Tale.2
突然な話だか、僕、光崎明日斗は今日15歳になったばかりの、男だ。
中学三年生で、来年には高校に入る身である。
そしてクラス全員曰く、『中身だけが性別と合っている男』である。
所謂、女顔という奴だ。
そして僕はこの顔をあまり良くは思っていない。
研究や考察に支障は起こさないけど、妹がしつこく女装させようとしたり、音葉にはこの顔をからかわれたりで色々大変なのだ。
そんな僕は現在、《ORIGIN TALE ONLINE》にログインしている。
というより、初期設定を終えてログインしたばかりだ。
そして《手鏡》という名のアイテムを手に持っている。
なんの変哲も無い、ただの手鏡だ。
その鏡に映っていたのは、僕...ではなく、僕になんとなく似ている美少女だった。
全てを包み込む様な空色の髪が背中まで届き、深い真紅の瞳に雪の様に白い肌を持つこの姿は、『綺麗』の一言では済まないだろう
『なんとなく似ている』というのは顔立ちからだ。
この美少女には、僕の現実の顔の面影がある。
でも僕はさっきも言った通り、男だ。
そしてこのゲームは性別を変えられない。
じゃあこの美少女は一体誰なのか
そして、手鏡を持っている僕は何処なのか
これはこの手鏡の特別な仕様なのか?
アイテムをタッチして調べても、出てくる説明文は『なんの変哲も無い、ただの手鏡。』だ。
辺りを見回してもその子らしき少女はいない。
いるのは妹の架菜ことプレイヤーネーム【☆カナ☆】、弟の藤矢ことプレイヤーネーム【夜斗】、そして幼馴染の音葉ことプレイヤーネーム【りずむ】の三人だ。
(プレイヤーネームは頭の上に表示される)
【☆カナ☆】...は発音しづらいからカナで良いとして
カナとりずむはまるで自分達の悪戯が成功したかの様な黒い笑みを浮かべ、夜斗は気まずそうに下を向いている。
これらの状況から分かることはただ一つ。
「なんで女の子になってるんだあああああああ!?」
この状況に至るまでの時間を少し遡ろう...
◇~◆~◇~◆
《神経・接続直後》
――初期設定の間
目を開けると、視界に映ったのは真っ白な空間だった。
先ずは初期設定をするんだっけか
『これより初期設定を始めます。先ずは種族を選んで下さい』
システムメッセージが目の前にホログラム画面として現れ、『次へ』を押すとリストが表示される。
恐らくこのリストから種族を選ぶんだろう。
他のVRMMO同様、エルフや獣人、ドワーフやホビットなど、藤矢曰くRPGでは代表的な種族や、スライム人間などの明らかにモンスター系の種族もあった。
皆個性的であり、長所もあれば短所もある。
ただし、人間は短所が無い代わりに長所もない。
悪く言うと地味。
良く言うと癖が無く、バランスが良い。
少し考えた後、僕は一番平均的である人間を選んだ。
ホビットなどは生産が得意らしいけど、僕は戦闘もするつもりだから選ばない。
なにより、ただでさえ短い背が更に短くなると思うと...
