Tale.9
やっと更新できたぁ
長く掛かった分、少し長めです
目を開けると、視界には僕の良く知る天井が映っていた。
僕の部屋の天井だ。
「......昨日、あのままゲームの中で寝ちゃったんだっけ」
ゲームの中で寝ると、数分でシステムに強制ログアウトさせられるって架菜が言ってた気がする。
確か......兵器製造に没頭してたら、時間を忘れてて何時の間にか意識が飛んでいたんだった
まさかゲームで夜更かしするとは思ってもなかったな
ゲーム内でも殆ど研究しかしてないけど
取り敢えず朝御飯食べようと思い、僕は部屋を出た。
が、台所にたどり着いても、そこには誰もいなかった
「まさか......」
僕は台所を離れ、藤矢の部屋を覗いてみた
予想通り、藤矢はまだベッドに横たわっていて、その頭には《リンクギア》が装着されていた
電源ランプとLANランプは付いているのでどうやらまだゲーム中の様だ
架菜の部屋を覗いても藤矢と同様、架菜はランプ付きの《リンクギア》を被ってベッドに寝転んでいた。
「...ということはこの二人、一晩中眠りもしないでゲームしていたのか?」
ある意味凄い神経してるな、と僕は苦笑いして思ったのだった
台所に戻った僕は、取り敢えず自分で朝御飯を作ることにした。
料理は得意じゃないから適当にある物で良いか、と思った僕はトーストを焼いた
台所で孤独な朝御飯を過ごしたが、少し寂しい、なんて思ってはいない
断じて寂しがってはいない
......よし、あとで架菜達を叱ろう
◇~◆~◇~◆
戦争イベントが始まるのは今日の午後2時。
現在は11時26分。
朝御飯を食べ終えた僕は、早速部屋に戻ってOTOにログインした。
ボクの残した機械製造の作業はあと残り僅かなので、すぐに取り掛かることにした
「でもその前に......」
僕はメインメニューを開き、フレンドリストから【☆カナ☆】と書かれている項目を押し、《コール》を選択した
しばらくすると、ウィンドウにカナの顔が表示された。
なんだか眠そうな顔をしている
『お兄ちゃんどしたの?』
「...今何時だと思う?」
『へ?11時26分だけど...』
カナが不思議そうな顔をしてた
恐らく自覚はしてないんだろう
「朝御飯食べた?」
ウィンドウに表示されるカナの顔が急に青ざめた
『あ.........』
「昨日から一度くらいはログアウトしたよね?」
『そ、それは...』
「まさか一晩中ずぅーっとゲームしてた訳じゃないよね?ボクでさえ寝堕ちしちゃったんだから」
『え、えーと......それより、お兄ちゃん寝落ちしたの?』
カナが誤魔化す様に聞いてきたが、ボクは甘くない
「そんなことはどうでもいいから。こっちは徹夜したのか聞いてるんだよ?」
『...すいませんでしたぁぁ!徹夜でゲームしてましたぁ!』
その後、ボクは20分程カナを叱り続けた。
ついでに、カナの背後でこっそり話しを聞いていた夜斗も一緒に叱った。
別に、寂しい朝を過ごして八つ当たりしている、なんてことでは断じて無いっ
そんなこんなで1時になり、説教と作業を終えたボクは【闇光の刃】ギルドのギルドホームを訪れた。
【廃墟街ロストシティ】という場所のとある廃ビルの駐車場にあった。
因みに【廃墟街ロストシティ】は街なのだが、殆どが地下施設だ
『ゾンビが現れた街に住む人々は、地下で生活することになった』的な設定だそうで
入り口はただの壁で、一つの呪文を唱えると魔法陣が現れて扉になったのだ。
ボクは呪文を知らないが
呪文を唱えたのは廃ビルで合流したカナ達だ。
例え臨時参加であっても、正式なメンバーじゃなきゃ呪文は教えられないらしい
扉の中に入ると、視界に広がったのはどこぞの豪邸の様な場所だった
カナ達の家より広いのは確かだ
床は赤いカーペットが敷かれ、壁には天使や悪魔の絵が飾られていた。
「こっちが会議室だよ」
カナと夜斗はこの場所を完全に把握している様で、ボクは二人に連れられて玄関から大分離れた部屋に入った。
