪はサラサラだ。
この体に違和感を感じない訳が無い。
カナに「ボクの脳に支障とかは起きないのか」と聞くと、「製作者でもあるお父さんの許可は貰っているから、大丈夫な様にはされてる」だそうだ。
脳に支障が起きない様に工夫されているらしい。
「そんな技術あるなら公開すれば良いのに」と言ったら、「VRでネカマは色々と問題が有る」と返された。(ネカマと言うのはネット上で男が女のフリをするネットオカマの略。)
じゃあボクは何なのか。
ボクは男として認識されていないのか。
それともこの誕生日サービス兼悪戯は冗談で、後で直してくれるモノなのか。
できれば後者をお願いしたい。
しかしカナに聞くと、
「機械すら誤認させる程の女顔を持つ癖に純粋だから、お兄ちゃんなら大丈夫だよ」と言われた
...嬉しくない
というか質問に答えてないよね!?
◇~◆~◇~◆
――始まりの町、アルチ
『♪~♪~♪~』
防具店に向かう途中で何やら電話のコール音の様な音がし、目の前にシステムメッセージが現れる
『GMにコールされています。答えますか?』
GMから?
もしかして男であることがバレて、強制ログアウトさせられるとか?
でも許可は取ったって言ってたし...
因みにコールというのは、このゲーム内での電話機能の様な物で、メールアドレスを知っているかフレンド登録をしていれば相手に掛けることができる通話システムだ。
「答えても大丈夫?」
「うん、大丈夫。じゃあ私達は防具店で待ってるから」
カナがりずむと夜斗の袖を掴んで防具店へ向かう
とりあえずボクはシステムメッセージの画面上にある『YES』を押す。
すると、テレビ電話の様な画面がホログラムとして映し出される。
『よぉ、明日斗。しばらく見ない間に随分と可愛くなったモンだなこりゃ』
「父さん!?」
GMからのコールで画面に現れたのは、ボクの父親、光崎蓮真の姿だった。
.........
「何で父さんがGMなの?」
『なんでって、このゲームを作ったのは俺だぞ?製作者だからって理由で『GMにでもなってみないか』なんて言われちゃってさ』
コールのテレビ電話の様な画面に映っている父さんは、ボサボサ頭の黒髪で、乱れた黒スーツを着ていた。
恐らくリアルからコールしているのだろう。
顎ヒゲくらい剃れっての。
ボクの父さんは、ボクの憧れの人だ。
ボクが最も尊敬する人で、ボクが技術者として目標にしている人だ。
ただ、尊敬するのは生き方と技術力であって、性格が...
『折角誕生日で貰ったゲームなのにそれで女体化しちまうなんて、残念だなあ。あっはっはっは!』
とまあ、多少変わっていたり悪戯好きであったりする。
「これルール違反とかじゃないの?」
『いいや?一応脳への支障はゼロに限り無く近く、且つ女の子の体の機能を全て再現できる様に全力で工夫したぞ?架菜に頼まれて。』
「...なぜその技術を一般化しない」
『だってその方が面白いじゃないか。皆が皆イケメンとか美人で、現実ではブサイクでしたとかネカマでしたとかつまんないだろ?』
「じゃあボクは?何故ボクは女に性別を変えられなきゃいけないんだ?」
『その方が面白いからに決まってるでしょうが。どうせお前じゃお姫様プレイなんてできないし』
「お姫様プレイが何かは知らないが、なんでボクの許可も貰わずに勝手にこんなことをする」
『だって、確実に断ってたろ?』
「...そりゃあ断るに決まってるでしょう...」
『じゃあ言わずにやるのが一番だ。そう思わんか?』
思わないよ。
自分の父親の底無しの奇人変人っぷりが怖い...
『ああ、そういえば忘れかけてた。誕生日おめでとうな。』
「あ、うん...」
『ほい、コイツは俺からのプレゼントだ。』
直後、システムメッセージが現れる。
『プレゼントデータを受け取りますか?』
戸惑いながらも『YES』を選択する。
すると、インベントリに大量のアイテムデータが流れ込んでくる。
「これは?」
『お前の実現したい機械や兵器とかを作るために使えば良い材料と道具だ。大量にあるし、その気になれば戦闘機だって五機くらいは作れる量だ。その分、インベントリはいっぱいになるがな。なんとかこれから買う装備や設備の分は取っておいたよ。』
「...あ、ありがとう。」
『ああ。俺の作ったゲーム、楽しめよ』
「...了解。家に帰ったら外にご飯食べにに行こうよ。」
『そーだな。頑張れ、息子よ。あ、今は娘か。あっはっはっは!」
「うっさい」
ボクら親子はそのまま会話を終え、コールを終了した
◇~◆~◇~◆
――アルチの防具店、【ビギナーズラック】
防具店に向かうと、りずむが店の外で待っていた
「待ってたよー。お父さんからだったんでしょ?どうだった?」
「うん、まあ...流石は父さんとしか言い様がないね。」
「ふーん、良かったねー。それじゃあ早速あす君、いや、アスちゃんにはコレを着てもらいましょう!」
りずむが後ろに隠していた物を「ジャジャーン」と効果音を口にしながらある物を取り出す。
――巫女服だった。
「丁度さっき、アスちゃんを待ってる間に買ったのだー!」
「着れるかああああああ」
「待てぃ!逃がさないよ~」
「ちょ、止めて!っひゃあ!?ってどこ触ってるんだよ!誰か、ヘルプゥゥゥ!」
システムメッセージが開く。
『ヘルプ、及びマニュアルを開きますか?』
「そっちじゃなぁぁい!」
ボクの必死な叫びは無駄となり、そのまま店の中へと引きずり込まれた
その後掲示板では、巫女服を着た空色の髪の美少女を見たというスレッドで人々は荒れていたそうな。
次回はスレッドでも含めようかと
夜斗クン、改訂前と同じくらいの影の薄さですね
まあ忍者ですから
2/21:色々と改稿・修正