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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第63話:王都の貴族たちと、噂の料理人


 王宮の医務室での初仕事を終えた翌日。

 リゼットは王宮の厨房で、朝食の仕込みをしていた。


「今日は、昨日よりも軽いスープにしようかな……」


 そんな独り言を言いながら野菜を刻んでいると、

 厨房の扉が勢いよく開いた。


「失礼する!」


 豪奢な衣装をまとった男が、ずかずかと入ってきた。


「えっ……ど、どなたですか?」


「私はスレイン侯爵家の執事だ。

 リゼット殿、あなたにお会いしたくて参った!」


「え、えぇ……?」


 リゼットは包丁を持ったまま固まった。


「あなたが作ったスープを飲んだ者が、

 “体が軽くなった”と言っておりましてな!」


「えっ、そうなんですか?」


「そうなのだ!

 そこで我が主――スレイン侯爵様が、

 “ぜひ一度、料理を食べてみたい”と!」


「えぇぇ……」


 リゼットは困ったように笑った。


「私、王宮の医務室でお仕事があって……」


「承知しておりますとも!

 ですから、侯爵様が“こちらへ伺う”と!」


「来るんですか!?」


「来られます!」


 リゼットは頭を抱えた。


---



 その後も――


「リゼット殿、伯爵家より“特製の茶菓子を所望”とのこと!」


「リゼット殿、子息が食欲不振でして……!」


「リゼット殿、我が家の晩餐会にぜひ!」


 次々と使いが来る。


 王宮の料理人たちは、

 その様子を遠巻きに見ながらひそひそと話していた。


「……噂が広がるのが早いな」


「さすが王都だ。

 “病に効く料理人”と聞けば、皆飛びつく」


「しかし、あの子……大丈夫か?」


 リゼットはというと――


「えっと……その……私は医務室のお仕事が……

 あ、ちょっと待ってください、順番に……!」


 完全にパンク寸前だった。



 そこへ、ガイアスが現れた。


「リゼット、何を騒いでいる」


「だ、団長さん……助けてください……!」


 リゼットは半泣きでガイアスの袖を掴んだ。


 ガイアスは周囲の使者たちを鋭く見渡す。


「リゼットは王宮の医務室での任務中だ。

 勝手な依頼は受けられない。

 用があるなら宰相を通せ」


 その一言で、使者たちは一斉に黙り込んだ。


「し、しかし……!」


「宰相を通せと言った」


 ガイアスの低い声に、

 使者たちは顔を青くして退散していった。


 リゼットはへなへなと座り込む。


「た、助かった……」


「まったく……王都の貴族は面倒だな」


「ほんとに……!」


 ミレイユが歩み寄り、リゼットの肩に手を置いた。


「 お姉さまの料理が“効く”と分かれば、

 貴族たちが群がるのは当然ですわ」


「でも、これは悪いことではありませんわ。

 “王都の病は軽度”という証拠でもありますもの」


「えっ?」


「隣国のように深刻なら、

 貴族たちが“食べたい”などと言っている余裕はありませんわ」


「あ……そっか」


 ミレイユは続けた。


「それに、貴族たちがお姉さまに興味を持つということは――

 “影”が動く可能性も高まるということですわ」


「えっ……!」


 ガイアスがリゼットの前に立つ。


「心配するな。

 俺がいる」


 その言葉に、リゼットは少しだけ安心した。


---



 貴族の使者たちが去り、

 厨房にようやく静けさが戻った。


 リゼットは深く息を吐き、

 まな板に手をついた。


「はぁ……なんか、普段より疲れたかも……」


「王都の貴族は、ああいうものだ」


 ガイアスが淡々と言う。


「慣れなくていい。

 お前はお前の仕事をすればいい」


「うん……ありがとう、団長さん」


 その時、厨房の扉が静かに開いた。


「失礼するよ。

 騒がしかったようだね」


 白いローブをまとった青年が立っていた。

 銀髪に淡い青の瞳。

 王都魔術師団の筆頭――カシアンだ。


 カシアンは微笑む。


「やあ、ひさしぶりだねリゼット。うちのミレイユが迷惑かけてると思うがあれで魔術の腕前はなかなかのものだ。君の護衛だけでなく様々な役にたつと思うよ。嘘の報告で勝手に飛び出していってしまって・・・・」


 ガイアスが一歩前に出る。


「カシアン。

 用件を言え」


「相変わらずだね、ガイアス。

 ……実は、王都の病について“新しい情報”が入った」


 カシアンは手に持った水晶板を見せた。


「魔術師団が王都全域の魔力流を調べたところ、

 “特定の地点”で魔力が停滞していることが分かった」


「停滞……?」


「ああ、 まるで“何か”が魔力を吸い上げ、

 流れを滞らせているような……そんな痕跡だ」


 

「そして、その“停滞地点”のひとつが――

 王宮のすぐ近くだ」


「えっ……!」


 リゼットは思わず声を上げた。



「実は、昨夜。

 王宮の外壁付近で“魔力の残滓”が見つかった」


 カシアンは水晶板を操作し、

 黒い靄のような映像を映し出す。


「これは……!」


「砦で見た影の残滓と、ほぼ同じ性質ですわ」


 ミレイユが言う。


「ただし……少し違う。

 砦の影よりも“薄い”ですわね」


「そう。

 王都の影は、まだ完全には姿を現していない。

 だが、確実に“近づいている”」


 リゼットは不安そうにガイアスを見る。


「団長さん……王都、大丈夫かな……」


「大丈夫だ。

 俺たちがいる」


 ガイアスの声は静かだが、揺るぎない。


「リゼット」


 カシアンが真剣な表情で言った。


「王都の病は、影の影響を受けている可能性が高い。

 あなたの料理は、魔力の巡りを整える。

 つまり――影の干渉を弱める効果がある」


「えっ……そんな……!」


「だからこそ、お願いしたい。

 王宮の医務室だけでなく、

 “魔力停滞地点”にも料理を届けてほしい」


「魔力停滞地点……?」


「影の痕跡が残っている場所だ」


 リゼットは一瞬迷ったが、

 すぐに顔を上げた。


「……はい。

 私にできることなら、やります!」


 カシアンは満足そうに微笑んだ。


「ありがとう。

 あなたの力が、王都を救う鍵になる」


 その夜。


 王宮の外壁の上で、

 黒い影がゆらりと揺れた。


「……料理、か」


 影はかすかに笑う。


「面白い。

 ならば――試してみよう」


 影は王都の闇に溶け、

 静かに姿を消した。


 王都の冬は、さらに深い闇を孕み始めていた。



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