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『追放された野生の天才料理人、騎士団の胃袋を掴む ~「魔物を煮込むな!」と追い出されたのに、堅物公爵の理性を粉砕しています~』  作者: にゃん
第4章 新たなる足音

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第61話:冬の王都、沈む気配


 王都へ続く街道は、いつもなら商人や旅人で賑わっている。

 だが、この日はどこか“静かすぎた”。


「……なんか、変ですね」


 リゼットが馬上で首をかしげる。


「冬だから、というだけではないな」


 ガイアスは周囲を見渡しながら答えた。

 人がいないわけではない。

 ただ、歩く者たちの足取りが重く、声が小さい。


 ミレイユは空気を感じ取るように目を細めた。


「魔力の流れが……少し乱れていますわ。

 王都に近づくほど、空気が重くなっていきます」


「空気が重い……?」


「ええ。

 病が広がる前の“前兆”のようなものですわ」


 リゼットは背筋に寒気を覚えた。



 王都の巨大な城壁が見えてきた。

 門前には人の姿があるが、どこか落ち着きがない。


 商人たちは荷を抱え、ひそひそと話し合っている。

 兵士たちは交代で見張りに立っているが、どこか疲れた表情だ。


「団長さん、なんか……みんな元気がないですね」


「病が広がっている証拠だ。

 だが、まだ隣国ほど深刻ではない」


 ガイアスは門兵に声をかけた。


「王都の状況はどうだ?」


「……倒れる者が出始めていますが、まだ軽症です。

 ただ、原因が分からず……皆、不安がっております」


 兵士はしっかり立っているが、目の下に薄い隈があった。


「なるほど……“静かな混乱”ですね」


 ミレイユが小さく呟いた。



 門をくぐると、王都の異変はさらに明らかだった。


- 市場は開いているが、客が少ない

- 人々は声を潜めて話す

- 露店の食べ物は売れ残りが目立つ

- 子どもたちの姿が少ない

- 遠くで鐘の音がゆっくりと鳴っている


「……こんな王都、初めて見ました」


 リゼットは思わず呟いた。


「病が広がる前の“静けさ”だ」


 ガイアスの声は低い。


「宰相が俺たちを呼んだのは……そういうことだ」


 ミレイユは街の空気を感じ取るように目を閉じた。


「魔力の流れが乱れていますが、まだ致命的ではありません。

 今なら……間に合いますわ」


「間に合う……?」


「ええ。

 隣国のように“崩壊”する前に、手を打てば」


 リゼットは唇を噛んだ。


「じゃあ、料理で少しでも良くなるなら……」


「リゼット」


 ガイアスが静かに言った。


「お前の料理は、ただの料理ではない。

 王都の希望だ」


 リゼットは小さく頷いた。



 王都の中心部へ向かう途中、

 一人の兵士が駆け寄ってきた。


「ガイアス団長! リゼット殿!

 宰相閣下がお待ちです!

 至急、王城へ!」


「……やはり、ただ事ではないな」


 ガイアスは馬の手綱を握り直した。


 リゼットは深呼吸をし、

 ミレイユは魔力を整える。


 王城の塔が、冬空の下で重々しくそびえていた。


 その姿は、まるで


 沈みゆく前に助けを求める王都


 のように見えた。


 王城の廊下は、冬の冷気が染み込んだように静かだった。

 侍従たちは慌ただしく動いているが、どこか落ち着きがない。

 それでも、隣国のような混乱はない。

 ただ――空気が重い。


「……王都も、なんだか息苦しいですね」


 リゼットが小声で呟く。


「病が広がる前の“前兆”だ。

 まだ深刻ではないが、放置すれば危険だ」


 ガイアスの声は低いが、焦りはない。

 ただ、状況を正確に見極めようとしている。


 ミレイユは廊下の空気を感じ取るように目を細めた。


「魔力の流れが乱れていますが……隣国ほど深刻ではありませんわ。

 まだ“揺らぎ”の段階です」


「揺らぎ……?」


「ええ。

 魔力が弱っている者が増えている、という程度ですわ。

 倒れるほどではありません」


 リゼットは胸を撫で下ろした。



 侍従に案内され、三人は宰相の執務室へ通された。


 扉が開くと、宰相は机に広げられた書類の山を前に、深い溜息をついていた。

 だが、ガイアスとリゼットの姿を見ると、すぐに立ち上がる。


「ガイアス、よく来てくれた。

 そして……リゼット殿。再び力を借りることになり、申し訳ない」


「い、いえ! お役に立てるなら……!」


 リゼットは慌てて頭を下げた。


 宰相は疲れた目を細め、二人を見つめる。


「王都では、原因不明の体調不良が広がっている。

 だが、隣国のように倒れる者はまだ少ない。

 症状も軽い。

 ただ……魔術師団が“魔力の流れの乱れ”を確認している」


 ミレイユが頷く。


「やはり……隣国の病とは“性質が違う”のですね」


「その通りだ」


 宰相は机の上の書類を指で叩いた。


「隣国の病は急性で、魔力の断絶が起きていた。

 だが王都の病は慢性だ。

 魔力が弱り、巡りが悪くなっているだけだ。

 ……今なら、まだ間に合う」


 ガイアスが腕を組む。


「原因は?」


「分からん。

 だが、食文化の偏りが一因ではないかという意見もある。

 王都では近年、加工食品や保存食が増えた。

 魔力を巡らせる“自然の食”が減っている」


 リゼットは目を丸くした。


「えっ……食べ物で魔力が弱るんですか?」


「魔術師団はそう見ている。

 そして――」


 宰相はリゼットを真っ直ぐに見た。


「隣国の民を救った“あなたの料理”が、

 王都の病にも効果がある可能性が高い」


「……!」


 リゼットは思わず息を呑んだ。



「ガイアス」


 宰相は真剣な表情で言った。


「王都の治安も不安定になりつつある。

 病の不安が広がれば、民は動揺する。

 あなたには、王都の警備と状況把握を任せたい」


「承知した」


「そして……」


 宰相は少し声を落とした。


「王都でも“影”の目撃情報がある」


 ガイアスの表情がわずかに変わる。


「影……」


「正体は不明だ。

 だが、魔力の揺らぎと同じ時期に現れ始めた。

 隣国の影と関係があるのか、別の勢力なのか……まだ分からん」


 ミレイユが小さく呟く。


「……やはり、何者かが動いていますわね」




「リゼット殿」


 宰相は深く頭を下げた。


「王都の病を抑えるため、

 あなたの料理の力を借りたい。

 王宮の医務室で、病の者たちに食事を作ってほしい」


「……私で、いいんですか?」


「あなたしかいない」


 宰相の声は重く、しかし希望を含んでいた。


「王都はまだ崩れていない。

 今なら救える。

 どうか……力を貸してほしい」


 リゼットは拳を握り、力強く頷いた。


「はい! やります!

 みんなが元気になるように、いっぱい作ります!」


 ガイアスはその横顔を見て、静かに微笑んだ。



 会談が終わり、三人が執務室を出ると、

 廊下の奥で“何か”が揺れた。


 風か、光の反射か。

 だがミレイユは立ち止まり、目を細める。


「……魔力の残滓。

 砦で見たものと……似ている」


「影か?」


「断定はできませんわ。

 ただ……王都にも“来ている”のは確かです」


 リゼットは思わずガイアスの袖を掴んだ。


「団長さん……」


「大丈夫だ。

 俺がいる」


 ガイアスの声は静かだが、確かな強さがあった。


 王都の冬は、静かに、しかし確実に“動き始めていた”。






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