第7話:伝説の「通り名」と、女難の相棒
ザックが持ち込んだ飛竜の肉を囲む宴もたけなわ。 ふとした拍子に、ガイアスはザックが腰に下げた、装飾のない漆黒の短剣に目を留めた。
(あの剣……どこかで見た覚えがあるな。それに、あの身のこなし。ただの冒険者ではない)
ガイアスが思考を巡らせていると、ザックは騎士の一人から「あんた、ずいぶん強そうだな! 名前は何て言うんだ?」と聞かれ、豪快に笑っていた。
「俺か? 俺はただのザックだ。……まあ、一部の連中からは『灰かぶり』なんて、汚い名で呼ばれてるがね」
その言葉に、ガイアスの持つ木杯がわずかに震えた。 灰かぶり・・・まさか「灰かぶりの死神」。 単独で上位魔物を仕留め、王国の辺境をたった一人で渡り歩く、ゴールドランク冒険者の筆頭。その実力は一軍を率いる将軍に匹敵すると噂されていた。
(あの伝説の冒険者が……リゼットと、あんなに気安く接していたのか)
さらにガイアスは、ザックがリゼットに向ける眼差しが、浮ついた「男」のものではなく、純粋に「家族」に近いものであることにも気づいていた。 実際、宴の端っこで、リゼットの美貌に鼻の下を伸ばしている若い騎士たちを、ザックは鋭い眼光一つで黙らせている。
「……ザック殿、と言ったか。貴殿ほどの名声があれば、王都の貴婦人たちも放ってはおくまい」
ガイアスがふと尋ねると、ザックは心底嫌そうな顔をして、飛竜の骨を噛み砕いた。
「勘弁してくださいよ、団長さん。香水臭いドレスを着た女たちが、俺の『武勇伝』を聞きたがって群がってくる……。あいつらは俺自身を見てるんじゃなくて、俺の『名前』に酔ってるだけだ。……リゼみたいに、俺が魔物に食われそうになった時に『あんたの肉、脂が乗ってそうね!』なんて笑う奴の方が、よっぽど信用できる」
「リゼット……彼女は、確かに特別だな」
「だろ? だからこそ、あいつの側にいるのは、あいつが『ただのリゼ』でいられる場所じゃなきゃダメなんだ」
ザックはそう言って、遠くで騎士たちに「おかわりは並んで!」と指示を出しているリゼットを眩しそうに見た。