随分と広かったその部屋の真ん中には大きめの円形のテーブルがあり、そこには見知った人達や知らない人達が座っていた
一番奥にネフィム、その隣にりずむが座っていた。
ネフィムは相変わらずフードと仮面で姿を隠していた。
唯一違うのは仮面が別の物に変えられていたことだ。
全面的に黒く、白で頭蓋骨が描かれていた
りずむはボク達に気づいて手を振ってきたので、ボク達は手を振り返した
りずむの隣には、恐らく彼女のギルド【弦音】のメンバーであろう人達が座っていた
あとは皆【闇光の刃】のメンバー達だ。
【闇光の刃】全員数えてみると23人。ボクら3人を含めば26人だ
ボク、カナ、夜斗はネフィムの隣に座ったと同時に、ネフィムは立ち上がった。
「では、これからギルド戦争の作戦会議を始める。先ずは、今回協定を結んでくれた【弦音】のギルマスに挨拶をしてもらおうと思う」
ネフィムの無機質な声が部屋に響き渡った
それに反応してりずむと【弦音】のメンバー達が立ち上がる
【弦音】はりずむを含めて12人程の少人数ギルドだった
これで会議にいる人達は合計で38人だ
「私が【弦音】のギルマス、【りずむ】です。武器はエレキギターで、サポートがメインです。ですがギターによる打撃攻撃もできるので、近距離戦闘も得意です。本イベントでは私達【弦音】と協定を結んで頂き、ありがとうございます」
りずむと【弦音】のメンバー達は全員お辞儀をし、ネフィムはそれを見て頷いた。
「では、次に本イベントにて臨時参加する【アス】に挨拶してもらおう。こんなのでも一応【☆カナ☆】と【夜斗】の姉らしいのでな」
「へっ!?ボク?」
急に指名されて驚いた。
部屋中がボクに注目し、空気が重くなる
本当はボクは姉じゃなくて兄なんです......なんて言える訳無いか
「えと...ボ、ボクは【アス】と言います。本イベントではエンジニア兼戦闘員として参加させて頂きまつ」
噛んでしまった...
部屋にいる人全員がボクに暖かい視線を向けていたのは言うまでも無いだろう
「うむ。コイツ自身には戦闘力は皆無だが、コイツの作る武器はゲームを始めたばかりにも関わらずレベルが高い。それを上手く使いこなせるアスも立派な戦闘員だ」
ネフィムが上手く纏めてくれたお陰で暖かい視線を感じなくなった。
「作戦会議と言っても、私が既に思いついた作戦を皆に伝えるだけだ。時間もあと僅かなので手短に話す。」
ネフィムの言う《作戦》は単純だった
フィールドは無人の街で、ギルドそれぞれに拠点が与えられる
敗北条件はギルマスの死亡なのでネフィムは拠点で待機し、ネフィムの決めた《部隊》がそれぞれの目標のギルド拠点を襲撃するというモノだった。
《部隊》の数は今回出るボクら以外のトップギルドの数と同じ、6つだ。
《部隊》一つは六人で構成され、残った二人はネフィムとりずむの護衛だ。
護衛に残るのは二つのギルドの中でも強い【闇聖剣】カナと、【弦音】サブマスの【ドレミ】さんだ
りずむ、もとい音葉の現実での友達らしい
本当は【ドレミ】さんより夜斗の方が強いそうだが、夜斗は暗殺などが専門なので一つの《部隊》の隊長になるそうだ
ボクは【黒魔術師】の二つ名を持つ【魚雷火】さんの部隊に配置された
魚雷火さんはなんでも、つい最近まで二つ名持ちのソロプレイヤーとして知られていたのに、数日前に【闇光の刃】に新戦力として加入したとか
魚雷火さんは、少し長い灰色の髪と漆黒のローブが印象的だった。
背は170cmくらいかな.........背が高いって良いなぁ
【黒魔術師】と呼ばれてるくらいなのだから、闇魔法などが強いのだろう
「お前が【アス】か。誰かと思えばこの間のロリ天使じゃ......ゲホゲホ、何でもない」
会議が終わり、急に魚雷火さんが話しかけてきたと思ったら、咳で誤魔化された。
何か『ロリ』とか『天使』という単語を聞いた様な、聞いてない様な......
