Tale.20
夜斗とコマンドの戦闘を、なんとかこちら側に有利な様に妨害しなければ。
そのためには、やっぱり遠距離射撃か、爆撃くらいしかないだろう。
ジークの狙撃は先ほどから開始されているけど、一回でも当たればギリギリまで削るその弾幕を紙一重で避けるコマンドは尋常ではない。
夜斗はそこに付け込んで攻撃を当ててるけど、夜斗単体の力ではその異常なVIT値とHP量でそこまで減りはしない。
「やっぱり、爆撃しかないよね」
「夜斗は?」
夜斗が対象の近くにいるから、巻き添えを食らうのは確実だろう。
「同じパーティだから、衝撃を受けるだけでダメージは受けないんでしょ?」
「まあ、そうだけど…」
「この決闘自体が夜斗の責任だから、大丈夫」
「それもそうだね。痛みも殆ど無いし」
「夜斗さんの扱いが酷いッスね」
気にするなジーク。
きっと気のせいだ。
「そんじゃまあ、あれ使おっと」
ボクはインベントリを探り、見つけられる限りの《爆発可能アイテム》に類するアイテムを取り出す。
しかし、あることに気づいてしまった。
「あ、爆発力高すぎてボク達も吹っ飛ぶよ?」
「威力高過ぎだろそれぇぇ!!」
「お兄ちゃんには呆れるしか…」
「でも、最低でもこれくらい使わないとコマンドは耐えてしまうし…」
うーんと三人で頭を捻って考える。
背景に夜斗とコマンドの叫び声があってうるさい。
「あのロボは駄目なの?」
あのロボ、つまりマグナのことだろう。
でも、あれじゃデカイ囮くらいにしかならない。
「あれは真正面から行くタイプだから、コマンドと相性が悪いと思うんだ」
「しかも狙撃も避けるとかどんな化物」
「前は狙撃が想定されない状況で倒したからね」
まさに生きるチートである。
ボクらでは、真正面も駄目、狙撃も駄目、爆撃も駄目。
もう全部夜斗に投げちゃうか。
「あ、夜斗さん死にましたね」
あ、投げる相手いなくなったね。
「次はお前らだなアアアアアア!!!!」
新幹線の様な猛突進でこちらに向かってくるコマンド。
「もうギブアップしよーっと」
「駄目」
カナにまた肩を掴まれる。
「なんで?」
「なんとなく」
「そんな理由で納得できるか!」
「しゃ・し・ん」
「喜んで戦いましょう」
くそぉ!
こっちは弱みを握られてるんだった!
「だって不安そうな顔のお兄ちゃん、可愛すぎるんだもん」
よーし、今日は盛大に枕を濡らそう。
「先手必勝!《ホーリーレイン》ッ!」
「ああもう--ジーク、ホーミング狙撃は続けてて!」
「了解っと」
ボクはバリアの展開装置と新開発の携帯兵器を幾つかインベントリから取り出し、コマンドに向かって突進していったカナを追った。
カナの放ったスキル、《ホーリーレイン》は光属性のオリジン魔法で、《闇聖剣》の「聖」の元となった彼女の代表的な技の一つである。
そして、敵味方問わず攻撃を何かの対象に当てまくることでも有名である。
別名、「味方殺しの大魔法」。
「こっち来たぁぁぁぁ!?」
「ちょっ、狙撃してる場合じゃねええええ!!」
「ぬぅ――――ッ!?」
僕はバリアで防ぎ、ジークは掠りながらも横っ飛びで避ける。
しかし、コマンドにとっては全くの予想外な展開らしく、右腕に当たった。
その衝撃により、隙ができたのを、ジークは見逃さなかった。
「食らえええ―――――ッ!!」
ホーミング修正の掛かった狙撃。
そのホーミング修正のおかげで、少し反応が遅れて跳んだコマンドの脇腹をしっかり捕らえた。
「ぐあッッ――」
苦痛に声を上げるコマンド。
ジークが「やったか?」と声を上げる。
しかし、彼は倒れなかった。
「へへ、命綱は持っとくモンだぜ……」
彼の指から、何かが弾ける様な光エフェクトが発生した。
それを見たカナはハッと思い出した様に呟いた。
「《チャンスリング》……?」
それは、HP値が一定値まで減れば、アイテムの耐久力と引き換えに、自動的に回復を発動させる特殊な指装備のアイテム名だった。
確か、ゲーム内ではかなりの額をする筈。
ギルドマスターでもあるコマンドにとってはあまり大した出費ではないかもしれないけど。
「でも、あれって装備限界が一つだから、もう一回当てれば倒せる…筈」
化物の真意は予測できない。
「私とお兄ちゃんが前に出るから、サポートよろしくジークさん!」
「勝手にボク前衛に決められた!?」
そしてカナに袖をずるずると引っ張られていくボク。
「ちょっ、髪が白衣から出ちゃう!出ちゃうから!」
「だいじょーぶ」
バレたら学校とかで何と言われるか!
「というか友人に『このゲームでは女体化してます』なんて言えるか!」
「それなら私が言うから」
「知って欲しくないんだよ!というかその原因が言うなぁ!」
「よーし、掛かれー!」
見事なスルー!?
そして、目の前でカナとコマンドの激しい近接戦闘が始まった。
ボクはまだ序盤ステータスで、一撃でも掠れば死に戻りするというのに。
確かに、死に戻りで帰るのも手だけど。
「あ、死に戻り!それでいいじゃん!」
「お兄ちゃんは私が守るぅぅぅぅ!」
守られてるし。
無理そうだ。
しかし、メニューからログアウト項目を押したらカナはジークになんて説明するだろう。
写真見せられたくないから逃げた?
芋づる式でゲーム内での性別変換がバレる。
(どいつもこいつも、自分勝手すぎるだろぉーーー!!)
今更過ぎる怒りが、胸の奥でふつふつと沸騰し始める。
本気で怒るのは、何年ぶりだろうか。
そんなことを考えていたら、頭の中で、何かがプッチンと切れる音がした。
「いい加減に……ッ!」
その後のことは、覚えていない。
次回はお説教回か、謝罪回か、三人称回か☆




