番外編(実は没原稿の一つです。):森の蜜と、無自覚な距離
当初恋愛物を書いてみたくなったのでこんな感じを書いてみようと思ったのですが、書いてるうちにいろいろ路線が迷いだしてしまって、本編には載せなかった話です。これは第一章で考えてた案ですね。
「団長さん、見て! あそこの崖に咲いてるの、『岩蜜花』じゃない!?」
砦から少し離れた、陽光が差し込む断絶の森。リゼットの弾んだ声が響く。 今日は、過労気味のガイアスを見かねたリゼットが「気分転換よ!」と彼を連れ出した、二人きりの食材探し。ガイアスにとっては、もはやデートにしか思えない状況だが、当のリゼットは手にした籠を揺らし、獲物を探す鷹のような鋭い目で茂みを凝視している。
「……リゼット、あまり先行するな。魔物の足跡がある」
「大丈夫よ、団長さんが後ろにいてくれるんだから最強のボディーガードよね!」
振り返り、屈託のない笑顔を向けるリゼット。その信頼に満ちた瞳に見つめられ、ガイアスは「……ああ」と短く答えるのが精一杯だった。
二人が辿り着いたのは、一面に紫色の小花が咲き乱れる草原だった。 「わあ……! 団長さん、これ全部食べられるのよ! サラダにすると少しピリッとして、お肉に合うの」
リゼットは歓声を上げると、スカートの裾も気にせず草原にしゃがみ込み、花を摘み始めた。 ガイアスもその隣に膝をつく。騎士団長が花を摘むなど、王都の人間が見れば卒倒するような光景だが、今の彼には心地よかった。
「……リゼット。お前は、王都にいた頃よりも、今の方が楽しそうだな」
ふとした疑問。リゼットは花を摘む手を止め、空を仰いだ。
「そうねぇ。王都のキッチンは綺麗だったけど、みんな『マニュアル』通りに作らないと怒るんだもん。でも、ここは違うわ。私が『美味しい!』と思ったものを、みんなが同じ顔をして食べてくれる」
彼女はそう言って、ガイアスの顔を覗き込んだ。
「団長さんが、あの日私を拾ってくれたからよ。……私、この砦が大好き」
不意打ちだった。 感謝の言葉。だが、それはガイアスの胸に、甘い痛みとなって突き刺さる。 「拾った」のではない。自分の方が、彼女に救われたのだと、彼は言いたかった。
その時、リゼットが足元の根っこに躓き、バランスを崩した。 「おっと……!」 「危ない!」
ガイアスが咄嗟に腕を伸ばし、彼女の腰を抱き寄せる。 柔らかな体の感触。草原に二人、重なるようにして倒れ込む。 鼻先が触れそうな距離で、リゼットの大きく見開かれた瞳と、ガイアスの熱を帯びた視線が交差した。
「……っ。すまない、怪我はないか」 「あ……、う、うん。大丈夫。……団長さん、顔、近いわね」
リゼットが頬を林檎のように赤く染める。いつもは天然な彼女も、至近距離で見つめるガイアスの「男の顔」に、初めて心臓の鼓動を意識した。
「……リゼット」 「な、なあに……?」
ガイアスの指先が、彼女の頬に触れた髪を、払うようにそっと撫でる。 自制の糸が、ぷつりと音を立てて切れそうになった――。
「キュイィィィィ!」
その甘い沈黙を破ったのは、茂みから飛び出してきた、一匹の食いしん坊な魔物だった。
「――っ! 食材……じゃなくて、敵か!」 「あ、待って! その子、私が探してた『香りキノコ』を咥えてる!」
一瞬で「騎士団長」と「料理人」に戻る二人。 赤くなった顔を誤魔化すように、二人は慌てて立ち上がり、逃げ出した魔物を追いかけて走り出した。
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