「それより、《エンジニア》才能で大量の兵器作ったって本当なのか?」
「うん、本当だけど?あ、そうだ!」
ボクは咄嗟にあることを思い出し、インベントリから一つの銃を取り出して魚雷火さんに渡した
「こ、これは?」
「拳銃を模した高性能爆弾さ。いざという時にトリガーを引いて自爆を――」
「怖ぇよ!?」
「...というのは冗談で、トリガーを引いて投げれば直径10メートルは木っ端微塵さ」
「...なんで態々銃を模してるんだ?」
「落としても敵が拾って使われれば自爆するでしょう?」
「あ、なるほど...随分と細かい状況まで把握してるんだな。まあ、ありがたく受け取るよ」
魚雷火さんは爆弾拳銃(今命名した)をインベントリに仕舞い、部屋から出た。
最後に何故魚雷火さんがガッツポーズをしていたのかは知らないが、喜んで貰って良かった。
◇~◆~◇~◆
会議後、ネフィムとりずむ、二つのギルドのギルマスがメニューのクエスト項目から【ギルド戦争】に参加するためにギルド名や協定を結ぶ相手などの情報を入力した
ネフィムが入力を終えた直後、周りのギルドメンバー達が真っ白に光り始めた
勿論、ボクもだ
りずむ達はもう既に入力を終えて消えていた。
恐らくこれからその戦争の舞台となる無人の街に転移するんだろう
視界が光に覆われ、次に目を開けると館の様な広い建物の中だった
ここが【闇光の刃】のギルド拠点となる建物の中なのだろう
周りの人達は様々な反応を見せていた
ある者は緊張の汗を手で拭っていたり、ある者は興奮で自分の武器を握り締めていたり、またある者は落ち着きが無く動き回っていた。
ボクは緊張で汗を拭う方だった。
何せ、ボクから生産技術と兵器を取ったら何も残らないのだ
一撃でも食らえば即死だろう。
ボクは緊張を解すために深呼吸を何回かした。
すると、無機質なアナウンスが講堂に響いた
『午後2時00分となりました。これより【ギルド戦争】の開戦といたします』
「私とりずむは護衛と共に隠れる!あとは作戦通り、《部隊》ごとに決められたトップギルド、又は妨害するギルドを潰せ!」
またアナウンスなのかと思えば、アナウンスと同じくらい無機質な声に変換されたネフィムの声だった。
「ネフィムさん、随分と気合入ってますね。自分はただ隠れるだけなのに......」
「確かに、ずっと待ってるなんて団長らしくないな......何か企んでるのかねぇ」
「企んでる、か......って、魚雷火さん!?」
偶然近くに居たらしい魚雷火さんが後ろからボクの独り言に答えた。
勿論気づいてた訳無いので、ボクは思わず声を上げてしまった
「おっと、驚かしてゴメン。見かけたから声をかけようと思ってたんだけど、何やら独り言を呟いてたから...」
「あ、こちらこそ大声出してすみません」
魚雷火さんは「良かったぁ」と安心した様に息を吐き、インベントリから杖を取り出した。
結構長めで、魚雷火さんの身長の半分ぐらいはあるのではないのかと思った
「【魚雷火】部隊、出撃するぞー!」
魚雷火さんが杖を頭上に掲げて叫ぶと、その後ろに居た何人かが『オオオオォォォ!!』と声を上げた
恐らく【魚雷火】部隊に所属する人達なんだろう
気合入ってるな
「じゃあ【魚雷火】部隊の人達ー、着いて来い!」
そのまま、魚雷火さんとその他何名かが講堂の扉を勢い良く開けて飛び出していった。
流石はトッププレイヤーというか、かなり速かった
ボクも置いていかれない様に、そして見失わない様にと急いで後を追った
「待ってくれぇ!ボクのAGIはたったの24なんだよぉぉぉ!」
序盤にも関わらず全力で走ったり飛んだりしているトッププレイヤー達に追い着いた頃には、既に敵と鉢合わせしていたそうな
一応予告通り......ですよね?
ほら、戦争始まったし?(汗
...すいません、本格的な戦闘は次回です




