第65話:王都の病、広がる不安
魔力停滞地点での調査から数日。
王都の空気は、さらに重くなっていた。
街のあちこちで、
人々が疲れたように座り込んでいる。
「……なんだか、悪化してる気がする」
リゼットは王宮の窓から街を見下ろし、
胸の奥がざわつくのを感じた。
「影の残滓が動いている証拠ですわね」
ミレイユが静かに言う。
「魔力の流れが乱れれば、
王都全体の体調にも影響が出ますわ」
「そんな……!」
リゼットは思わず拳を握った。
そこへ、カシアンが足早にやってきた。
「リゼット殿、ガイアス殿。
状況が悪化している」
「やはりか」
ガイアスが低く答える。
「魔力停滞地点が、昨日よりも増えている。
影の残滓が“移動している”可能性が高い」
「移動……?」
「ええ。
まるで王都全体を探るように、
ゆっくりと広がっている」
リゼットは息を呑んだ。
「じゃあ……王都の人たちが、もっと苦しむってこと?」
「その通りだ」
カシアンは真剣な表情で言った。
「だからこそ、あなたの料理が必要だ。
王都全域に“魔力を整える食事”を届けたい」
「全域……!」
リゼットは驚いたが、
すぐに顔を上げた。
「……やります。
私にできることなら、全部!」
その日の午後。
王宮の厨房には、
王都中の料理人たちが集まっていた。
「リゼット殿、教えてください!」
「このスープ、どうやって作るんですか?」
「王都の病を治すためなら、
私たちも協力します!」
リゼットは驚きつつも、
嬉しそうに笑った。
「じゃあ、みんなで作りましょう!」
鍋が並び、
野菜が刻まれ、
香りが広がる。
王都の厨房に、
今までにない一体感が生まれていた。
その頃。
王都の外れの暗がりで、
黒い影が揺れていた。
「……料理、か」
影は低く呟く。
「人の魔力を整え、
我の干渉を弱める……」
影はゆらりと形を変えた。
「ならば――
止めねばなるまい」
影は王都の中心へ向かって、
静かに動き始めた。
翌日。
王都の広場には、
大きな鍋がいくつも並べられていた。
そこからは豊かな香りが立ち上っていた。
「はい、次の方どうぞ!」
「子どもさんにも飲ませてあげてくださいね!」
リゼットは料理人たちと一緒に、
次々とスープを配っていく。
飲んだ人々の顔が、
少しずつ明るくなっていくのが分かる。
「……よかった。
これなら、王都の病も――」
そう言いかけた瞬間だった。
空気が、
ひやりと冷たくなった。
「リゼット、下がれ!」
ガイアスが叫び、
リゼットの前に立つ。
広場の中央に、
黒い靄がゆらりと現れた。
「……っ!」
ミレイユが魔力を展開する。
「これは……昨日の残滓より濃いですわ!」
黒い靄は、
人の形を模したように揺れ、
ゆっくりとリゼットの方へ向かってくる。
「……料理……」
かすれた声が聞こえた。
「料理……邪魔……」
リゼットは思わず鍋を抱きしめた。
「なんで……?
私の料理、そんなに嫌なの……?」
「嫌、ではない……
邪魔、なのだ……」
影の残滓は、
まるで意思を持つように答えた。
「魔力を整える料理……
我の干渉を弱める……
だから――排除する」
「排除……!」
ガイアスが剣を構えた。
「させるか!」
影の残滓が一気に形を崩し、
黒い刃のようなものを伸ばしてくる。
「お姉さま、下がって!」
「はいっ!」
ガイアスが剣で受け止め、
ミレイユが魔力の盾を展開する。
「この残滓……
砦の影よりも“知性”がありますわ!」
「つまり、王都の影は砦よりも厄介ってことか」
「ええ。
しかも……リゼットを狙っている!」
影の残滓は、
ガイアスの剣をすり抜けるように形を変え、
リゼットへ向かって伸びる。
「くっ……!」
「させませんわ!」
ミレイユが魔力の光を放ち、
影の動きを止める。
その隙に、
ガイアスが影を斬り裂いた。
「……!」
影の残滓は悲鳴のような音を立て、
霧散した。
しかし、消える直前。
「……料理……
王都を……救う……
ならば……」
影は最後に、
意味深な言葉を残した。
「……“次”は……本体が……」
そして完全に消えた。
広場は静まり返っていた。
「い、今の……影……?」
「リゼット殿が狙われていたのか……?」
「でも……リゼット殿の料理がなかったら、
私たちは……!」
人々の視線が、
リゼットに集まる。
リゼットは少し戸惑いながらも、
鍋を抱きしめた。
「……大丈夫。
私は料理を作るだけ。
みんなが元気になるなら、それでいいから」
その言葉に、
王都の人々は深く頭を下げた。
「リゼット殿……!」
「どうか……王都を……!」
「お願いします……!」
リゼットは小さく頷いた。
「うん。
私、がんばるよ」
そこへ、カシアンが駆けつけた。
「影の残滓が……ここまで来たのか」
「カシアン、どうする?」
「決まっている」
カシアンは真剣な表情で言った。
「王都の病を完全に収束させるため、
“魔力停滞の中心”を突き止める。
そして――影の本体を追い払う」
「本体……!」
「リゼット殿。
あなたの料理は、影の干渉を弱める。
つまり――王都を救う鍵だ」
リゼットは鍋を抱きしめたまま、
ゆっくりと頷いた。
「……分かりました。
私にできること、全部やります」
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