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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第64話:魔力停滞地点へ


 翌朝。

 王宮の厨房は、いつもより静かだった。


 リゼットは鍋の前で腕を組み、

 今日の料理をどうするか考えていた。


「魔力の巡りを良くするなら……

 昨日よりも、もっと体に優しい味にしないと」


 野菜を刻みながら、

 昨日カシアンが言った言葉を思い出す。


> “魔力停滞地点にも料理を届けてほしい”


 影の痕跡がある場所。

 魔力が滞り、人々が疲れ果てる場所。


「……やるしかないよね」


 リゼットは自分に言い聞かせるように呟いた。


「リゼット、準備はできたか」


 厨房の入口にガイアスが立っていた。

 その隣にはミレイユもいる。


「二人とも……来てくれるの?」


「当然ですわ。

 影の残滓がある場所に、お姉さま一人を行かせるわけにはいきませんもの」


「俺も同じだ。

 影が出る可能性がある以上、護衛は必須だ」


 リゼットは少し安心したように笑った。


「ありがとう。

 じゃあ、このスープを持っていこう」


 鍋の中には、

 昨日よりもさらに優しい香りのスープが湯気を立てていた。


 三人は王宮を出て、

 城下町の外れへ向かった。


 そこは、王都の中でも古い区画で、

 人通りが少ない。


 建物は古く、

 窓には布がかけられ、

 通りには疲れた顔の人々が歩いている。


「……ここ、空気が重い」


 リゼットは胸の奥がざわつくのを感じた。


 ミレイユが魔力を探るように目を閉じる。


「魔力の流れが……完全に滞っていますわ。

 まるで“吸われている”ような……」


「影の仕業だな」


 ガイアスが剣に手をかける。



 リゼットは近くの家の扉を叩いた。


「すみません、王宮から来ました。

 体調が悪い方はいませんか?」


 扉の向こうから、弱々しい声が返ってきた。


「……食欲がなくて……

 何を食べても、味がしないんだ……」


「よかったら、このスープを飲んでみてください」


 リゼットが差し出すと、

 住人はおそるおそる口をつけた。


 そして――


「……あったかい……

 体が……軽くなる……」


 その瞬間、

 ミレイユが驚いたように声を上げた。


「魔力の巡りが……一気に改善しましたわ!」


「ほんと!?」


「ええ。

 このスープ、影の干渉を弱めていますわ」


 リゼットは胸をなでおろした。


「よかった……!」



 だがその時。


 通りの奥で、

 黒い靄がふわりと揺れた。


「……!」


 ガイアスが即座に剣を抜く。


「影か!」


 ミレイユも魔力を展開する。


「残滓ですわ!

 でも……動きが妙ですわね」


 黒い靄は、

 三人を“観察するように”揺れた後――


 すっと消えた。


「……逃げた?」


「違うわ。

 “試した”のですわ」


 ミレイユが険しい表情で言う。


「リゼットの料理が、

 影の干渉を弱めると分かったのでしょう」


「試す……?」


「ええ。

 影は、あなたの力を“警戒し始めた”のですわ」


 リゼットは思わず鍋を抱きしめた。


「そんな……私、ただの料理人なのに……」


「ただの料理人ではない」


 ガイアスが静かに言う。


「お前の料理は、人を救う。

 影にとって、それは脅威なんだ」


 リゼットは少しだけ顔を上げた。


「……じゃあ、もっと作らなきゃね」


 その言葉に、

 ガイアスもミレイユも微笑んだ。



 王宮に戻ると、

 厨房の料理人たちがリゼットを待っていた。


「リゼット殿……!」


「さっき、医務室の患者が“体が軽くなった”と言っていて……」


「その……もしよければ、

 私たちにも作り方を教えていただけませんか?」


 リゼットは驚いた。


「えっ……いいんですか?

 王都の料理って、もっと格式があるんじゃ……」


「そんなことより、

 王都の病を治す方が大事だ」


「あなたの料理は、本物だ」


 リゼットは少し照れながら笑った。


「じゃあ、一緒に作りましょう!」


 王都の厨房に、

 新しい風が吹き始めていた。




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