『種族は人間でよろしいですか?』
確認ウィンドウに、僕はYESを選択する。
『次に才能スキルを五つ選んで下さい』
また新たなシステムメッセージが現れ、次へ進むと才能スキルのリストが現れる。
予定通り、戦う技術者を目指すつもりなので先ずは《エンジニア》を選択。
残り四つ。
パーツを作るために必要っぽい《鍛冶》を選択。
残り三つ。
なんとなく名前に興味があったので《錬金術》を選択。
残り二つ。
戦闘に使う武器として《銃》を選択。例え当たらなくても使ってはみたいので。《エンジニア》スキルで改造もできそうだし
残り一つ。
作った機械にもできるかどうか検証してみたいので《憑依》を選択。
残りゼロ。
『《エンジニア》、《鍛冶》、《錬金術》、《銃》、《憑依》。これ以上の才能スキルは取得できません。才能スキルの選択を終了しますか。』
迷わず『決定』を押す。
『キャラクターのプレイヤーネームを入力して下さい』
ホログラム画面上にキーボードが現れる。
因みにプレイヤーネームは一般のネットゲームのユーザーネームと違い、名前が被っても大丈夫な様にユーザーネームとは別にID番号がある。
ログインする時は毎回IDを入力するのも面倒なので、メールアドレスを入力できる様にもなっているが
考えるのも時間的に無駄だったので、少し戸惑いはしたが結局『アス』と入力した。
現実での僕のあだ名なのですぐ思いついたモノなのだが、このあだ名を知る奴が居たらどうしようと思った。
まあ、その時はその時だね。
入力を終えると、システムメッセージが現れる。
『初期設定は終了します。どうぞ、存分に《ORIGIN TALE ONLINE》の世界を楽しんで下さい』
体が光に包まれる
...あれ?これで終わり?
何か忘れてる様な...
しばらくして、それが何かを思い出す。
(...あ、まだアバター作ってな―)
――視界が光に覆われ、意識が途切れる。
◇~◆~◇~◆
...それで、今に至る訳だ。
カナ達はどうやらログインポイントで待ち伏せしていた様で、意識が戻るとすでに目の前で待っていた。
そうしてカナはボクに手鏡を渡して来たのだった。
【☆カナ☆】のアバターは黒髪が腰まで届き、赤い瞳を持つ白い鎧を着た少女だった。種族は人間だろう。
赤い瞳以外は現実とあまり変わってない。
装備からしてイメージは聖騎士か何かだろうか。
黒髪・赤眼に聖騎士装備って合わなさそうだけど...
【夜斗】のアバターは銀髪ストレートに青い瞳で、忍者の様な服装だった。種族は狼の獣人っぽい。狼の耳があるし。
現実ではボサボサ頭の癖に、随分と外見を変えたな。面影や顔の骨格はシステム的な仕様で必ず残るけど。
【りずむ】は名前から分かるかもしれないが、どこかのアイドルの様なカッコをしていて、ピンク色の髪を現実と同じのショートにしていて、瞳もピンクだった。種族は人間。
色合いがどうも幻想的だが、現在空色の髪と赤い瞳のこれまた幻想的な組み合わせを持ったボクにそんなことは言えないだろう。
例えこのアバターはボクが作ったモノでなくとも。
「...で?どーしてこんなことになってるのかな?」
「勿論、誕生日サービスとして私と音葉さんでお兄ちゃんのアバターを作ってみたの!」
「...それが何故女性に?」
「いやあ、アバターを作成する時ってホルモンチェックとかするんだけど、ログインの時は顔認識だけだから。あす君なら普通に突破できるんじゃないかと思ってね。面白そうだからついやっちゃった♪」
「ナンデソンナ確信ガデキタノカナァ?」
「だってお兄ちゃん、『中身だけが性別と合っている男』だし♪」
「それを言うなあああああ!」
カナとりずむが交互に答える。
てか『♪』止めろ。
そもそもどうやって発音したんだ今の
「こんなことしてボクが喜ぶと思うか?」
「「ううん。」」
「即答かい!じゃあ一体どういう理由でこんなことをした?」
『『妹が欲しかった』』
「......イモウト?」
身長を改めて確認する。
......あれ?
現実での僕の身長はクラスの中の男子では一番チビで155cmくらいだった。
それでも、なんとか音葉とは互角、架菜以上でいたはずなのに...
「なんでカナより背が低くなってるんだよぉぉ!」
焦りながらも、手でカナと自分の身長の違いを測ろうとしたり、背伸びをしたりする
「自分の身長を一生懸命測ってるお兄ちゃん...カワイイ!」
「同感だよ、カナちゃん!」
「うるさあああい!一生懸命じゃなああい!」
「おーい、そろそろ兄さんの装備を買いに行かないと...」
夜斗(藤矢)の呟きは誰の耳にも届かなかった。
2/21:色々と改稿・修正




